2021/06/18

真城朔
昼下がりにエプロン姿。
電子レンジを眺めている。
真城朔
スマホ片手に予熱など確認して……
真城朔
「180度」
真城朔
「で」
真城朔
つまみをそのように調整し……
真城朔
バターを刻んでいるミツルを振り返った。
夜高ミツル
無塩バターを小さく刻んでいる。
真城朔
ミツルの方へと歩み寄る。
真城朔
「予熱」
真城朔
「した」
真城朔
今日はおやつにスコーンを作る。
真城朔
そのように二人で決めた日。
夜高ミツル
「ん、ありがと」
夜高ミツル
傍らにボウルに入ったホットケーキミックス。
夜高ミツル
それと、小皿に大さじ二杯分の牛乳。
真城朔
本格的なやつはよくわからないので、ホットケーキで作れるレシピをネットで探した。
真城朔
「俺」
真城朔
「あとは、えっと」
真城朔
「生クリーム……?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
バターを刻み終わって、包丁を置く。
真城朔
「振る」
真城朔
ミツルに頷き返して、冷蔵庫へと向かった。
真城朔
中から生クリームのパックを取り出す。脂肪分多めのやつ。
真城朔
ジャムとかクロテッドクリームをつけるとそれっぽいらしいので用意しようと思ったのだが、
真城朔
クロテッドクリームは見つからなかった。
夜高ミツル
スーパーには売ってなかった……
真城朔
ので、生クリームで代用するレシピをこれまた探して……
真城朔
作ろうとしています。百均で買ってちゃんと煮沸消毒した瓶で。
真城朔
瓶に生クリームを入れて5分振ればいいらしい。
夜高ミツル
お手軽。
真城朔
さすがに真城もこの手順にレシピをいちいち確認しなくていいので、
真城朔
割と迷いなく瓶に生クリームを注いでおります。
真城朔
とっとっとっとっ……
夜高ミツル
その様子を横目に見つつ、ボウルにバターを投入する。
夜高ミツル
バターのかけらをつぶすように、ヘラで混ぜていく。
真城朔
瓶に生クリームを注いで、蓋をしめる。
真城朔
きちんと……力いっぱい……漏れないように……しっかり。
真城朔
締めまして。
夜高ミツル
えいえいとバターを潰している。
真城朔
両手で底と蓋を押さえるようにしてしゃかしゃかと振りながら、
真城朔
ミツルの方へと戻ってくる。
真城朔
バターを潰している……
真城朔
潰し……
夜高ミツル
つぶしつぶし……
真城朔
「……なんか」
夜高ミツル
丁寧に潰している。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「たいへんそう」
真城朔
「潰れる……?」
夜高ミツル
「多分……」
夜高ミツル
粉に埋もれたバターの欠片は見つけづらい。
真城朔
「バター」
真城朔
「温めないの」
真城朔
「珍しいね」
夜高ミツル
滑るし……
夜高ミツル
「な」
真城朔
言いながらしゃかしゃかとクリームを振ってます。
夜高ミツル
「常温で放置してとか、レンジで溶かしてとか……」
夜高ミツル
「そういうのしないんだよな」
真城朔
「大雑把にやるのがいいって……」
真城朔
大雑把……?
真城朔
振りながら首を傾げた。
夜高ミツル
ボウルを揺すって、バターのつぶし残しがないか確認している。
夜高ミツル
「おおざっぱ……」
真城朔
「潰れてる?」
夜高ミツル
むずかしい顔になった。
真城朔
横から覗き込んだ。
真城朔
しゃかしゃかしながらだからちょっと控えめに。
夜高ミツル
「多分……?」
夜高ミツル
ボウルを傾けている。
真城朔
「たぶん……」
真城朔
よくわからない……
夜高ミツル
「大きな塊はないから」
夜高ミツル
「多分、大丈夫……」
夜高ミツル
おおざっぱが分からなくて首を捻っている。
真城朔
「だいじょうぶ……」
真城朔
しゃかしゃか……
真城朔
並んで首をひねった。
真城朔
真城は真城で、
真城朔
一度手を止めて横から瓶の様子を眺めてみたり傾けてみたりする。
真城朔
うーん……
真城朔
ただの生クリーム……
夜高ミツル
「どんな?」
夜高ミツル
横から覗き込む。
真城朔
「なんか」
真城朔
「まだ液体……」
真城朔
クロテッドクリームはもっとクリームっぽくなるはずで……
夜高ミツル
気持ちとろっとしてきたくらいの……
真城朔
クロテッドクリームのことよく知らないけど……
夜高ミツル
「あー」
真城朔
「脂肪分」
真城朔
「足りなかったかな……」
真城朔
ネットのレシピよりもちょっと低かった。
真城朔
45%、見つからなかったので……
夜高ミツル
「とりあえずもうちょい振ってみるか……?」
真城朔
「そうする」
真城朔
頷いた。
真城朔
しゃかしゃかを再開……
夜高ミツル
ミツルの方もボウルに向き直る。
夜高ミツル
牛乳を入れた小皿を取る。
真城朔
しゃかしゃかしてると手元は塞がるが、そんなに注意を払う作業でもないので……
夜高ミツル
大さじ2、少なすぎないか……?
真城朔
視線はミツルの方を向いている。
夜高ミツル
不安になって測るときに何回もレシピを確認した。
真城朔
粉に対する液体の比率としてはあまりにも少ない感じがするこの大さじ2。
夜高ミツル
何回確認しても大さじ2って書いてあった。
真城朔
大さじ2……
真城朔
これでちゃんとまとまるのだろうか……
真城朔
クロテッドクリームはなかなか固まらないし……
真城朔
不安が立ち込めてきた。
真城朔
スコーンは大雑把に簡単にやるといいというようなのを聞いたような気がするが……
夜高ミツル
ちょっとずつ加える、と書いてあったので、ちろっと牛乳をボウルに垂らす。
夜高ミツル
切るように混ぜ……
真城朔
乾咲さんの家で出ていたあれはかなりの高等技術によるものだったということが再確認されている。
夜高ミツル
また牛乳を足し……
真城朔
大さじ2をちょっとずつっていうのがもはやという感じがある。
真城朔
ちょっとをさらにちょっとずつ……?
夜高ミツル
粉にちまちまと牛乳を落としては混ぜている。
夜高ミツル
さくさく……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……やっぱ牛乳少なくないか…………?」
夜高ミツル
これは生地っていうか……
真城朔
「大さじ2……」
夜高ミツル
生地というにはあまりにボロボロしているような……
真城朔
「……ふ」
夜高ミツル
「でもレシピどおりなんだよな……」
真城朔
「ふやす……?」
真城朔
首を傾げた。
真城朔
生クリームの瓶を振りながら。
夜高ミツル
同じく首を傾げている。
夜高ミツル
「増やしても大丈夫って書いてあったし……」
夜高ミツル
「ちょっと足してみるか……」
真城朔
「ちょっとだけ……」
真城朔
ただでさえちょっとだけど……
夜高ミツル
振り向いて、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
真城朔
しゃかしゃかしながら見守っている。
夜高ミツル
大さじを取って、1杯分測って小皿に足す。
夜高ミツル
ちま……
夜高ミツル
これでもやっぱり粉の量に対して少ないのでは……?という気持ちがある。
真城朔
でも1.5倍。
夜高ミツル
そうなんだよなあ
真城朔
大さじ1くわえたら1.5倍。
真城朔
2くわえたら2倍。
夜高ミツル
牛乳を冷蔵庫に戻して、再びボウルの前に。
真城朔
その間もしゃかしゃかと瓶をやっていたが……
夜高ミツル
小皿を取ってまたちまちまと足しつつ、ヘラで粉を混ぜていく。
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……?」
真城朔
なにかに気付いたようにはたと手を止めた。
真城朔
瓶を見ている……
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
じー……
真城朔
見ていたが、ミツルの視線に気付いて目を向け、
真城朔
「なんか」
真城朔
「振ってる感じじゃなくなって……」
真城朔
ミツルへと瓶を差し出したが、まあ当然に真っ白。
夜高ミツル
白い。
夜高ミツル
「できたんじゃないか?」
真城朔
逆に言うと、さっきみたいに液体が偏って薄くなってる感じのところがない。
真城朔
「できた」
真城朔
「かな?」
真城朔
蓋に手をかけ……
真城朔
力を込めて
真城朔
かぱっ
真城朔
しっかり締めたのでちょっと大変だったけど、あきました。
真城朔
覗き込み……
真城朔
「あ」
夜高ミツル
一緒に中を覗き込む。
真城朔
「クリーム」
夜高ミツル
「おー」
真城朔
「なってる……?」
真城朔
半固形状。
夜高ミツル
「クリームだ」
夜高ミツル
「なってるなってる」
真城朔
半固形ってほどでもないけど、とにかくクリーム。
真城朔
「クリーム」
真城朔
「なった……」
真城朔
「…………」
真城朔
ちょっと試しに指ですくってみる。
真城朔
軽く角が立つ感じのクリームがすくわれ……
夜高ミツル
おお……
真城朔
その指をミツルの口元へと差し出した。
夜高ミツル
はた……
真城朔
じ……
夜高ミツル
一瞬かたまって、
夜高ミツル
差し出された指先を、おずおずと口先に含む。
真城朔
含まれます。
真城朔
見ている……
真城朔
「どう?」
夜高ミツル
クリームを舐め取り、口を離して……
夜高ミツル
「…………クリームの味がする」
夜高ミツル
当たり前の感想が出てきた。
真城朔
「クリームの味……」
真城朔
見下ろしている……
夜高ミツル
「甘くないクリーム……」
真城朔
違う指ですくってぺろりと舐める。
真城朔
首を傾げた。
真城朔
「あまく」
真城朔
「ない……」
真城朔
見た目は生クリームって感じだけど……
夜高ミツル
「砂糖入れてないもんな……」
真城朔
砂糖の入っていない生クリームは甘くないのだ。
真城朔
「甘いのと食べたら」
真城朔
「ちょうどいい?」
夜高ミツル
「そんな感じだと思う」
真城朔
「スコーンと」
真城朔
「食べたら……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
すっかり手が止まっているのを咎めるように、レンジが予熱完了を知らせる。
真城朔
ちーん。
真城朔
あっ……になった。
夜高ミツル
あ……
真城朔
「クリーム」
真城朔
「盛る……」
真城朔
「あ、あと」
真城朔
「準備……」
真城朔
「えーと」
真城朔
「天板」
真城朔
「クッキングシート」
真城朔
「とか」
夜高ミツル
「これから焼くから、クリームはまだ冷蔵庫に入れててもいいかも」
真城朔
瓶を片手で盛ってするになっている。
真城朔
「あ」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「する」
真城朔
「準備……」
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
頷いた。
真城朔
ぱたぱた……
真城朔
とりあえず手を洗いに行きます。
真城朔
舐めたので……
夜高ミツル
ボウルの中の、いまいち生地っぽくない生地と向き合う。
夜高ミツル
とりあえず……手でまとめてしまおう!
夜高ミツル
一応改めて手を洗ってから、生地を手でぎゅっとまとめる。
夜高ミツル
ぎゅ……
真城朔
ミツルがやっている間に細々とやっています。
真城朔
クリームの瓶を締めて冷蔵庫に戻して、
夜高ミツル
押すとなんか生地らしくなってきた気がする。
真城朔
レンジには予熱をもうちょっと長く続けてもらって、
夜高ミツル
ちゃんと……一つの塊に……
真城朔
天板をキッチン台に置いてクッキングシートを敷き……
真城朔
真城朔
敷き……
真城朔
まるくなる……
真城朔
ひっくり返した。
夜高ミツル
生地を六等分に分け……
真城朔
端っこを折り曲げてよいしょよいしょと伸ばしています。
真城朔
他になんかすることないかスマホのレシピを眺め……
真城朔
ミツルの方を見る。
真城朔
「生地」
真城朔
「なった?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
準備してもらったクッキングシートの上に、生地を乗せていく。
真城朔
乗っていくまるい生地を見ている。
真城朔
「これが」
真城朔
「スコーンに……」
夜高ミツル
「なるはず……」
夜高ミツル
まるい生地が6個乗りました。
真城朔
てんてんと。
真城朔
「えーと……」
真城朔
レシピを見ます。
真城朔
「17分」
真城朔
「だって」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
電子レンジの扉をあけます。
真城朔
オーブンモードで予熱がされているのでじんわりと熱が伝わってくる。
夜高ミツル
スコーンの乗った天板を設置する。
夜高ミツル
扉を閉め……
夜高ミツル
「17分……」
夜高ミツル
ぴっぴっぴっ……
真城朔
「17分」
真城朔
横から見ています。
真城朔
「膨らむ」
真城朔
「のかな……?」
真城朔
言ってて首をひねった。
真城朔
スコーンって膨らんでたっけ?
夜高ミツル
17分にセットし
真城朔
膨らむお菓子だったっけ……?
夜高ミツル
「ん~……」
真城朔
よく覚えてない……
夜高ミツル
「写真見た感じだとそんなに膨らまなさそう」
真城朔
「膨らまなかった」
真城朔
「焼ける……」
真城朔
クッキーみたいな感じだろうか……とぼんやりレンジの扉越しの生地を見ている。
夜高ミツル
「乾咲さんちで出てきたやつは、なんか膨らんでたけど」
夜高ミツル
「ミックス使うとあんま膨らまないのか……?」
夜高ミツル
首を捻っている。
真城朔
「わかんない……」
真城朔
なにもわからない……
真城朔
「…………」
真城朔
「今度」
真城朔
「訊いてみる……?」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「あれ絶対買ってきたとかじゃないもんな」
夜高ミツル
「コツとか教えてくれるかも」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
そんな話をしている間も、オーブンで生地が焼かれつつある。
夜高ミツル
ブーン……
真城朔
じー……
真城朔
頭を突き合わせて電子レンジを覗き込んでいる……
真城朔
焼けてる……?
真城朔
あんまり代わり映えしないものをぼんやりと眺めながら時間を過ごせる二人。
夜高ミツル
まじまじ……
真城朔
焼けてるのかな……まだかな……
真城朔
などとぼんやりしていたが……
真城朔
「あ」
真城朔
「ちょっと甘い匂い」
真城朔
「してきた……?」
夜高ミツル
「確かに」
夜高ミツル
「焼けてきてるな……」
真城朔
「焼けてる……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
見た目にはそんなに変化ないように見えるけど……
真城朔
匂いはたぶん……裏切らない……
真城朔
「クリームとか」
真城朔
「準備する?」
真城朔
「ジャム……」
真城朔
「あ、紅茶」
真城朔
紅茶はちょっと早い……?
夜高ミツル
「あ、そうだな」
真城朔
「カップ」
真城朔
「あったかくとか……」
夜高ミツル
「お湯沸かさないと」
真城朔
するといい気がするし……
真城朔
「しよう」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「うん」
真城朔
というわけで二人それぞれ……
真城朔
クリームを まあこれくらいかな? って量器に盛ってみたり
夜高ミツル
お茶の準備をしたり……
真城朔
ジャムの瓶を出してスプーンを添えたり……
夜高ミツル
ヤカンを火にかけ、カップを出し
真城朔
おしぼりも準備する……
夜高ミツル
ボウルを洗ったり、
夜高ミツル
洗ってる間にお湯が沸いたのでカップを温め……
真城朔
食卓を整えています。
真城朔
ティータイムの準備だ!
夜高ミツル
しっかり温めたカップに紅茶を淹れて、食卓に持っていく。
夜高ミツル
ティーパックのタグがゆらゆら揺れている。
真城朔
さすがにちゃんとした紅茶セットはハードルが高い。
真城朔
食卓で準備をしながらミツルを待っていたが……
真城朔
電子レンジの音が鳴った。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「お」
真城朔
腰を上げる。
夜高ミツル
カップをテーブルに置く。
真城朔
「焼けた」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
二人で見に行くぞ。
夜高ミツル
二人でいそいそとレンジの方に……
真城朔
ずっと甘い匂いが漂っている。
真城朔
何かが焼けている感じの匂いが……
夜高ミツル
焼けてる匂いだな~
夜高ミツル
ワクワクとレンジの扉を開ける。
夜高ミツル
「お~」
真城朔
「焼けてる?」
真城朔
見ている。
夜高ミツル
「焼けてる焼けてる」
真城朔
「焼けてる……」
真城朔
丸くてころころしたものが焼けている。
真城朔
「あ」
真城朔
「お皿」
夜高ミツル
甘い匂いが一層台所に漂っている。
真城朔
とってきます。
真城朔
戸棚から丸くて白い平皿を持ってくる。
真城朔
「あ、あと」
真城朔
「えーと……」
真城朔
台ふきんを濡らして絞って……
真城朔
キッチン台に置いた。
真城朔
天板置く用
夜高ミツル
ミトンをつけて、天板を掴む。
真城朔
じー……
夜高ミツル
丸い焼き菓子の乗った天板を、台ふきんの上に置いた。
真城朔
しゅー……
真城朔
熱い天板の下で濡れた台ふきんが乾かされていく音がする……
夜高ミツル
「できてる……」
真城朔
「できてる」
真城朔
「スコーン……」
真城朔
まるまるころころと6個。
夜高ミツル
ミトンを外して、元の場所に戻す。
真城朔
まるまるころころ……
真城朔
まるまるころころ?
真城朔
ちょっとだけ首を傾げた。
夜高ミツル
まる……
真城朔
よく考えると……
真城朔
乾咲さんちのってあんまりまるまるころころじゃなかったな……
夜高ミツル
でもレシピの写真にはちゃんと近いと思う……
真城朔
今回は……
真城朔
まるまるころころのスコーンということ……
真城朔
眺めていたが……
真城朔
「あ」
真城朔
はたと目を瞬いた。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「紅茶」
真城朔
「いれっぱなし……」
真城朔
だったような……
夜高ミツル
「あ……」
夜高ミツル
いそいそと平皿にスコーンを移す。
真城朔
適当なお皿を取ってぱたぱたリビングに戻ります。
夜高ミツル
スコーンを持っていき……
真城朔
色の濃くなった紅茶の入ったカップからティーバッグを引き上げている。
真城朔
お皿に並べ並べ……
真城朔
「た」
真城朔
「たぶん」
真城朔
「セーフ?」
夜高ミツル
「濃かったらお湯足せばいいし……」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
あんまり良くない気がしなくもないけど……
夜高ミツル
いいだろう……
真城朔
ちょっと濃いくらいならむしろお菓子に合うかもだし……
真城朔
わかんないけど……
真城朔
なんにせよほかほかのスコーンが。
夜高ミツル
あります。
真城朔
まるまるほかほかのスコーンとちょっと濃い紅茶と、クロテッドクリームとジャム。
真城朔
そういったものの並べられた食卓に二人で座る。
夜高ミツル
座り……
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
ティータイムでもやっちゃう。日本人だから。
夜高ミツル
やっちゃう
真城朔
とりあえずおずおずとスコーンを取ってみる。
真城朔
ほかほか……
夜高ミツル
ジャムの瓶を開けて、スプーンで真城の皿に乗せる。
真城朔
「あ」
真城朔
「ありがとう」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
プレーンないちごジャム。
夜高ミツル
自分の皿にも盛る。
真城朔
ちょっと迷ったけど、とりあえずそのまま……
真城朔
半分に割ってから、食べてみる。
真城朔
もぐむぐ……
夜高ミツル
眺めながら、自分も一つ手に取る。
夜高ミツル
ほかほかしてる。
真城朔
「ん」
真城朔
もぐむぐしながら紅茶を一口した。
夜高ミツル
「どう?」
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
尋ねつつ、スコーンを割る。
真城朔
「お菓子」
真城朔
「焼きたて……」
真城朔
「焼きたてで食べられるの」
夜高ミツル
「すぐ食えるの嬉しいよなー」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
被った。
夜高ミツル
焼いてから3日間置けとか言われない。
夜高ミツル
割ったスコーンを口に運ぶ。
夜高ミツル
もふ……
真城朔
じー……
夜高ミツル
もふもふ……
夜高ミツル
…………?
真城朔
見ています。
夜高ミツル
紅茶を一口飲み……
真城朔
当然のように手も口も止まっている。
夜高ミツル
飲み込み……
夜高ミツル
「うまい」
夜高ミツル
「うまいけど、なんか」
夜高ミツル
首をひねる。
真城朔
「?」
真城朔
合わせてひねりました。
夜高ミツル
「乾咲さんの家で食べたのと違う感じがする……」
真城朔
「ちがう……」
真城朔
平皿に並んだ4個のまるころを見る。
真城朔
「……見た目から」
真城朔
「違うし……?」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「乾咲さんち」
真城朔
「たぶん」
真城朔
「ホットケーキミックスとか」
真城朔
「使わない……」
真城朔
紅茶を一口。
真城朔
ちょっと濃い気がしてきた。
夜高ミツル
「だよなあ」
真城朔
「これは」
真城朔
「こういうスコーン」
真城朔
「って、感じの……」
夜高ミツル
「そうだな……」
夜高ミツル
「うまいしな」
夜高ミツル
「うまいからいっか」
真城朔
手元のスコーンの1/4にミツルにとってもらったジャムを塗ってます。
真城朔
「うん」
真城朔
ぱくっと食べる。
真城朔
もぐむぐ
夜高ミツル
じ……
真城朔
水分奪われて紅茶がほしくなるのは共通。
真城朔
飲み込んでから……
真城朔
「おいしい」
真城朔
「よ」
真城朔
「ほかほか……」
真城朔
「ジャム」
真城朔
「合うし」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「俺もつけよ」
真城朔
じー
夜高ミツル
ジャムを塗り……
夜高ミツル
「こっちも」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
クリームも乗せる。
夜高ミツル
ぜいたく!
真城朔
「両方……」
真城朔
ぜいたくだなあ。
真城朔
真城もちょっとクリームを取ってみました。
真城朔
甘くないクリームをスコーンに乗せる。
夜高ミツル
ぜいたくなスコーンを口に運ぶ。
真城朔
こっちはとりあえずクリーム単で……
真城朔
ぱく
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
お互いを見ながらもぐもぐしている……
夜高ミツル
しているなあ
夜高ミツル
紅茶を飲みます。
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「合うな、クリームもジャムも」
真城朔
「ん……」
真城朔
にこにこ頷いてから、遅れて紅茶を飲んでいる。
真城朔
「なんか」
真城朔
「高級感する」
夜高ミツル
「するなー」
真城朔
ホットケーキミックスで作ったスコーン、
真城朔
出来合いのジャムと生クリームで代替したクロテッドクリーム、
真城朔
ちょっと濃い目に淹れすぎた紅茶だけど。
夜高ミツル
二人で作って、二人で食べている。
真城朔
「それっぽさ」
真城朔
「あるし」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「アフタヌーンティーみたいな……」
真城朔
アフタヌーンティーだが……
真城朔
アフタヌーンにティータイムしてる。
夜高ミツル
「今度スコーン以外にも用意してみてもいいかもな」
真城朔
「以外?」
夜高ミツル
「乾咲さんちでもなんか色々あったし……」
夜高ミツル
「サンドイッチとか……?」
真城朔
「サンドイッチ……」
真城朔
「あったら」
真城朔
「かなり」
真城朔
「ごはん……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「そうするなら昼にやる感じだなー」
真城朔
「お昼ごはん?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「すごい」
真城朔
「優雅な感じ」
夜高ミツル
「準備と片付けは大変そうだけどな」
夜高ミツル
笑う。
夜高ミツル
「食ってる間は優雅」
真城朔
「大変」
真城朔
「だけど」
真城朔
「楽しいよ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「サンドイッチはもつし……」
真城朔
「あれなら」
真城朔
「クッキーとか」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「買う……焼く?」
真城朔
焼けるかな……
真城朔
地味にまだクッキーやったことない……
夜高ミツル
「調べて、やれそうだったら焼いてみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく
真城朔
「やってみよ」
真城朔
「色々……」
真城朔
手元のスコーンの残りのひとかけらに、
真城朔
ジャムとクロテッドクリームを乗せてみる。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ぜいたく盛りを作りながら。
夜高ミツル
2つ目のスコーンに手を伸ばす。
夜高ミツル
「あ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「皆川さんに写真撮って送ればよかった」
真城朔
ぜいたく盛りスコーンを口に運びかけたところで止まる。
真城朔
「あ」
真城朔
「うーん……」
真城朔
ちょっと考え込み……
真城朔
「今度」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「もっと、こう」
真城朔
「ちゃんとした感じで……?」
夜高ミツル
「豪勢にして……」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「次撮ろう次」
真城朔
「うん」
真城朔
また頷く。
真城朔
「次」
真城朔
「またね」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷いて、スコーンを割る。
真城朔
次とまたを当然のように数えながら、
真城朔
ぜいたくに盛ったスコーンを、今度こそ口に頬張った。