2021/07/24 深夜

noname
ST シーン表(10) > にぎやかな飲食店。騒ぐ人々に紛れつつ事態は進行する。
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馬鹿騒ぎの乱痴気騒ぎ。
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を、壁ひとつ隔てた路地裏。
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飲み屋の立ち並ぶ通りの裏で、魔女の痕跡を追うて二人歩き回る。
真城朔
真城のだらりと下げられた左腕から血が落ちて、
真城朔
ぽた、ぽたと暗いアスファルトを濡らしていた。
夜高ミツル
「……大丈夫か?」
夜高ミツル
その様を見て、気遣わしげに問いかける。
真城朔
ミツルを振り返る。
真城朔
軽く首を傾いで、
真城朔
「別に」
真城朔
「これくらい、は」
真城朔
他の狩人を庇って受けた傷だった。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
魔女は吸血鬼よりも性質が悪い。一般人を狙う魔女を追い払うために血戒を使いもした。
真城朔
裏切りの魔女。相は色欲。
真城朔
恋人たちの浮気心を煽って弄ぶ、とだけ言えばかわいらしいものにも思えるが、
真城朔
そういった他愛のない欲望から魔女が引き起こす惨禍のことはよく知っているため。
真城朔
存外短気で狩人に刃を向けることにも躊躇がないようだったし、素直にご退場願うべく今晩も狩りに勤しんでいる。
真城朔
表の飲み屋から人々の笑い声が響く。続く日常。表向きのもの。
真城朔
その裏で今日も狩人たちは蠢き、
真城朔
魔女を追うて二人でいる。
真城朔
血が、滴っている。
夜高ミツル
路地裏に、二人。
夜高ミツル
「真城」
真城朔
切り裂かれたパーカーからぱくりと口を開けた傷が見える。
夜高ミツル
真城の隣に歩み寄る。
真城朔
止血も億劫がってこうして魔女を追い続けているが、
真城朔
「?」
夜高ミツル
「血、飲んだ方がいいだろ」
真城朔
「…………」
真城朔
少し、眉を寄せた。
真城朔
ミツルから一歩退く。
真城朔
「まだ」
真城朔
「全然」
真城朔
「これくらい……」
夜高ミツル
「血戒も使ったろ」
真城朔
かばうように腕を抱く。
真城朔
「大した怪我じゃ」
真城朔
「ない、し」
真城朔
もごもごと抗弁するように言い募る。
夜高ミツル
退かれた一歩分を詰めて、
夜高ミツル
肩に手を置いて、抱き寄せる。
真城朔
それから逃れるようにまた一歩、
真城朔
退くより前に抱き寄せられる。
真城朔
きゅ、と目を閉じた。
夜高ミツル
「せめて、血が止まる程度だけでも……」
真城朔
唇を引き結んでいる。
真城朔
「……で」
真城朔
「でも……」
夜高ミツル
「俺は大丈夫だから」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「…………」
真城朔
躊躇うように瞼を上げて、
真城朔
ミツルを押し返すようにその肩を掴んで、
真城朔
しかし片腕が血に濡れている。
真城朔
ごく近くに、真城の血の匂いがある。
夜高ミツル
血の匂いなど、誰でも変わらないはずなのに
夜高ミツル
真城の血の匂いはいつだって、不思議とそれと分かる。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
何か続けようとした唇が、
真城朔
名を呼び返されてそこで止まる。
夜高ミツル
華奢な背中に腕を回す。
真城朔
「う」
真城朔
小さく声を漏らした。
真城朔
触れられた背中が緊張にこわばる。
真城朔
「か」
真城朔
「狩り」
真城朔
「いま……」
真城朔
抗弁の声も既に弱々しい。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「血、止めて」
夜高ミツル
「狩りに戻ろう」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
反対の手で、真城の頭を自分の首筋に寄せる。
真城朔
「ぅ」
真城朔
抗えず顔が埋まる。
夜高ミツル
密着している。
夜高ミツル
血の匂いが、より強く感じられる。
真城朔
幾度となく牙を立て、血を啜ってきたミツルの首に
真城朔
躊躇うように唇が触れた。
夜高ミツル
「……いいよ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「…………」
真城朔
逡巡に長く黙り込む。
真城朔
抱き込むようにミツルの背の側から肩を掴み、
真城朔
身を傾けて、
真城朔
やがて舌先がミツルの皮膚を濡らした。
真城朔
マーキングのように唾液で湿らせてから、
夜高ミツル
牙を立てやすいよう、力を抜く。
真城朔
慣れた場所に、いつものように、食らいつく。
真城朔
鋭い牙がミツルの皮膚を破る。
真城朔
柔らかい唇が触れている。
夜高ミツル
「…………っ、」
真城朔
つぷ、と溢れるその血潮を、
真城朔
熱い舌が舐め取っていく。
夜高ミツル
ひく、と真城を抱く指先が強ばる。
真城朔
牙の食い込む痛みがある。
真城朔
同じ場所に、愛撫に似た舌先の濡れた熱が触れる。
夜高ミツル
その痛みも、熱も、何度も受け入れてきた。
真城朔
滴る血液を舐め取っては、肉ごとに吸い上げて糧を得る。
真城朔
背に回る腕は容易く縋るものに変わる。
真城朔
情事に似た体重の傾け方、
真城朔
耳のごく近くで立つ濡れた音。
真城朔
よく知る愛咬のかたち。
夜高ミツル
血を吸い上げられて、すぅ、と体温の下がるような感覚。
夜高ミツル
それを追うように、内側から熱が湧き上がる。
真城朔
腕の中には熱心に熱烈にミツルを貪り耽溺する、
真城朔
夜毎に繰り返し愛した生き物の姿がある。
真城朔
血の匂いがする。
夜高ミツル
真城の熱を、体重を、受け止めている。
真城朔
自分のものではない血の匂いがある。
夜高ミツル
体を寄せ合っている。
真城朔
夢中になって血を啜っていた真城の牙が、不意に一度離れる。
真城朔
「……は」
真城朔
「ぁ、っ」
真城朔
濡れた肌に熱の篭もった吐息がかかる。
真城朔
傷口から溢れた血を舌先がすぐに拭って、
夜高ミツル
その感触に、ぞわりと背筋を震わせる。
真城朔
それが睦事の仕草と相違ないことを知っている。
真城朔
再びに唇が触れる。
真城朔
牙を立てることをやめて、
真城朔
自分の作った傷口を愛でるように唇で吸う。
夜高ミツル
「ん……、」
夜高ミツル
吐息が漏れる。
真城朔
腕の中の身体がぞく、と震えた。
真城朔
傾けられた体重が、細い身体が、
真城朔
何か求めるような明確な、けれど同時に不明瞭な意図でもって、
真城朔
受け止めるミツルの身体へと擦り寄せられる。
真城朔
縋る腕がミツルを引く。
夜高ミツル
「…………っ、」
真城朔
より強い密着を求めて力が籠もる。
真城朔
同時にまた傷口を、
真城朔
じゅう、と強く吸い上げて血を啜る。
夜高ミツル
それに応えるように、ミツルの腕にも力がこもる。
真城朔
再び、
真城朔
吐息が漏れた。
夜高ミツル
夜の街の喧騒は、もはや耳に入らない。
真城朔
ふたりだけの静寂の中で、
夜高ミツル
真城が漏らす吐息。傷口から立つ濡れた音。
真城朔
「ミツ」
真城朔
名を呼ぶ声がしんと響く。
夜高ミツル
「…………真城」
真城朔
腕はミツルを縋っている。
真城朔
身体はミツルに委ねている。
真城朔
声が、ミツルを呼んでいる。
夜高ミツル
求められて、いる。
真城朔
震える生き物の鼓動がある。
夜高ミツル
夜闇に浮かぶ白い頬に、そっと指を這わせる。
真城朔
「あ、……」
真城朔
ひくりと肌が震えて、しかしそれを拒まない。
真城朔
つい先程までミツルの血を啜っていた唇が濡れている。
真城朔
血色に妙に艶めいて、熱い吐息を漏らす唇。
夜高ミツル
自分の血の匂いに混じって、
夜高ミツル
真城の血の匂いが、なおも鮮烈で。
真城朔
縋るような指の仕草も、傾けられる身体の重みも、
真城朔
繰り返してきた情事の際のそれと限りなく近い。
真城朔
同一の熱。同一の挙措。
真城朔
紛れもなく求め続けた恋人の姿。
夜高ミツル
頬に手を添える仕草も、いつもと同じ。
夜高ミツル
濡れた唇に唇を寄せるのも、また。
真城朔
歓びをもってそれを受け入れてしまうのも変わらない。
真城朔
ミツルから与えられる全てのものに、
真城朔
からだのぜんぶでよろこんでいる。
真城朔
腕を回す。しがみつく。
真城朔
やがて離れた唇の合間に、
真城朔
「――ミツ」
真城朔
今度は明確な意図を以て、名を呼んだ。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
熱の篭もった声でそれに応えて
夜高ミツル
再び、唇を重ねた。