2021/07/25 早朝

真城朔
玄関の扉を閉める。
真城朔
パーカーは血で汚れている。
真城朔
左腕の部分を切り裂かれているが、
真城朔
そこから覗く白い素肌は今は綺麗に傷もなく。
夜高ミツル
それには安堵しつつ、武装を外してブルーシートの上に置く。
真城朔
かちゃかちゃ……
夜高ミツル
今回はあまり汚れていない。
真城朔
真城も同じようにベルトを外している。
真城朔
相手が魔女なので、返り血が尽く霧散した。
真城朔
後始末が楽でいい、と思う。
真城朔
物理的な方は。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
話さなければいけないことは色々あるが。
夜高ミツル
「…………とりあえず」
夜高ミツル
「風呂、入るか?」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
服を脱いで、風呂場。
真城朔
手痛い傷を負わされることもあれ以降なく。
真城朔
血を吸わせてもらったから傷も塞がったし、血戒も存分に使えたし……
真城朔
使えたのだけれど……
夜高ミツル
シャワーで汚れを流していく。
夜高ミツル
傷口の塞がった腕にこびりついた血と、それから、
夜高ミツル
体を重ねた、跡。
真城朔
結局あのあと、狩りの最中であることも忘れて熱烈に身体を重ねてしまった。
真城朔
ミツルの背中に縋って啼いていた記憶がばっちりある。
夜高ミツル
「……背中、とか」
夜高ミツル
「擦ったりしなかったか?」
真城朔
ふるふると首を振る。
真城朔
「ミツが」
真城朔
「すぐに、……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
真城が痛くないよう気を回していた記憶は、ある。
夜高ミツル
「そ、っか」
真城朔
細く頼りない身体を抱くようにして俯いている。
夜高ミツル
今にして思えば、もっと根本的に気を回せなかったのか……という感じだが……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
浴室にシャワーの音が響いている。
真城朔
魔女が相手だったから、とか、血が出ていたから、とか、
真城朔
言い訳はいくらでも立つが、やらかしたことはやらかしたこと。
真城朔
しかも今回は色欲の相の魔女が相手。
真城朔
当然に見抜かれていたどころか、
真城朔
他の狩人の前で暴露すらされた。
真城朔
一応……皆魔女狩人ということで……狩りには貢献したし……
夜高ミツル
仕事は……した……
真城朔
まあそういうことも……みたいな空気感ではあったけども……
真城朔
しょぼ……
真城朔
反省と落ち込みの両方の気配がある。
夜高ミツル
ミツルの方も、似たような心境。
夜高ミツル
自分はともかく、真城を好奇の目に晒してしまった。
夜高ミツル
責められこそしなかったものの……
真城朔
まあ……
真城朔
してたからには、そういう目を向けられるのは……
真城朔
事実だし……事実だから……
真城朔
しょぼしょぼ
夜高ミツル
事実では……ある……
真城朔
しょんぼりしています。
真城朔
シャワーが汚れた身体を叩き、水滴となって転がり落ちていく。
真城朔
浴室に蒸気が立ち込めていく。
夜高ミツル
あらかた汚れを流したところで、一旦シャワーを止めてフックにかける。
真城朔
どこか落ち着かない様子でミツルを見る。
夜高ミツル
努めて普段どおりにしている。
真城朔
あまり普段どおりにできていない。
夜高ミツル
普段どおりにするので、普段どおりミツルが真城を洗うことになる。
夜高ミツル
普段そうしているため……
真城朔
普段からそうしているのである。
夜高ミツル
手のひらでシャンプーを泡立てて、まずは頭を洗う。
真城朔
おとなしくされています。
夜高ミツル
あわあわ……
真城朔
当初はどうして洗わせているんだろう……くらいの疑問があったが
真城朔
今は当然に受け入れてしまっている……
真城朔
そういうものになっている。
夜高ミツル
そういうものになりました。
夜高ミツル
あわあわにした真城の頭を、シャワーで流していく。
真城朔
じゃぶじゃぶ
夜高ミツル
狩りのあとなのでトリートメントまではしない。
夜高ミツル
さっと上がってひとまず寝ようという感じで……
真城朔
きれいにできればそれでいい……
夜高ミツル
頭を流し終えて、今度はボディタオルを泡立てる。
真城朔
濡れた顔を手でこしこしとやっている
夜高ミツル
それが落ちついたところで、背中から洗っていく。
真城朔
洗われています……
夜高ミツル
洗いながら、擦り傷などついていないのを改めて確かめる。
真城朔
負った傷は血を得て治したし、それ以降はなんとか対応できた。
真城朔
性質は悪いけど直情的な魔女だったから……
真城朔
バラされたけど……
夜高ミツル
思いっきりバラされた。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
あの後怪我を負わずに済んだのは、まあ、不幸中の幸いだろうか……
真城朔
自分たちが手を拱いたことでこれから浮気騒ぎが増えることはあるだろうが……
真城朔
あるだろうなあ……
真城朔
思い出してしょんぼりしてきました。
夜高ミツル
しょんぼりさせてしまっている……。
夜高ミツル
不甲斐ない。
真城朔
「ん、っ」
真城朔
ふいにぴく、と身が跳ねる。
夜高ミツル
「真城?」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
手が止まる。
真城朔
視線が彷徨った。彷徨っている。
真城朔
「……な」
真城朔
「なんでも」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
怪我ならば、この状態で隠せるはずもなく。
夜高ミツル
となると……心当たりは…………まあ…………
真城朔
視線を落として膝をすり合わせている。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
頷いて、また手を動かす。
夜高ミツル
あまり丁寧にしすぎないように。
真城朔
肩に力が入っているのが分かる。
真城朔
あまり……反応しないように……
真城朔
そういうのじゃないから……
真城朔
そういうのじゃないし、したくないし……
真城朔
だめだったのにしたばっかりで……
真城朔
…………
真城朔
だめだったのに……
夜高ミツル
してしまった。
夜高ミツル
ささっと残りの部分もタオルで洗って、再びお湯を出す。
真城朔
ほう、と一息ついている。
夜高ミツル
お湯で泡を流していく。
真城朔
「ひゃ」
真城朔
一息ついたところにお湯に肌を叩かれ、ひく、と肩が揺れた。
夜高ミツル
「あ、ごめん……」
真城朔
「う」
真城朔
ふるふると首を振る。
真城朔
「だ」
真城朔
「だいじょぶ……」
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
気を取り直して、泡を洗い流していく。
真城朔
瞼を伏せてそれに耐えている。
夜高ミツル
一通り泡を落としたところで、
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「?」
真城朔
ゆっくりと瞼を上げ、濡れた瞳でミツルを見上げる。
夜高ミツル
「……中、洗うから」
真城朔
「……ぁ」
夜高ミツル
立って、と促す。
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
ややためらいがちにバスチェアから腰を上げる。
真城朔
そのまま腕を伸ばす。
真城朔
ミツルの首に腕を回して、しがみつくように身体を凭せかけた。
夜高ミツル
濡れた肌が重なる。
真城朔
唇を引き結び、ミツルの肩に顔を埋める。
夜高ミツル
シャワーはフックにかけて、片腕を真城の身体に回す。
真城朔
重ねた肌から鼓動が伝わる。
真城朔
普段より少し早い拍動。
夜高ミツル
浴室の熱で高まった体温が触れている。
夜高ミツル
「……じゃあ、」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
「やる、な」
真城朔
「うん……」
真城朔
か細い声が耳元で響く。
夜高ミツル
言って、背中側からそろそろと手を真城の脚の間に伸ばす。
夜高ミツル
爪を短く切りそろえた指先が、触れる。
真城朔
「ぁ」
真城朔
それだけで、しがみついた身体がぴくりと跳ねる。
真城朔
首に回った腕に力が籠もり、
真城朔
重ねた肌が震える。
真城朔
興奮を示すものが触れている。
夜高ミツル
触れている。
夜高ミツル
自身も同じ状態なのが、見るまでもなく分かる。
夜高ミツル
傷つけないように、ゆっくりと指先を沈めていく。
真城朔
「ぅ」
真城朔
「うー……」
真城朔
熱の篭もった吐息がミツルの首元にかかる。
真城朔
血を啜るときのそれに近い姿勢。
夜高ミツル
か細い真城の声が、ごく近くに聞こえる。
夜高ミツル
指を曲げて、自身が放ったものを掻き出す。
真城朔
「は、ぁっ」
真城朔
「ん」
真城朔
「ぅ、う……っ」
真城朔
しがみつく力がまた強くなって、
真城朔
今は直接触れ合っている肌と肌が、さらに密着する。
真城朔
体温と皮膚を直に感じている。
真城朔
その興奮と昂りも。
夜高ミツル
指を沈めて、中を探って掻き出して。
夜高ミツル
その仕草を繰り返す。
夜高ミツル
熱い。
真城朔
真城の上ずった声が絶え間なく耳に響いている。
夜高ミツル
出しっぱなしのお湯が、浴室の熱を高めていく。
真城朔
濡れた音と声が浴室に頭に反響して、
真城朔
篭もった熱はどこにも逃がせないまま滞留していく。
夜高ミツル
心臓がどくどくと早鐘を打っているのを感じる。
夜高ミツル
肌が、鼓動が、熱が、重なっている。
真城朔
やがて、
真城朔
「ぁ」
真城朔
「あ、ぁ――」
真城朔
ひときわ高い声と同時に、真城の身体が強張る。
真城朔
まともに立っていられないつま先が伸びて、
夜高ミツル
崩れ落ちないよう抱きとめる。
真城朔
内側がひくりと収縮して、ミツルの指を締めつける。
真城朔
その腕に体重を預けてしまう。
真城朔
荒い呼吸がシャワーの音に紛れず、
真城朔
二人の耳には妙に鮮明だった。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
シャワーに肌を叩かれながら、まだ抱き合ったままでいる。
夜高ミツル
ゆっくりと指を引き抜く。
真城朔
「ぁ、……はぅ」
真城朔
「ぅ――……」
真城朔
立ち上がれなくなったぐずぐずの有り様で、ミツルに身体を委ねている。
夜高ミツル
ミツルの方からも離れることができず、
夜高ミツル
荒く息をつく身体を抱きとめている。
真城朔
濡れたうめき声と、ぐずるような鼻を啜る音が響いた。
真城朔
小刻みに震える身体がミツルへと押し付けられる。
真城朔
熱と密着を求めてあさましくすり寄っている。
夜高ミツル
つい数時間前のことを忘れたわけではない。
夜高ミツル
反省していないわけでも、当然ない。
夜高ミツル
けれどそれ以上に、
夜高ミツル
真城の求めを拒むことが、ミツルにはどうしても。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
びく、と身体が震えた。
真城朔
俯いている。震えている。
夜高ミツル
うつむく頬に手を添えて、こちらに向けさせる。
真城朔
涙に濡れた瞳がミツルを向く。
真城朔
熱に潤んだ瞳が、目の前のミツルを映して揺れている。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
重ねて名前を呼んで、
夜高ミツル
そっと、唇を重ねた。