2021/07/26 朝
夜高ミツル
自分よりいくらか低い体温の、そのぬくもりばかりはいつもと変わらない。
真城朔
小さな寝息を立ててミツルの胸に顔を埋めている。
夜高ミツル
ミツルが先に目を覚ますのも、こうして真城が起きるのを待つのもいつもと同じ。
真城朔
いつものように、ぼんやりと真城が瞼を上げる。
真城朔
まだ呆けた瞳がうとうととミツルの胸元を見つめている。
夜高ミツル
軽く頭を撫でたあと、乱した髪を指で整える。
真城朔
なにかひとつ、レイヤーを隔てたかのような。
真城朔
とろりと上げられた瞼は、じっとミツルを見上げている。
夜高ミツル
先日の出来事を思えば、こうして黙って受け入れられていることの方が意外で……
真城朔
夜色の瞳に感情は薄く、ただミツルの顔を映している。
夜高ミツル
困惑はありつつも、とりあえず普段どおりに声をかける。
真城朔
狩りのあとということで、朝食は簡単なもので済まされた。
真城朔
いつも通りに手を合わせていただきますを唱和して、
夜高ミツル
やることを終わらせて、今は二人並んでソファの上。
真城朔
いつもより反応も表情も薄いが、やたらにくっつきたがるところは変わらない。
真城朔
ミツルの服の裾を掴んで、そのまま体重をも預けている。
夜高ミツル
映画でも見るか……という感じにもならず、部屋は静かそのもの。
夜高ミツル
とは言え、互いに沈黙が苦になるタイプでもない。
真城朔
求めるような切実さが、ミツルの服を掴む指先に僅かに滲む。
真城朔
感情の色の薄い中の、わずかかすかなそれではあるが。
真城朔
問いをかけられたことを訝しがるように、ゆっくりと首を傾ぐ。
夜高ミツル
今度はミツルが困ったように首を傾げた。
夜高ミツル
「なんか、ぼんやりしてる感じだから……」
夜高ミツル
言ってから、昨日も同じような会話をしたな……と思った。
夜高ミツル
「わかんないなら、わかんないで大丈夫」
夜高ミツル
「無理して大丈夫って言われるよりは、その方がいい」
真城朔
リアクションもまだどこか鈍いまま、でも確かに頷いた。
夜高ミツル
片腕は背中に回したまま、反対の腕で頭を撫でる。
真城朔
ミツルが洗ってドライヤーをかけ、手入れをしている髪。
夜高ミツル
サラサラとした感触が、指先をくすぐる。
真城朔
いつもならもう少し甘えるような仕草が見られるけれど、今日はそれも薄く、
夜高ミツル
拒まれないので、思うまま撫でて梳いて……
夜高ミツル
眠そうになれば、そのまま寝かしつけるように背中を撫でる。
真城朔
じわじわと姿勢が崩れて、頬がミツルの胸元に埋まる。
夜高ミツル
しがみつく真城の身体の、背中と膝の裏に手を回し、
夜高ミツル
そのままのたのたとベッドの方に歩を進める。
夜高ミツル
ベッドの前にたどり着くと、その真ん中にそっと真城の身体を下ろす。
夜高ミツル
エアコンの温度を調整して、タオルケットをかける。
夜高ミツル
ソファでしていたように、それよりも更に、身体を寄せ合う。
夜高ミツル
その寝息を乱さないように、そっと抱きしめる。
夜高ミツル
そのまま、じっと身体を寄せ合っていた。
真城朔
朝と同じように、ぼんやりとミツルの胸元を見つめている。
夜高ミツル
あんまり言うとむしろ嘘っぽくなるのでそれ以上は言わない。
真城朔
どこかぼやぼやとしたリアクションながらも、そのように。
夜高ミツル
外はまだまだ日が高く、スマホを見れば気温は真夏日。
真城朔
極力陽射しを避けたいので、足元はサンダルではなくちゃんと靴。
夜高ミツル
「北海道でもこんな暑いとは思わなかったよな……」
夜高ミツル
暑い暑い言いながらも手は離さず、距離もぴっとりと寄り添うように。
真城朔
ぱんぱんになったリュックをどっさりとテーブルに置く。
真城朔
冷蔵庫は空だし、暑いから頻繁に買い出しには出かけたくないし。
夜高ミツル
しばらく買い物に出ずに済む程度に色々。
真城朔
冷蔵庫に入れなくてもいいものも然るべき場所に収めていって……
夜高ミツル
閉めた冷蔵庫をまた開いて、麦茶のポットを取り出す。
夜高ミツル
並べてもらったグラスに冷えた麦茶を注ぐ。
夜高ミツル
麦茶に浮かんだ氷がからころ音を立てている。
夜高ミツル
飲み干すと、グラスを置いておかわりを注ぐ。
夜高ミツル
いっぱい汗をかいたからいっぱい飲んでいる。
夜高ミツル
二杯目はさすがにもうちょっと勢いも控えめ。
夜高ミツル
言われた通り、グラスの中程までお茶をそそぐ。
夜高ミツル
ポットを置いて、また並んでグラスを傾ける。
真城朔
どこか反応が鈍いのと、表情の変化の薄いのは相変わらず。
真城朔
それでもミツルに寄り添うように座っている。
夜高ミツル
麦茶を飲みながらも、ぴったりと寄り添う真城の様子を窺っている。
真城朔
両手をグラスに添えて、ぼんやりと正面を見ている。
夜高ミツル
「……このあと、飯の前に先に風呂入る?」
真城朔
ゆっくりとミツルを向いて、それから少ししてから小さく頷く。
真城朔
ぼんやりと頷いて、こちらも僅かな残りを飲む。
真城朔
食卓にグラス2つ並べたまま、それぞれ腰を上げた。
真城朔
真城はいつもよりもたついたけれど、そんなに大変なメニューでもなく。
真城朔
食卓のグラスに改めて氷を入れて、麦茶を注ぎ直している。
夜高ミツル
準備ができたらいつものように手を合わせる。
真城朔
肉を多めに取ります。量で言えばミツルよりも少ないけど。
夜高ミツル
このタレがなんか結構色々をかけあわせていて……
真城朔
ねぎのみじん切りとか生姜のすりおろしとか入ってる。
夜高ミツル
タレのかかった肉とレタスを一枚ずつとって、口に運ぶ。
夜高ミツル
「冷しゃぶってポン酢のイメージだったけど、こういうのもいいんだな」
真城朔
いつもより顎の動きが遅いような気がする……
夜高ミツル
「このくらい味が濃いのもいいよな、夏は」
夜高ミツル
「あと肉もだけど、レタス食べるのにいい感じがする」
真城朔
ちょっとだけのレタスと肉をつまみ上げて、口に含む。
夜高ミツル
「レタスにポン酢だとちょっと水っぽい感じになっちゃうんだよな……」
夜高ミツル
「なってたんだなって、これ食べて思った」
夜高ミツル
ミツルの視線はというと、やはり真城の方に……
夜高ミツル
隣に座って、互いに視線をやりながら食べ進めていく。
真城朔
大人しくミツルの食べ終わるのを待っている。
夜高ミツル
残りの冷しゃぶを取り皿に取り、タレをかけ、ぱくぱくと食べていく。
夜高ミツル
ご飯も食べる。ご飯に合う味をしている。
真城朔
普段よりも無表情ながら、ミツルを見つめる眼差しに変化はない。
夜高ミツル
真城に見つめられながら、程なくして皿の上がきれいに空になった。
真城朔
食器を洗い、夕飯の片付けを済ませてそのあと。
夜高ミツル
肩に腕を回し、細い身体を抱き寄せている。
夜高ミツル
それを受け入れ、促すように、体重を受け止めている。
夜高ミツル
肩に回していた手を少し持ち上げて、頭を撫でる。
真城朔
頬を擦り寄せた姿勢のまま固まってされるがままにしていたが……
真城朔
ちょっとだけ、やはり恐る恐るに、頭をミツルの手のひらに寄せる。
夜高ミツル
昨日よりは少しマシになったとは思うんだけど……
夜高ミツル
真城がそうしたがるなら、ミツルが拒むことはない。
真城朔
安堵を得られていない。安寧に浸ることができていない。
真城朔
身体の芯を強張らせて、ミツルとの接触を求めている。
夜高ミツル
大丈夫だと伝えるように、やわらかく頭を撫でている。
真城朔
それを喜んで受け入れるくせに、いつまでも気が抜けずにいる。
夜高ミツル
そのまま抱き寄せて、より一層身体を寄せ合う。
真城朔
繰り返し触れられてきた肌に浮くその線を、幾度となくなぞられてきた。
夜高ミツル
大丈夫かと訊ねると、わからないと真城は言った。
夜高ミツル
多分、それが分かるようにミツルが手伝うこともできるのだと、思う。
真城朔
今はただ、縋るようにミツルに密着している。
夜高ミツル
……同時に、そうしたら真城は傷つくだろうなとも思う。
夜高ミツル
だから、今はまだもう少し様子を見たかった。
真城朔
真城はミツルの内心を知ってか知らずか、その胸に顔を埋めている。
夜高ミツル
頭を背中を撫で、静かにふたりの時間を過ごす。
真城朔
どこか落ち着かない様子で、その時間に浸っている。
夜高ミツル
いつもならば、こうしていると真城がうとうとしてきたりするのだが……
真城朔
ちょっと買い物に行っただけではぜんぜんつかれない
夜高ミツル
いつもは真城のほうが後から起きてくるくらいなので意識しないが、本当は真城は眠る必要はないのだという。
真城朔
休養は要るけれど、それが眠りである必要は必ずしもない。
夜高ミツル
あれだけ寝れば眠気が来なくもなるか……。
夜高ミツル
背中を撫でながら、胸に顔を埋める真城を見下ろす。
夜高ミツル
「最近暑くて買い物くらいしか外出れてなかったし」
真城朔
そうと決まったら、二人で出かける準備をする。
夜高ミツル
風呂に入って部屋着になっていたので、また着替え直して……
夜高ミツル
代わりというわけでもないが、昼は真城には日焼け止めを塗るのだけど