2021/08/01 昼過ぎ
noname
家族連れでごった返す複合商業施設の地下一階。
noname
レストランだとか、ちょっと洒落たスーパーだとかが立ち並ぶこの店へは、
noname
普段とはちょっと違う買い物をしたい気分だとか、
noname
ついでに100円ショップに行きたいだとか、服を買いたいだとか、
真城朔
この前の狩りでまたTシャツを血染めにしてしまったし、色々買い足した。
真城朔
ついでにこっちの方のスーパーを散策しようとなったが……
夜高ミツル
なんせ1年近く平日も休日もない生活を送ってきたので……
真城朔
日曜日の外出はなんとなく避けてきたけど……
真城朔
今日は久しぶりに曇りだし、みたいなノリで出てきてしまった。
真城朔
ミツルの手を握り締めて、ぴったりとくっつく。
夜高ミツル
その手を握り返し、通路の端の方に避けつつ……
真城朔
衣服の入った袋を抱きしめて考え込んでいる。
こども
不安そうに視線を彷徨わせる、一人のこどもの姿があった。
こども
涼しげな夏の装いに、やわらかく伸びた腕が日によく焼けている。
真城朔
迷いなくまっすぐその子の前に辿り着いて、膝を折る。
こども
問い掛けられたこどもは大きな目を丸くして、
こども
けれどまだ言葉の見つからぬまま、目の前の真城と
こども
同じく目線の高さの合うたミツルを見回した。
こども
視線を彷徨わせながら、その目端に涙を滲ませる。
夜高ミツル
「……あの……カウンターのとこに連れってってやったらいいのかな?」
夜高ミツル
「お店の人のところに行って、お母さん探してもらおう」
真城朔
片手をミツルと繋ぎ、片手に服の入った袋……
真城朔
ミツルへと渡して、おずおず子どもの背中に手のひらを添えた。
真城朔
よく焼けた小麦色の小さな指先と、白い指が絡み合う。
夜高ミツル
「お店の人がお母さん呼んでくれるから」
真城朔
建物真ん中のインフォメーションセンターで、三人並んでぼんやりと人の行き交うさまを見つめている。
真城朔
インフォメーションセンターのお姉さんに報告して、お名前と特徴とをアナウンスしてもらい、
こども
足を止めたからもうよかろうと、また真城の腰にくっついてる。
夜高ミツル
まあ自分と真城だったら、真城の方が怖くないよな……と思う。
真城朔
のをちょっと微笑んで見下ろして、頭をなでよし……
真城朔
しゃがんで目線を合わせてたりもしたけどしがみつきたがるのでこっちに落ち着いた。
夜高ミツル
それで少しでも安心するならと、もう離れるように言うこともなく。
夜高ミツル
こどもと一緒に、真城の指差す先を見る。
と、指差した先には大急ぎで人混みをかき分けるご婦人の姿が。
お気になさらずとかお気をつけてとかなんかそんな感じの文句で場を濁し、
真城朔
同じように母親に張りついた子供に、ばいばい、と手を振り見送る。
真城朔
夏休みで、帰省のついでに買い物に来たとからしかった。
真城朔
もう用事は済んだけど、なんとなくすぐに動く気にもなれず
夜高ミツル
「……どっかでちょっと休憩してくか?」
夜高ミツル
「ドトールか……サーティーワンか……」
真城朔
インフォメーションセンターを挟んで向かい側の方。
夜高ミツル
人混みを分けて、てくてくと向かっていく。
真城朔
イートインスペース付きのジェラートショップ。
夜高ミツル
空いているか心配だったが、無事二人座れる席具合。
夜高ミツル
スタッフおすすめとある、トリプルフルーツソルベのポスターを指す。
夜高ミツル
「余ったら食うから、好きなやつ頼めばいいよ」
夜高ミツル
真城を寄せながら、ちょっと脇の方からジェラートたちを覗き込んでいる。
夜高ミツル
改めて、トリプルフルーツソルベと、フランボワーズとチョコラータのダブルを注文する。
真城朔
こういうなんかフレーバーを選ぶ系だとなおさら……
夜高ミツル
いっぱいあって……全部おいしそうで……
真城朔
ミツルの前には爽やかな三色、真城の前には重たげな二色。
夜高ミツル
まず、一番上にあるマスカットの部分をすくう。
夜高ミツル
舌の上に、ひんやりとした冷たさと甘さが広がる。
真城朔
ミツルの話を聞く方に夢中で手が動いていない。
夜高ミツル
ポップにもでっかく夏って書いてあった。
真城朔
迷ってから、フランボワーズの方をすくった。
真城朔
ミツルの方のイチゴソルベの方も赤いけど、なお赤い。
夜高ミツル
見てから、促しておいて自分も手が止まってることに気づいた。
夜高ミツル
頷いて、いちごの部分をすくってぱくり。
夜高ミツル
「やっぱこっちの方がいちごよりちょっと酸味が強い感じするな」
真城朔
おずおずとミツルの差し出したいちごソルベを掬おうとし……
真城朔
自分のカップを一度テーブルに置いて、ミツルの持つカップに手を添える。
夜高ミツル
ジェラートを持っていたのでいつもよりさらにひんやり。
真城朔
そりゃいちごソルベとフランボワーズだからな……という話なのだが……
真城朔
堪能しているその手元で、ジェラートが既にじわじわ溶け始めている。
夜高ミツル
少し柔らかくなりつつあるジェラートにスプーンを差す。
夜高ミツル
「マンゴーも、この3つだと一番濃い感じ」
真城朔
柔らかくなりかけなのを思い出して慌てて手元のを掬った。
真城朔
フランボワーズとチョコラータをちょっと混ぜた感じに。
夜高ミツル
「サーティーワンとかでそんな感じのあるもんな」
真城朔
同じように合わせて掬ったのをミツルに差し出した。
夜高ミツル
今度はミツルがマンゴーの部分をすくって、真城に差し出す。
真城朔
口元の味わっているのをちょっと急いで飲み下し……
夜高ミツル
他の2つはジューシーと果実たっぷりなのに……
真城朔
頷き返して、自分の手元のだいぶ柔らかくなったジェラートを掬う。
真城朔
もはや混ざった何かになりつつある部分を意図的に。
夜高ミツル
高く盛られてるので、ここが溶けるとヤバい……
真城朔
流石に溶けてくるとジェラートに集中し始める。
夜高ミツル
たまに相手に食べさせたりもするけど、おしゃべりはひかえめに……
真城朔
ちょっと変わった買い物のつもりが予定外のこともあったけど……
夜高ミツル
もう迎えに来る人のいない二人で、こどもに迎えのあったことを喜ぶ。
真城朔
迎えに来る人もないからこその、二人飛び出して今は北海道。
真城朔
そんな相手と、溶けかけたジェラートを二人で食べている。
真城朔
完全に混ざっているフランボワーズとチョコラータを差し出した。
真城朔
そうしたささやかなひと時が、今の二人には一番大事だった。