2021/08/12 午前

真城朔
札幌からちょっと離れて、
真城朔
人里から遠く、長閑な緑に囲まれた真ん中。
真城朔
草の匂いと動物の匂い。
真城朔
バイクのエンジン音が、牧場の看板を通り過ぎて止まる。
夜高ミツル
鍵を抜いて、ヘルメットを取る。
真城朔
ヘルメットを被ったままバイクから降りて……
夜高ミツル
同じくバイクを降りて、真城のヘルメットも外してやる。
真城朔
ぷは……
真城朔
外してもらいました。
夜高ミツル
グローブをつけた指先で髪を整える。
真城朔
してもらってます。
真城朔
うにゃうにゃ……
真城朔
やってもらって瞼を上げて、
真城朔
小さく微笑む。
真城朔
「ありがと」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
礼を言ったものの、
真城朔
ちょっとくらっと来てる。
真城朔
直射日光……
夜高ミツル
「暑いな~……」
真城朔
「ん……」
真城朔
リュックから折り畳みの日傘をもたもた取り出している。
真城朔
よいしょえいしょと開きまして……
真城朔
ばさ。
真城朔
ほっ……
夜高ミツル
シートを持ち上げて、収納から自分のリュックを取り出し、ヘルメットをしまい……
真城朔
きょろきょろと周囲を見回している。
夜高ミツル
リュックから帽子を取り出して被る。
真城朔
「…………」
真城朔
「広い……」
夜高ミツル
「広いな……」
真城朔
THE 北海道
真城朔
みたいな広大な土地。
真城朔
の真ん中にぽつんと牧場が。
真城朔
うしとかひつじとか放牧されてる……
夜高ミツル
北海道でも札幌は都会だったので、新鮮。
真城朔
ぜんぜん街だった……
真城朔
既に圧倒されている。
真城朔
ぽつぽつと歩いている動物たちをぼんやりと見回している……
夜高ミツル
「行くか」
夜高ミツル
促して受付に向かう。
真城朔
「あ」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
ついていきました。
夜高ミツル
受付で大人二人分の入場料を支払う。
真城朔
うさちゃんいる……
夜高ミツル
うさぎだ……
真城朔
看板うさぎに見守られながら受付を済ませ……
真城朔
日陰に入ってパンフレットを見る。
真城朔
一応いろいろ事前にスマホで調べてきはしたけども。
夜高ミツル
改めて……
夜高ミツル
1枚のパンフレットを二人で覗き込んでいる。
真城朔
じー
真城朔
「…………」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「ある……」
夜高ミツル
「あるなあ」
夜高ミツル
「体験にふれあいに……」
真城朔
頷いている。
真城朔
ミツルを見る。
真城朔
「どうする……?」
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
じー……
夜高ミツル
「この、ヤギの哺乳体験が10時からだから」
夜高ミツル
「ここから行ってみるか」
真城朔
「ほにゅうたいけん」
真城朔
反復……
真城朔
こくこく頷いた。
夜高ミツル
「よし、行こう」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
パンフレットを畳んでポケットに入れ
真城朔
日傘を手にとてとてついてく。
夜高ミツル
手を取る。
夜高ミツル
暑い中、手を繋いで歩いていく。
真城朔
しっかりと握り返す。
真城朔
片手に日傘、片手にミツルの手。
真城朔
こやぎの哺乳体験は無料だった。
真城朔
施設の人に案内と補助をしてもらい……
真城朔
哺乳瓶を渡されている。
夜高ミツル
日傘は今はミツルが代わりに持っている。
真城朔
ちょっとおろ……にはなった。
真城朔
なったけど、押し負けて甘えている。
夜高ミツル
いいからで押し通した。
真城朔
日傘をさしてもらいつつ……
真城朔
「わ」
真城朔
「わ……」
真城朔
白くてふわふわのこやぎが期待の目で寄ってくる。
夜高ミツル
「来てる……」
真城朔
おろ……
真城朔
こやぎ、元気。
真城朔
そっと哺乳瓶を差し出し……
真城朔
たら、即座に食いつかれた。
真城朔
「あっ」
夜高ミツル
「わ……」
夜高ミツル
後ろで見ててもちょっとびっくりする。
真城朔
くぴくぴ飲んでる……
夜高ミツル
勢いがすごい……
真城朔
食欲旺盛……
真城朔
ちゃむちゃむ音がする。
真城朔
引っ張られる哺乳瓶をしっかり掴んでいる……
夜高ミツル
「元気だな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
圧倒されながらこやぎをじっと見ている。
真城朔
すごい勢いでミルクが減っていく……
夜高ミツル
「吸いつくっていうか……食らいつくって感じが……」
真城朔
「すごい……」
真城朔
元から大してない語彙力が限界まで落ちている。
夜高ミツル
「すごいな……」
真城朔
しっぽふってる……
夜高ミツル
「元気だな……」
夜高ミツル
2回目。
真城朔
「げんき……」
真城朔
圧倒されている間に牛乳がなくなってしまった。
真城朔
あっという間だった……
夜高ミツル
すごい勢いだった……
真城朔
飼育員さんに空の哺乳瓶を回収してもらい……
真城朔
おず……
真城朔
窺うような目でミツルを見る。
夜高ミツル
目が合う。
真城朔
こやぎを前に目が合っている。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「やぎ」
真城朔
「触る……?」
真城朔
日傘にそっと手を伸ばそうとする。
夜高ミツル
「あ、うん」
夜高ミツル
伸ばされた手に日傘を返す。
真城朔
返されました。
夜高ミツル
「じゃあ……」
夜高ミツル
しゃがみ込む。
真城朔
ミツルの隣にしゃがみこんでいる。
真城朔
慣れているのかこやぎは人懐こい。
真城朔
逃げるでもなくなんとも言えない……笑みのような……なんとも言えない表情で人間を見返している。
夜高ミツル
おずおずと首の辺りに手を伸ばす。
夜高ミツル
もふ……
真城朔
おお……
真城朔
ミツルがこやぎを触っているのを見ている。
夜高ミツル
そのまま毛並みに沿うようにそっと撫でる。
夜高ミツル
「あったかい……」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「ミルク飲んでた」
真城朔
「し……」
真城朔
真城は手を出さずに見ている。
夜高ミツル
「飲んでたなー……」
真城朔
「元気……」
真城朔
また同じこと言う
夜高ミツル
「元気だな……」
夜高ミツル
言っている。
夜高ミツル
不意に真城に視線を移し
夜高ミツル
「真城も触る?」
真城朔
「え」
真城朔
「…………」
真城朔
固まった。
真城朔
ミツルを見て……
真城朔
こやぎを見る。
真城朔
ふわふわのアルカイックスマイル気味のこやぎを……
夜高ミツル
「傘持つから」
真城朔
「か」
真城朔
「傘は」
真城朔
「だいじょうぶ」
真城朔
「だけど」
真城朔
「…………」
真城朔
やぎを見ている……
真城朔
見つめ合っている。
夜高ミツル
やぎを見る真城を見ている。
真城朔
「……い」
真城朔
「たく、とか……」
真城朔
しちゃわないか……
真城朔
ぼそぼそ……
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
「う」
真城朔
「うーん……」
真城朔
葛藤……
真城朔
見つめ合い……
夜高ミツル
「真城に触られて痛かったことないし」
夜高ミツル
「大丈夫だよ」
真城朔
「ミツ、は」
真城朔
「人間」
真城朔
「だし……」
夜高ミツル
「人間に触って大丈夫なら、やぎも痛くないと思う」
真城朔
「…………」
真城朔
おろ……
真城朔
おず……
真城朔
こわごわと、日傘を持っていない方の手を持ち上げた。
真城朔
こやぎへと伸ばすが……
真城朔
伸ばし……
真城朔
…………
真城朔
「……ふ」
真城朔
「ふわふわ……」
真城朔
こやぎの首元……
夜高ミツル
「ふわふわだな」
真城朔
「毛並み」
真城朔
「きれい……」
夜高ミツル
「大事に育てられてるんだなー」
真城朔
頷いている。
真城朔
いたら、
真城朔
「わ」
真城朔
こやぎが鳴いた。
真城朔
めーって鳴いた……
夜高ミツル
めーって鳴いてる……
真城朔
「ひつじ」
真城朔
「みたい……」
真城朔
言ってから、羊の鳴き声もよく考えたらちゃんと聞いたことないような気がしてきた。
夜高ミツル
「こどもって感じの声だな……」
真城朔
「こやぎ」
真城朔
「だし……」
真城朔
「こどものやぎ……」
夜高ミツル
声が高い……
真城朔
ふわふわでこえがたかい
真城朔
やわらかいいきもの……
真城朔
ちょっと怖くなったのか手を引いた。
真城朔
耳がぴるぴるしてる……
夜高ミツル
「もういいのか?」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷く。
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「さわった」
真城朔
「し」
夜高ミツル
いっぱいか? とは思ったものの……
夜高ミツル
牧場は広いしコーナーはたくさんあるし
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
立ち上がる。
真城朔
ミツルに続いて立ち上がった。
夜高ミツル
「じゃあ、次行くか」
真城朔
こやぎは飼育員さんに返して……
真城朔
「うん」
真城朔
「行く」
真城朔
次はアイスクリーム作り体験に来た。
真城朔
体験コーナーを売りにしている牧場なだけあって、いろいろある。
真城朔
かなりいろいろある……
夜高ミツル
ある。
真城朔
いろいろあってすごい
真城朔
結構量がありそうなので、二人で一つにしてもらった。
真城朔
食べきれないともったいないため……
夜高ミツル
せっかく来たから色々食べたいし
真城朔
アイスクリーム手作り体験とはいえ、やり方は思いの外簡単。
真城朔
簡単だから体験として売りにできるのだろうが……
真城朔
氷水を入れたボウルを渡され……
真城朔
その上にさらにボウルを乗せ……
真城朔
なんか……
真城朔
「アイスクリームのもと……」
真城朔
アイスクリームのもと……?
夜高ミツル
「牛乳?」
真城朔
白い液体が入っている。
真城朔
「牛乳と」
真城朔
「なんだろ……」
真城朔
わからない……
真城朔
わからないけど、言われたままに液体を混ぜます。
真城朔
混ぜている……
夜高ミツル
混ぜるのを任せて、ボウルを持ってくるくると回している。
真城朔
共同作業。
真城朔
ボウルのへりに凍った液体がへばりつくので、
真城朔
それをこそげ落としつつ、
真城朔
混ぜる。
真城朔
まぜまぜ……
真城朔
単純作業。
夜高ミツル
単純作業は二人とも結構好き。
夜高ミツル
ボウルを回しています。
真城朔
すき。
真城朔
集中できるので……
真城朔
色々確認しながら難しいことをしようとすると大変になる。
夜高ミツル
数分そうやって混ぜている内に、だんだんボウルの中身が固くなってくる。
真城朔
「あ」
真城朔
「アイスクリーム、っぽく」
真城朔
「なってきた……?」
夜高ミツル
「なってきてる」
真城朔
とろ……
真城朔
ぺた ふわ……
真城朔
へりにくっつく感じが半固体めいてきている。
夜高ミツル
最初は完全に液体だったのが……
真城朔
「混ぜてるだけなのに……」
真城朔
ふしぎ……
夜高ミツル
「だなあ」
夜高ミツル
ボウルを回しながら、中身の変化していくのをじっと見ている。
真城朔
くるくる……
真城朔
まぜまぜ……
真城朔
してたけど
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「かわる?」
真城朔
ボウル回させてばっかり……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
「ん」
真城朔
ヘラを差し出します。
夜高ミツル
受け取る。
真城朔
交代。
真城朔
今度は真城がボウルを押さえる。
夜高ミツル
ボウルを任せて、固まりつつあるアイスを混ぜていく。
夜高ミツル
まぜ……
真城朔
くる……
夜高ミツル
シェイクみたいになってる。
真城朔
見ている。
真城朔
「…………」
真城朔
「前」
真城朔
「食べた」
真城朔
「ジェラート」
真城朔
「っぽい……?」
夜高ミツル
「近いかも」
夜高ミツル
「固さどのくらいにする?」
夜高ミツル
お好みの固さになったら食べていいらしい。
真城朔
「かたさ……」
真城朔
うーん……
真城朔
「…………」
真城朔
「あんまり」
真城朔
「固すぎない」
真城朔
「ほうが……」
真城朔
固形っぽいほうがお腹すぐいっぱいになっちゃう感じする……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「じゃあ程々にする」
真城朔
「ほどほど」
真城朔
「おねがい」
真城朔
しっかとボウルを押さえました。
夜高ミツル
頷いて、また混ぜていき……
真城朔
ミツルの単純作業を見守っている……
夜高ミツル
そう経たずに手を止める。
真城朔
止まった。
真城朔
「…………」
真城朔
「できた?」
夜高ミツル
「かな?」
夜高ミツル
ヘラでさくっと掬える程度の固さになっている。
真城朔
覗き込んでいる。
夜高ミツル
「この位でよさそう?」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「おいしそう」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
頷いて、器にアイスを取り分ける。
真城朔
分けてもらっています。
夜高ミツル
ウエハースもあるのでそれを1本ずつ添えて、
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
スプーンと一緒に差し出す。
真城朔
「ありがと」
真城朔
受け取りました。
真城朔
とろふわの白くてちょっと不格好に盛られたアイス。
夜高ミツル
それが2つ。
夜高ミツル
並んで手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
同じく手を合わせて、唱和。
真城朔
まずはとりあえずウエハースなしで……
真城朔
スプーンでひとさじ掬う。
夜高ミツル
すくって、ぱくり。
真城朔
舌で静かに味わっている。
夜高ミツル
甘くて冷たくてちょっとやわらかい。
夜高ミツル
「牛乳の味がする」
真城朔
やわらかめオーダーの結果が忠実に出ている。
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「あまい……」
夜高ミツル
「牧場って感じの味が……」
真城朔
「えーと……」
真城朔
「……素朴?」
夜高ミツル
「素朴だなー」
夜高ミツル
「牛乳本来の風味……?」
真城朔
「素朴……」
真城朔
「素材の味」
夜高ミツル
「するなあ」
夜高ミツル
もうひとさじ掬って、口に運ぶ。
真城朔
ちょっと変化を求めてウエハースを取った。
真城朔
端っこでやわらかめのアイスクリームを掬って
真城朔
ぱくり。
夜高ミツル
それを見て、ミツルもウエハースを手に取る。
真城朔
さくもぐ……
夜高ミツル
同じように掬って一口。
夜高ミツル
さくさく……
真城朔
もぐもぐ
真城朔
「……これも」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「さくさくしてる」
真城朔
「してる……」
真城朔
「味じたいは、こう」
真城朔
「こっちも」
真城朔
「シンプル」
真城朔
「っていうか……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「シンプルだけどうまい」
真城朔
こくこく……
真城朔
「やわらかいの、と」
真城朔
「さくさくしてるの」
真城朔
「ちょうどいい……」
夜高ミツル
頷いて、また一口。
夜高ミツル
こないだジェラートを溶かしたのを反省している。
真城朔
真城も思い出したように食べています。
真城朔
もぐむく……
真城朔
ふたりでつくったやつだから……
真城朔
溶かしたくない……
夜高ミツル
ちゃんと食べる。
夜高ミツル
そうして、合間にちょこちょこと感想を交わしつつも、無事溶ける前に完食。
真城朔
できました。
夜高ミツル
反省を活かした。
真城朔
ミツルの量の配分もきっちり。
夜高ミツル
ボウルとかはスタッフさんが片付けてくれたので、あとはゴミをゴミ箱へ……
真城朔
捨てていき……
真城朔
「おいしかった」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「あれ家でもできんのかな」
真城朔
「どうだろ……」
夜高ミツル
「帰ったら調べてみるかー」
夜高ミツル
言いながら、ポケットからパンフレットを取り出して広げる。
真城朔
「アイス作り……」
真城朔
ミツルに頷いている。
真城朔
頷きながら、パンフレットを隣から覗き込んでいます。
夜高ミツル
「次どこ行くか……」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「ある……」
夜高ミツル
「色々だな」
夜高ミツル
「アーチェリーとかダーツとかも……」
夜高ミツル
なぜかある。
真城朔
首を傾げた。
真城朔
「……広いから……?」
夜高ミツル
「かな……」
真城朔
「ダーツ、は」
真城朔
「けっこう」
真城朔
「できるかも……」
真城朔
普段投げてるから……
真城朔
「アーチェリーは……」
真城朔
ぜんぜんわかんない……
真城朔
首をひねっている。
夜高ミツル
「ダーツできそうだなー」
夜高ミツル
「俺は全然」
夜高ミツル
「アーチェリーも……」
真城朔
「樋口さんなら……?」
真城朔
でもあれ十字弓だからちがうかも……
夜高ミツル
「樋口さんはできるかも」
夜高ミツル
適当を言っている。
真城朔
「できるかな……」
真城朔
適当を言い合ってます。
夜高ミツル
「ダーツとかも気にはなるけど、せっかくだから動物の方行きたいよなー」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「馬」
夜高ミツル
「乗馬してみる?」
夜高ミツル
パンフレットの上、乗馬体験の文字を指差す。
真城朔
「うま」
真城朔
「…………」
真城朔
うーん……になっている。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「乗る……?」
夜高ミツル
「真城が乗るなら」
真城朔
「…………」
真城朔
葛藤している……
夜高ミツル
黙り込んでしまった真城を見る。
夜高ミツル
「……やめとく?」
真城朔
「で、も」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「乗りたい」
真城朔
「なら……」
真城朔
ぼそぼそ……
夜高ミツル
「俺は真城と一緒にできるのがいいな」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「ダチョウいるって」
夜高ミツル
「見に行ってみるか?」
真城朔
「ダチョウ」
真城朔
じ……
真城朔
こくこく頷いた。
真城朔
「みる……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「けっこう」
真城朔
「動物園」
夜高ミツル
パンフレットを畳む。
真城朔
「ぽいとこ」
真城朔
「ある?」
夜高ミツル
「鳥でも、ニワトリがいるのは分かるけど……」
夜高ミツル
「ダチョウはな……」
真城朔
「ダチョウは……」
夜高ミツル
「動物園だな……」
真城朔
頷いている。
真城朔
建物を出て、日傘をさし……
夜高ミツル
手を繋ぎ。
真城朔
ぎゅ。
夜高ミツル
日差しを浴びながら、歩き出す。
真城朔
ミツルに手を引かれながら、歩き出す。
真城朔
ダチョウコーナーは割となんというか森の中って感じ。
真城朔
檻があり、看板があり……
真城朔
檻の中にも小屋があり……
真城朔
「…………」
真城朔
「かなり」
真城朔
「動物園……」
夜高ミツル
「動物園だな……」
真城朔
「最高時速70km」
夜高ミツル
「はや」
真城朔
解説を読み上げている。
真城朔
「脚の筋肉が……」
夜高ミツル
「街中の車くらい……」
真城朔
「すごい」
真城朔
エミューもいる。
真城朔
ダチョウよりちょっと小さい。
真城朔
どっちもふわふわしている……
夜高ミツル
割と地面に座ってる。
夜高ミツル
まる……
夜高ミツル
「座っててもでかいな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「重量感というか……」
真城朔
迫力が……
真城朔
「首が長い」
真城朔
急に素朴な感想を言う。
夜高ミツル
「長いな……」
夜高ミツル
「うわ」
夜高ミツル
近くにいたダチョウが立ち上がる。
真城朔
「わ」
真城朔
「わわ」
真城朔
ミツルにくっついた。
夜高ミツル
手をぎゅっと握る。
真城朔
握り返す。
夜高ミツル
「でか~……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「2メートル……」
夜高ミツル
「脚がヤバい」
夜高ミツル
「強そう」
真城朔
「時速70km」
真城朔
数値を繰り返す生き物になっている
夜高ミツル
「蹴って攻撃したりすんのかな……」
真城朔
そこに書いてあるから……
真城朔
「かも……?」
真城朔
じ……
夜高ミツル
ダチョウのモノビとかかなり考えたくないな……
真城朔
まじまじとダチョウを眺め……
真城朔
ますますミツルにくっついた。
真城朔
めちゃくちゃ走るモノビの有名な話はある……
真城朔
政治家が動いたとかいうやつ……
夜高ミツル
政治家が……
真城朔
狩りのためにでっかい道路を作ってもらったとかなんとか……
夜高ミツル
すごい話だ
真城朔
まことしやかに語られている。
真城朔
モノビほどではないがでかいダチョウを見上げている。
夜高ミツル
「2m……」
真城朔
首を器用に動かして羽繕いをしている……
真城朔
「これくらいだと」
真城朔
「モノビとしては、むしろ」
真城朔
「小さめ……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「あ、でも」
真城朔
「小さいと」
真城朔
「狙いづらい、から」
真城朔
「そこはやだ……」
夜高ミツル
「すばしっこそうだしな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
…………
真城朔
つい楽しくない話をしてしまった……
真城朔
しょんぼりになってきた。
夜高ミツル
ついうっかり……
夜高ミツル
「……次行くか」
真城朔
「次……」
真城朔
次? になっている。
夜高ミツル
「うさぎ触れるらしいから」
夜高ミツル
「そこ行ってみよ」
真城朔
「うさぎ」
真城朔
「……うん」
真城朔
「行く……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
手を繋いでいる。
真城朔
ずっと。
真城朔
小動物のふれあいコーナー。
真城朔
木製のベンチに、二人並んで座っている。
夜高ミツル
飼育員さんから説明を聞き、手の消毒を済ませ……
真城朔
うさぎ待ち。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「お」
真城朔
籠入りのうさぎが運ばれてきた。
真城朔
籠ごとに飼育員さんがそっと膝に乗せてくれる、のを見ている。
真城朔
ふわふわふかふかの灰色うさぎ。
夜高ミツル
「うさぎだ……」
真城朔
「うさぎ……」
真城朔
「わ」
真城朔
「わー」
真城朔
鼻先をお腹に押しつけられている。
真城朔
ふすふすされている……
夜高ミツル
「ひとなつこい……」
真城朔
両手が宙を彷徨っている。
真城朔
おろ……
真城朔
ミツルを見た。
真城朔
ふわふわの毛玉がおなかにいる。
夜高ミツル
毛玉にくっつかれてる……
真城朔
ハンズアップ。
真城朔
うさぎを相手に。
夜高ミツル
挙げられた手を取って
夜高ミツル
うさぎの方に導く。
真城朔
あわわ……
真城朔
されるがままに手のひらが
真城朔
もふ……とうさぎの背中に触れる。
真城朔
ふわふわぽわぽわ……
真城朔
「……や」
真城朔
「やわらかい……」
真城朔
やぎよりも……
夜高ミツル
「ふわふわだな」
真城朔
「あっ」
真城朔
「わ……」
夜高ミツル
手を重ねたまま、指先でうさぎに触れている。
真城朔
うさぎが鼻先を手のひらの方に寄せてきた。
真城朔
ふすふす……
夜高ミツル
「元気だな~」
真城朔
そのうち身を乗り出して、
真城朔
真城とミツルの重なった手に前脚を乗せてくる。
真城朔
後ろ脚で立ってきょろきょろしてる……
真城朔
「げ」
真城朔
「げんき……」
夜高ミツル
「だな」
真城朔
こやぎもげんきだったけど……
真城朔
じ……
真城朔
グレーの体毛にやや紛れがちな黒い目と視線が合っている。
夜高ミツル
空いている方の手でうさぎの背中に触れる。
真城朔
ふわふわの背中。
夜高ミツル
ふかふかの毛並みに手が埋もれる。
真城朔
前脚で顔のあたりを毛づくろいしてる……
真城朔
ながいおみみがやわらかい……
真城朔
「モルモット」
真城朔
「より」
夜高ミツル
動くたびにぴょこぴょこしてる。
真城朔
「なんか……」
真城朔
「器用」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
毛づくろいの様子を眺めている。
夜高ミツル
「モルモットはなんかもっと……」
夜高ミツル
「なんか……」
真城朔
「こう……」
真城朔
「手が……」
真城朔
「不自由……?」
真城朔
うさぎは前脚使える。
真城朔
使ってるのを見ている。
夜高ミツル
「手って感じじゃなかったもんな……」
真城朔
「毛づくろいとか」
真城朔
「あんまり……」
夜高ミツル
「してなかったよな」
真城朔
頷いている。
真城朔
「ぼんやりしてた……」
真城朔
ぼんやりと言ってます。
真城朔
うさぎは毛づくろいをやめて籠の上でまるくなっている。
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
うさぎから手を離す。
真城朔
「?」
夜高ミツル
ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す。
夜高ミツル
「写真写真……」
真城朔
取り出されるスマホを見ている。
真城朔
どうすればいいか分からないで身体を固めています。
真城朔
被写体なので……
真城朔
動かないほうがいいと思うし……
夜高ミツル
片手でカメラを起動して、ちょっと身体を引き……
真城朔
ぴた……
夜高ミツル
「……動いててもいいぞ」
真城朔
うさぎは顔を上げて周囲を見回し始めている。
夜高ミツル
「そしたら動画にするし」
真城朔
お鼻がふすふすしてる……
真城朔
「え」
真城朔
「と……」
真城朔
おろ……
真城朔
おず……
真城朔
ためらいがちに手を上げて、
真城朔
うさぎの頭に触れた。
夜高ミツル
ぴぴ、と録画を始める音。
真城朔
そのままぎこちない手つきですい……って背中の方まで撫でる。
真城朔
お尻の方までは触らないでねって飼育員さんに言われた……
真城朔
ので、また頭に手を戻して……
真城朔
なで……
真城朔
ふわ……
真城朔
うさぎは耳を寝かせて撫でられています。
夜高ミツル
撫でる様子をカメラに収めている。
真城朔
かなり山も落ちもない光景。
真城朔
ぎこちない手つきでうさぎを撫でているだけの動画が撮れている。
夜高ミツル
たまにうさぎに寄ったりする。
真城朔
ふすふす……
真城朔
「あっ」
真城朔
うさぎがぴょっと顔を上げた。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
身を乗り出して、真城の腕に前脚をかける。
真城朔
かけられてしまった……
夜高ミツル
いきもの……
真城朔
腕にいきものの重みが……
真城朔
うさぎは鼻先ふすふすさせながらきょろきょろしてる。
真城朔
真城は固まっています。
真城朔
うでうごかせない……
夜高ミツル
ぴ、と録画を終える。
真城朔
おろ……
夜高ミツル
スマホをしまい……
真城朔
ミツルに視線を向けている。
真城朔
うさぎを見つつ……
真城朔
ちら……おろ……
夜高ミツル
うさぎの前脚の下に手を差し入れて、よいしょ……と真城の腕からどかす。
真城朔
どかされた。
真城朔
うさぎも大人しくどかされます。
真城朔
ほ……
夜高ミツル
「元気だなあ」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
今日何かしらの動物を見る度に言ってる気がする。
真城朔
「なつこい……」
真城朔
生に当てられている。
真城朔
今は籠の上で後ろ脚を使って毛づくろいしてる。
真城朔
のをじーっと見ている。
夜高ミツル
くしくししてる。
真城朔
「あんま」
真城朔
「さわると」
真城朔
「気になるかな……?」
真城朔
くしくししてる様子を眺めながら。
夜高ミツル
「ふれあいコーナーに出てきてる子だから、大丈夫なんだろうとは思うけど……」
夜高ミツル
「どうだろうな……」
真城朔
くしくしを終えて今は丸くなっている。
夜高ミツル
首をかしげている。
夜高ミツル
うさぎの気持ちはわからない……
真城朔
きょろ……になっている。
真城朔
うさぎの気持ち、わからない。
真城朔
わからないなりにそっと手を差し出した。
真城朔
触るのではなく、鼻先に手を差し出し……
真城朔
「わ」
真城朔
差し出した手をふすふすと嗅がれている。
夜高ミツル
鼻先がひくひくしてる……
真城朔
そのまま手に頭を押しつけてきた。
真城朔
ぐいぐいくる……
夜高ミツル
元気……
真城朔
くるのに従って、結局おずおず頭を撫でている。
真城朔
「…………」
真城朔
「あったかい……」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「ふわふわで……」
夜高ミツル
「かわいいな」
真城朔
「……うん」
真城朔
「かわいい……」
真城朔
よしよし……
真城朔
まだややこわごわなりに撫でてます。
夜高ミツル
それでもだいぶ緊張の解けたらしいのを、にこにこと眺めている。
真城朔
二人でちょこちょことうさぎを撫で……
真城朔
ふれあいの時間が無事終了。
真城朔
籠ごと飼育員さんに回収されていくうさぎに小さく手を振っている。
真城朔
身を乗り出してふすふすしてる……
夜高ミツル
お別れのときまで元気。
真城朔
飛び出したりしなくてよかった……
夜高ミツル
よかった。
真城朔
二人で手を洗ってから。
真城朔
「次、どうする……?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
スマホで時間を確認する。
夜高ミツル
お昼時。
夜高ミツル
「飯食いに行くかー」
夜高ミツル
「食えそう?」
真城朔
「ん……」
真城朔
ちょっと考え込んでから、こくこく頷いた。
真城朔
「あんまりいっぱいじゃなければ……」
夜高ミツル
「アイス結構あったもんな」
真城朔
「うん……」
真城朔
「アイス」
真城朔
「結構、えーと……」
真城朔
「牛乳の感じ」
真城朔
「クリームが……?」
真城朔
氷菓子ならそんなにお腹に残らないんだけど……
夜高ミツル
「濃かったな」
真城朔
「濃かった……」
夜高ミツル
「喫茶っぽいとこがあるみたいだから、そこ行ってみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いている。
真城朔
日傘を出して……
真城朔
ばさ。
夜高ミツル
手を繋ぐ。
夜高ミツル
あっち、と指差して。
夜高ミツル
「行こう」
真城朔
握り返して、頷いた。
真城朔
「うん」
真城朔
喫茶のメニューはなんか思ったより喫茶って感じだった。
真城朔
たぶん本格的に牧場っぽい料理が食べたい人はあっちのバーベキューとかのお店に行くんだろうな……
夜高ミツル
ジンギスカン……
夜高ミツル
羊を見た後だと、なんだかな……という気持ちになった。
真城朔
あんまりいっぱいたべられないし……
夜高ミツル
ので、喫茶の方に来た。
真城朔
黄色い電車の喫茶店。
真城朔
日傘を畳んで二人で乗り込む。
夜高ミツル
「中も電車みたいだ」
真城朔
「ふしぎ……」
真城朔
券売機で買うらしいので、メニューを眺めつつ……
真城朔
「ミツ」
真城朔
「何食べる……?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
メニューを一通り見回し……
真城朔
じー……
夜高ミツル
ラーメンとかうどんとかあるけど……
真城朔
軽食って感じのメニュー。
夜高ミツル
「せっかくだからそれっぽいやつ食べたいよな……」
真城朔
「んー……」
真城朔
頷きつつ……
真城朔
「牧場オリジナル」
真城朔
「が……」
真城朔
指さしてる。
夜高ミツル
「気になるよな」
夜高ミツル
「この辺頼むか」
真城朔
こくこく
真城朔
「ソーセージ、なら」
真城朔
「たぶん」
真城朔
「けっこう食べれる……」
夜高ミツル
「じゃあソーセージ2つと……」
夜高ミツル
「フォカッチャサンドと……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「ポタージュは……いけそう?」
真城朔
頷き止まった。
真城朔
首をひねり……
真城朔
「一人で全部、は」
真城朔
「わかんない……」
夜高ミツル
「じゃあ1つにしとくか」
真城朔
「ん」
真城朔
ちょっと申し訳無さそうに頷いた。
夜高ミツル
「飲み物はどうする?」
真城朔
「飲み物……」
真城朔
ソーセージ食べるから甘いやつはちょっと……
真城朔
「……ウーロン茶?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「俺もそうしよ」
真城朔
頷いてます。
夜高ミツル
券売機にお札を入れて、ぴっぴっと今しがた決めたメニューを押していく。
真城朔
見ています。
夜高ミツル
お釣りと券を回収し、カウンターへ。
真城朔
注文してもらっている……
夜高ミツル
番号札を受け取り、席の方へ。
真城朔
電車の席みたいなテーブル席。
夜高ミツル
夏休みということで、それなりに親子連れの人たちがいる。
夜高ミツル
空いている席に向かい合わせに座る。
真城朔
さすがに……
真城朔
ちょっと狭めの席なので、珍しく対面。
真城朔
荷物を下ろす。
夜高ミツル
めずらしく……
真城朔
テーブルに置かれた番号札をぼんやりと眺めている。
真城朔
「…………」
真城朔
「なんで」
真城朔
「牧場で列車」
真城朔
「なんだろ……?」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「なんでだろうな……?」
夜高ミツル
首を捻る。
夜高ミツル
牧場に電車……
真城朔
ふしぎ……
夜高ミツル
牧場に電車…………?
真城朔
顔を突き合わせて首をひねっている。
真城朔
「あんまり」
真城朔
「関係、ある」
真城朔
「感じが」
真城朔
ないような……
夜高ミツル
「ないよなあ……」
真城朔
ふしぎ……
夜高ミツル
「どっかに書いてたり……」
夜高ミツル
きょろきょろと辺りの壁を見回す。
真城朔
きょろきょろ……
真城朔
合わせて見回すけど……
夜高ミツル
「……ないなあ」
真城朔
「ない……」
真城朔
ふしぎ。
真城朔
「あ」
真城朔
「でも」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「おもしろい」
真城朔
「よね」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「ん……」
夜高ミツル
「ダチョウがいるのも、なんで? だし……」
夜高ミツル
「おもしろいな、ここ」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷いている。
真城朔
「来て」
真城朔
「よかった」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
真夏の日差しの下で連れ回すのをちょっと悩みもしたけど……
夜高ミツル
楽しんでくれているようでよかった。
真城朔
控えめながら楽しそうに笑っている。
真城朔
と、番号札の呼ぶ声。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「行ってくる」
夜高ミツル
「荷物頼む」
真城朔
「ん……」
真城朔
上げかけた腰を下ろす。
夜高ミツル
ぱたぱたとカウンターに向かい……
夜高ミツル
受け取って、すぐに戻ってくる。
真城朔
「ありがと」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
おしぼりで手をふきふき……
夜高ミツル
ふき……
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
いつもの唱和ののち、オリジナルソーセージに箸を伸ばす。
真城朔
1人前につき3本並んでる。
夜高ミツル
フォカッチャサンドに手を伸ばす。
真城朔
全部種類が違う……
真城朔
ケチャップとマスタードが添えてある。
夜高ミツル
包みを開けると、フォカッチャに挟まれていたのはベーコンとレタス。
夜高ミツル
ぱく、とかぶりつく。
真城朔
種類……なんだろ……
真城朔
わかんないな……と思いながらソーセージを齧っています。
真城朔
向かいでミツルがフォカッチャにかじりつくのを見ている。
真城朔
もぐむぐ……
夜高ミツル
もぐもぐ……
夜高ミツル
ゆっくり咀嚼して、飲み込み
夜高ミツル
「ベーコン」
夜高ミツル
「と、レタス」
真城朔
「ん」
真城朔
まだ咀嚼しつつも頷いている。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「おいしい?」
真城朔
訊いた。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
「そっか」
真城朔
嬉しそうに頷いている。
夜高ミツル
「そっちは?」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「えっと」
真城朔
「なんか……」
真城朔
「お肉って感じ」
真城朔
「する」
真城朔
「えーと……」
真城朔
「ジューシー……?」
夜高ミツル
「牧場のだもんなー」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
ミツルも嬉しそうに頷き。
夜高ミツル
「ベーコンもすごい肉って感じ」
真城朔
「牧場のベーコン」
真城朔
「すごそう」
夜高ミツル
「食う?」
真城朔
解像度低いコメントが出た。
真城朔
「ん」
真城朔
ミツルの提案に目をまたたき……
夜高ミツル
いつもふたりとも解像度が低い。
夜高ミツル
差し出している。
真城朔
少し戸惑ったように視線を彷徨わせたが……
真城朔
身を乗り出して、
真城朔
控えめに一口。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
フォカッチャを自分の方に戻して
夜高ミツル
真城がもぐもぐしているのを眺める。
夜高ミツル
じ……
真城朔
時間をかけてもぐもぐしています。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「おいしい……」
夜高ミツル
「いいベーコンって感じするよな、なんか」
真城朔
「うん」
真城朔
「牧場だと」
真城朔
「お肉が……」
真城朔
「…………」
真城朔
ちょっと固まったが……
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
固まったな……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ポタージュ」
真城朔
「飲んでいい?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
カップとスプーンを真城の方に差し出す。
真城朔
「ありがと」
真城朔
受け取り、スプーンでひとさじすくい……
真城朔
ずず……
真城朔
ほ……
真城朔
息をついている。
真城朔
「かぼちゃの味……」
真城朔
かぼちゃのポタージュなので。
夜高ミツル
「かぼちゃのポタージュだなー」
真城朔
「おいしいよ」
真城朔
ミツルの方にカップとスプーンを差し出します。
夜高ミツル
受け取る。
真城朔
ミツルに渡して様子を見ている。
夜高ミツル
ひとさじすくって、口に運び……
真城朔
じー
夜高ミツル
「かぼちゃだ」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
「ね」
真城朔
頷いて、思い出したようにソーセージをかじる。
真城朔
お肉……
夜高ミツル
それを見て、ミツルもまたフォカッチャサンドを一口。
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
もぐむぐ……
真城朔
お肉の味を堪能している。
夜高ミツル
飲み込んで、一旦包みを置いて
夜高ミツル
今度はソーセージを齧る。
真城朔
じ……
真城朔
もぐもぐしながらリアクションを待っている。
夜高ミツル
もぐもぐ……
夜高ミツル
飲み込み……
夜高ミツル
「なんか……」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「肉……」
真城朔
「んん」
夜高ミツル
「あとハーブ……?」
真城朔
口の中に入っているのでもがもがした声にはなるものの、頷いている。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「ね」
真城朔
「味が、なんか……」
真城朔
「…………」
真城朔
「本格的……?」
夜高ミツル
「そんな感じ……」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
「本場の味」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「スーパーのでも普通にうまいけど」
夜高ミツル
「やっぱなんか……違うな……」
真城朔
「お高いやつ」
真城朔
「って感じの……」
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
実際高い。
真城朔
3本250円。
真城朔
の、2本目の残りを齧った。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
でも大きいし結構お得なような気もする……。
夜高ミツル
齧る。
真城朔
おっきいしおいしいし見合った値段。
真城朔
お肉好きだし……
夜高ミツル
喜んでてよかった……
真城朔
おいしくてうれしい。
夜高ミツル
うれしそうだとうれしい。
夜高ミツル
そんな感じで喋ったり眺めたり食べたり……
真城朔
のんびりまったり……
真城朔
ちょっと早めに完食してミツルが食べ終わるのを眺め……
真城朔
まあそれも大した差ではなく。
夜高ミツル
完食。
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「ごちそうさまでした」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
それからなんやかんやと色々回り……
真城朔
動物を見て回ったりなど……
夜高ミツル
見たり触ったり餌をやったり……
真城朔
牧場内を回る列車とか乗った。
真城朔
これなのかな……になったりした。違う気もする。
真城朔
一通り見て回って、
真城朔
最終的に特に目的もなく野原に腰を下ろしている。
真城朔
家族連れが凧揚げしてる……
真城朔
牛や羊が放牧されている様子も見える。
真城朔
日傘をさしてぼんやりとそういった光景を眺めている。
夜高ミツル
夏の日差しではあるものの、高原なので風は涼しい。
真城朔
快適……
真城朔
「……おっきいうさぎ」
真城朔
「おっきかった……」
夜高ミツル
「あんなでかいのがいるんだな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「耳も長くて……」
夜高ミツル
「長い……」
夜高ミツル
「犬くらいでかかったな……」
真城朔
「飼うの大変そう……」
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
「牧場とか」
真城朔
「そういうとこじゃないと」
真城朔
「難しいのかも……」
夜高ミツル
「広くないとだし」
夜高ミツル
「飯もたくさん食うだろうしな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「すごかった……」
夜高ミツル
「だな……」
夜高ミツル
このくらいか……? と両腕を広げている。
真城朔
それくらい……と頷いている。
真城朔
なんか他の珍しい動物は珍しい動物……みたいな感じだったけど
真城朔
でかいうさぎはインパクトがでかかった。
真城朔
なまじ普通のうさぎと触れ合ったあとで……
夜高ミツル
大きさ以外は普通のうさぎとそんなに変わらなくて……
夜高ミツル
「うさぎがこの大きさ……」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
広げた己の両腕を見て、改めてしみじみしている。
真城朔
「モルモットも」
真城朔
「大きいのいるのかな……」
真城朔
今回はそんないなかったけど……
真城朔
みんなころころしてた。
夜高ミツル
「どうだろう」
夜高ミツル
「いるのかもな」
真城朔
「いろんな動物」
真城朔
「いる……」
真城朔
ぼんやりした結論になった。
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
ぼんやりと野原を眺めている。
真城朔
羊や牛がぽつぽつ放牧されている……
夜高ミツル
「広いなー……」
夜高ミツル
さらに遠くには民家もぽつぽつと。
夜高ミツル
本当にぽつぽつと……
真城朔
隔世の感。
真城朔
隔世にしては家族連れが元気だな……
真城朔
なんか……とにかく……
真城朔
「平和……」
夜高ミツル
「だなあ」
夜高ミツル
そよそよと風が吹き抜ける。
夜高ミツル
「北海道って感じだなー……」
真城朔
細い髪が揺れている。
真城朔
「する……」
真城朔
頷いている。
真城朔
「もう」
真城朔
「けっこう長いこと」
真城朔
「いるのにね」
夜高ミツル
「札幌は都会だからな……」
夜高ミツル
「冬はさすが北海道って感じだったけど」
真城朔
「うん……」
真城朔
雪が……
真城朔
すごかった……
夜高ミツル
とにかくすごかった……
真城朔
千葉出身は圧倒されるばかりだった。
夜高ミツル
された……
真城朔
今は夏の北海道。
真城朔
日差しは強いけど日傘で防いで……
夜高ミツル
暑いけど、千葉の夏よりはちょっとマシな感じはある。
真城朔
コンクリートジャングルは大変。
真城朔
「……平和」
真城朔
「だね」
真城朔
同じことを繰り返している。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「平和だ」
真城朔
吸血鬼とか魔女とかモノビーストとか無縁な感じで……
真城朔
ぼんやりのんびりまったり。
夜高ミツル
そんな物騒なもの全部、このままずっと無縁ならいいのに、とは
夜高ミツル
言えなかった。
真城朔
ミツルの内心を知ってか知らずか、心地よさそうに目を細めている。
夜高ミツル
ごろんと、草原に寝転がる。
真城朔
「?」
真城朔
転がったミツルを見下ろす。
夜高ミツル
転がったまま、真城の頬に手を伸ばす。
夜高ミツル
「……来てよかった」
真城朔
触れられる。
真城朔
身を屈めて、ミツルに顔を寄せ、
真城朔
「うん」
真城朔
頷く。
真城朔
日傘で作られた影が、ミツルの顔に落ちる。
夜高ミツル
影が重なる。
真城朔
触れるだけのそれから、
真城朔
ゆっくりと身を起こして、微笑んでいる。
真城朔
「よかったよ」
真城朔
「来て」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
その表情を見上げて、ミツルも笑う。
真城朔
風にそよぐ髪を耳にかけながら、
真城朔
眩しいものを見るような顔で、笑った。