2021/08/19 昼前

真城朔
よいしょとリュックを担いで、看板の前。
真城朔
今日は日傘ではなく帽子。
真城朔
リュックにはお弁当に飲み物に折りたたみの日傘に、それと熊鈴。
夜高ミツル
目の前には青々と生い茂る緑と、それを分けて伸びている山道。
夜高ミツル
今日は、登山をしにやってきた。
真城朔
せっかくなので北海道の山に登ろう! となり……
真城朔
電車に乗り、バスに乗り継ぎ、てくてく歩いてだいたい15分ほどで登山口。
真城朔
既に青々とした緑になんとなく風の爽やかさを感じたりしている。
夜高ミツル
「帽子で大丈夫そうか?」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「木」
真城朔
「けっこう、あるし……」
真城朔
「日陰……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「もしキツくなったら言えよ」
真城朔
「うん」
真城朔
また頷いた。
真城朔
「ありがと」
夜高ミツル
「じゃあ、行くか」
真城朔
こくこく……
真城朔
標識を眺め
真城朔
「えーと」
真城朔
「馬の背」
真城朔
「1.3km」
真城朔
読み上げている。
夜高ミツル
「一番短いコースらしいな」
真城朔
「登山」
真城朔
「素人だし……」
真城朔
街歩きのほうがする。
夜高ミツル
「山は遠足で登ったくらいだな……」
真城朔
「体力は」
真城朔
「ある、し」
真城朔
ふと、じっとミツルを見る。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「……きつくなったら」
真城朔
「休む」
真城朔
「ので……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「言う言う」
夜高ミツル
「ちゃんと」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
頷き……
夜高ミツル
改めて、山道に一歩踏み出す。
夜高ミツル
さすがに手を繋いで……とはいかない……
真城朔
縦並び。
真城朔
ミツルの後ろについていく。
真城朔
「道」
真城朔
「けっこう細い」
真城朔
「っていうか……」
真城朔
両側を草が生い茂っている……
真城朔
あおあお……
夜高ミツル
「かなり山って感じだな……」
真城朔
「山……」
真城朔
初心者向けらしいけど……
真城朔
足元もかなり山。
真城朔
緑を踏みしめて歩いていく。
夜高ミツル
足音に合わせて、ちりちりと熊鈴が鳴る。
真城朔
「熊」
真城朔
「出ないと」
真城朔
「いいね」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
真城のリュックでも熊鈴ちりちり。
真城朔
「モノビよりは、怖くない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「まあ、会いたくはないよな……」
真城朔
「お互い……」
真城朔
モノビは人を食うけど、熊は……
真城朔
食わないにこしたことはないはず……
夜高ミツル
「お互いだなー」
真城朔
頷きながらてくてくとことこ。
夜高ミツル
山道を登っていく。
真城朔
緑がすごい……
真城朔
「山……」
真城朔
また同じこと言ってる。
夜高ミツル
「山だなあ」
真城朔
歩いていると葉っぱが腕に擦れたりする。
真城朔
真城は長袖のパーカーを着込んでいるが……
真城朔
「ミツ」
真城朔
「腕、平気?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
腕を見る。
夜高ミツル
「今のとこは……平気っぽい、けど」
夜高ミツル
「上着着るかー」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「かぶれたり、とか」
真城朔
「もしかしたら……」
真城朔
「思ったより、草」
真城朔
「すごい」
真城朔
「し」
真城朔
わさわさ……
夜高ミツル
「道も狭いしな……」
夜高ミツル
足を止めて、リュックを下ろす。
真城朔
ミツルの下ろしたリュックを持ちます。
真城朔
よいしょ……
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「水分、も」
真城朔
「ついでに補給しても……」
真城朔
いいかも……
夜高ミツル
持ってもらいながら、中からパーカーを取り出す。
夜高ミツル
えいしょと着込み……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「トイレ、ないらしいから」
真城朔
「ほどほどに……」
夜高ミツル
ジッパーを上げて前を閉め、今度は水筒を取り出す。
真城朔
でも脱水症状起こさない具合に……
真城朔
むずかしい。
夜高ミツル
「そうする」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
こぽぽ……と水筒のカップにお茶を注いで
夜高ミツル
一杯だけ飲む。
夜高ミツル
ほどほどに……
夜高ミツル
「真城も飲む?」
真城朔
「ん」
真城朔
じゃあ……と手を差し出す。
夜高ミツル
差し出された手にカップを渡す。
夜高ミツル
そこにまたお茶を注ぐ。
真城朔
片手にリュック、片手にカップ。
真城朔
注いでもらったお茶をくぴくぴ飲んで……
真城朔
「ありがと」
真城朔
空になったカップをミツルに戻す。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
きゅっと水筒を閉めて、リュックに戻す。
夜高ミツル
それからリュックを背負いなおす。
夜高ミツル
よいしょ……
真城朔
渡して……
真城朔
「行ける?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「行こう」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
再び緑の中を歩き出す。
真城朔
ついていく。
真城朔
草をかき分けかき分け……
夜高ミツル
鳥の囀りなんかが聞こえてくる。
真城朔
山。
夜高ミツル
「なんの鳥だろうなー」
真城朔
「なんだろ……」
真城朔
首をひねる。
真城朔
「鳥」
真城朔
「詳しくない……」
夜高ミツル
「俺も」
夜高ミツル
「鳥だな……って思う」
真城朔
「鳥……」
真城朔
頷いている。
真城朔
「山の鳥」
夜高ミツル
「街の方では聞かない感じの鳴き声がする……」
夜高ミツル
「ような気がする」
真城朔
「うん……」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
たぶん。
真城朔
「なんか、普段」
真城朔
「都会だから……」
真城朔
札幌は都会。
真城朔
「電車、ちょっと乗って」
真城朔
「ちょっとバス乗って歩いて」
真城朔
「思ったより、山で……」
真城朔
草を踏みしめて歩いています。
夜高ミツル
「こんな近くでこんなにな……」
真城朔
だんだん傾斜が急になったりならなかったりしてくる……
真城朔
「牧場も」
真城朔
「すごかったし……」
真城朔
「北海道……」
夜高ミツル
道に木の根が張り出してるので、よいしょと乗り越える。
真城朔
よいしょ。
真城朔
ミツルより足取りは軽やか。
夜高ミツル
「札幌が都会すぎるのかもな……」
真城朔
木々で陽射しが遮られているので、だいぶ元気。
真城朔
「札幌」
真城朔
「都会」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
北海道、札幌とかの一部が開けているだけで……
夜高ミツル
あとは山、山、山。
真城朔
そして平野。
真城朔
今は山。
真城朔
山の中で、森って感じで、細い道をてくてくと……
夜高ミツル
「遠足で行った山はもっと登山道が整備されてる感じだったから……」
夜高ミツル
「すげー山って感じだ……」
真城朔
「最初はけっこう」
真城朔
「平坦な感じだったけど……」
真城朔
「だんだん……」
真城朔
道もさらに細く。
真城朔
なかなかでこぼこな感じで……
夜高ミツル
傾斜が……
夜高ミツル
「……あれ」
夜高ミツル
「下りになってる」
真城朔
「え……」
真城朔
意外、と目を瞬かせる。
夜高ミツル
登ってきた道がちょっと水平になったと思ったら、目の前に下りの階段。
真城朔
後ろからちょっと背伸びして……
真城朔
「階段」
真城朔
「ある」
夜高ミツル
「階段だな……」
夜高ミツル
しかも結構続いてる。
夜高ミツル
なんだか釈然としない感じで、階段を下りる。
真城朔
「山登り」
真城朔
「降りる時のが」
真城朔
「危ない、って」
真城朔
「言う……」
夜高ミツル
「確かに、これこけたら危ないだろうな……」
夜高ミツル
慎重に足を踏み出していく。
真城朔
「あぶない……」
真城朔
同じく慎重に。
真城朔
「疲れたら」
真城朔
「休む、し」
真城朔
「…………」
真城朔
休むもなにもずっと細い道なのだが……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷きつつ、そろそろと下っていく。
夜高ミツル
なかなか長い……
真城朔
長くて曲がりくねっている……
夜高ミツル
しばし無言で足を動かし……
真城朔
てくてくというか ふみ……ふみ……みたいな足取り。
夜高ミツル
一歩一歩に気をつけてる。
真城朔
「……けっこう」
真城朔
「だいぶ」
真城朔
「本格的……」
夜高ミツル
「だな……」
真城朔
「休む?」
真城朔
「足」
真城朔
「止めるだけ、でも……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「俺、なんなら」
真城朔
「支えに……」
真城朔
「あ」
真城朔
「抱えたり……」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
強めに大丈夫と言った。
真城朔
強めに言われた。
夜高ミツル
「もうちょいで階段終わりそうだし、そしたらちょっと休憩しよう」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
頷きあって、また黙々と歩を進め……
真城朔
慎重な足取り。
夜高ミツル
やがて、階段を下り切る。
真城朔
ふー。
真城朔
相変わらず周囲は緑、緑、緑。
夜高ミツル
道が細い……
真城朔
木やら草やら……
真城朔
足を止めて見回している。
夜高ミツル
二人で山道で立ち止まる。
真城朔
立ち往生……
真城朔
というわけではないが……
真城朔
さやさやと木の葉の擦れる音がすごい。
夜高ミツル
木の葉の音とか……またよく分からない鳥の声とか……
真城朔
鳴いてる……
真城朔
「……俺」
真城朔
「思った、のが」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「短いコースってことは……」
真城朔
「そのぶん」
真城朔
「勾配が急……」
夜高ミツル
「………………」
夜高ミツル
「…………そう」
夜高ミツル
「なるな…………」
真城朔
「……休みながら」
真城朔
「行こ?」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
頷きあっている。
夜高ミツル
山道で……
真城朔
大自然の真ん中で……
夜高ミツル
そんな感じでほどほどに休憩して、山登りを再開する。
真城朔
改めて自然の厳しさに直面している。
真城朔
初心者でも歩けるコースとは聞いていたんだけど……
夜高ミツル
歩けてはいるが……
真城朔
「傾斜」
真城朔
「すごいね……」
真城朔
道そのものではなく、
真城朔
道の側面を見ながら。
夜高ミツル
「落ちたらどこまで行くんだろうな……」
真城朔
「俺」
真城朔
「追いかけるから……」
夜高ミツル
「ありがとう……」
夜高ミツル
「ならないように、気をつける……」
真城朔
「俺も……」
真城朔
登ってこれるとは思うけど……
真城朔
心配かけないに越したことはない。
夜高ミツル
お互いに……
真城朔
山を噛み締めながら歩きます。
真城朔
「大変だったら」
真城朔
「俺、担げるから」
真城朔
「休んでもいいけど」
夜高ミツル
「大丈夫大丈夫」
夜高ミツル
多少疲労は見えてきたものの、実際足取りはまだ全然しっかりしている。
真城朔
しっかりしてるけど心配……
真城朔
心配性になっている。
真城朔
思ったより山だから……
夜高ミツル
思ったより山ではあった。
夜高ミツル
でも鍛えてるから……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
少し視界が開ける。
夜高ミツル
丁字路。
真城朔
標識が。
夜高ミツル
「山頂まで1キロ」
真城朔
「馬の背?」
夜高ミツル
「ぽい」
夜高ミツル
右向きの標識は山頂、左向きの標識は入り口、と書いてある。
夜高ミツル
「ここで他のルートと合流する感じかな……?」
真城朔
「なるほど……」
真城朔
「ちょっとは」
真城朔
「これからは」
真城朔
「楽かな……?」
夜高ミツル
右を見る。
夜高ミツル
「あ、道が広い……」
真城朔
こくこく
真城朔
「歩きやすそう」
夜高ミツル
「だな」
真城朔
「あと1km」
真城朔
「だから」
真城朔
「半分以上」
真城朔
「来てる」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「……ちょっと休む?」
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「ん」
真城朔
T字路だと人が来た時譲りやすいし……
真城朔
二人で立ち休憩。
夜高ミツル
ふう……
真城朔
軽率に来たが思いの外登山をやっている。
真城朔
岩とかないだけマシか……
夜高ミツル
岩も雪もない……
真城朔
緑と土。
夜高ミツル
「あと半分かー」
夜高ミツル
「まあ急にめちゃくちゃヤバい道とかにならなければ、普通にいけそうだな……」
真城朔
「大丈夫……」
真城朔
「だと」
真城朔
「いい……」
真城朔
希望的観測。
夜高ミツル
初心者向けのはず……!
真城朔
信じたい……!
夜高ミツル
互いに水分補給をしたりしつつ……
真城朔
軽くお菓子も食べたりした。
夜高ミツル
エネルギー補給。
真城朔
だいじ
夜高ミツル
そんな感じで休憩して、残り半分を登り出す。
真城朔
道がだいぶ広くなって歩きやすい。
真城朔
並んで歩けないこともない感じ……
真城朔
「なんか、足元」
真城朔
「かなり……」
夜高ミツル
「かなり歩きやすくなったなー」
真城朔
「葉っぱがない」
真城朔
「道って感じ……」
夜高ミツル
「さっきまで山道って感じだったけど」
夜高ミツル
「今はちゃんと登山道って感じがする」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく
真城朔
「あ」
真城朔
「観音様」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
道の脇に観音様が……
夜高ミツル
「手合わせたらいいのか……?」
夜高ミツル
「こういうの……」
真城朔
「たぶん……?」
真城朔
手を合わせてみる。
夜高ミツル
みる。
真城朔
ごあいさつ。
夜高ミツル
ぺこり……
真城朔
それで特にどうということもないが……
夜高ミツル
なんとなく……
夜高ミツル
スルーするのもなんだし……
真城朔
失礼のないよう……
真城朔
それからも歩いてるとちょこちょこ観音様が。
夜高ミツル
「いっぱいいるんだな……」
真城朔
「定期的に……」
真城朔
都度ご挨拶しつつ進んでいたが……
夜高ミツル
「うわ」
夜高ミツル
足を止める。
真城朔
「ひゃ……」
真城朔
目を瞬いている。
夜高ミツル
「すごいな……」
夜高ミツル
目の前の道には大きめの石がごろごろと……
真城朔
急にハードモード。
真城朔
「たいへんそう……」
夜高ミツル
「気をつけないとな……」
真城朔
こくこく
真城朔
「ゆっくり」
真城朔
「行こう」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
急に凹凸のすごいことになった道を慎重に行く……
真城朔
観音様は相変わらずちょこちょこ。
夜高ミツル
見守られてる……
真城朔
岩も一時的なものかと思いきや……
真城朔
「結構」
真城朔
「ずっと」
真城朔
「こう……」
真城朔
っぽい……?
夜高ミツル
「ずっとあるなあ……」
夜高ミツル
山道なのであんまり先は見えないけど……
夜高ミツル
少なくとも視界の先はずっとこう。
真城朔
たいへん。
真城朔
体力はあるけど、山歩きには慣れていない。
真城朔
真城もかなり慎重な足取りになっているというか、
真城朔
目の前のミツルに合わせているというか……
夜高ミツル
ミツルがそろそろ進んでいるので、必然的に後ろの真城もそうなる。
真城朔
ミツルが躓いた時とか……
真城朔
対応できるように……
真城朔
まあまあ気を張っています。
夜高ミツル
「……これ」
夜高ミツル
「下りの方が多分ヤバいから」
夜高ミツル
「ロープウェイあってよかったな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「この、ごつごつ」
真城朔
「かなりこわい」
夜高ミツル
「な……」
夜高ミツル
「下りでこけたらかなり……」
夜高ミツル
あんまり考えたくない。
真城朔
ふるふる……
真城朔
「こわい……」
真城朔
繰り返した。
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「帰りは」
真城朔
「楽、しよ」
夜高ミツル
「だなー……」
夜高ミツル
「夜になるしな」
夜高ミツル
山頂からは夜景がきれいに見える、とのことなので
夜高ミツル
それを目当てにここに決めたところもある。
真城朔
「うん」
真城朔
「頂上、ついたら」
真城朔
「あとはゆっくり」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「それまで」
真城朔
「あと、ひとがんばり」
真城朔
「…………」
真城朔
道を見……
真城朔
ひとがんばりで済むか……? になっている。
夜高ミツル
もしかして山頂までずっとこうなのでは……
真城朔
「……休む?」
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
「そうするか……」
真城朔
頷く。
真城朔
そのようになった。
真城朔
凸凹の道に立ってひとやすみ……
真城朔
山を降りてくる人とすれ違ったりもしつつ……
夜高ミツル
杖あるとかなり違うんだろうな……とか思ったりする。
真城朔
特別な装備とかなしで来た。
真城朔
かなり行きあたりばったり。
真城朔
一応多少下調べはしてきたけど……
夜高ミツル
俺たちは……
夜高ミツル
山をなめていたのかもしれない……
真城朔
なめてた……
真城朔
軽率さをやや噛み締めています。
夜高ミツル
気軽に来てしまった……
真城朔
気軽に来て険しい道を歩いている。
夜高ミツル
短く険しいコースを……
真城朔
このコースは既に他のコースと合流してるから
真城朔
どっちにしろではあったかもしれないけど……
夜高ミツル
小休止のあと、また凸凹道を登り始める。
真城朔
慎重に慎重に……
真城朔
観音様いっぱいいる……
夜高ミツル
いる……
夜高ミツル
見守られながら登っている。
夜高ミツル
かなりペースは落ちたものの、残り半分を越えてから結構歩いてはいるので……
夜高ミツル
「今3/4くらい……か……?」
真城朔
ちゃくちゃく……
真城朔
「たぶん……?」
夜高ミツル
「分かんないな……」
真城朔
「なんか」
真城朔
「途中で急に険しくなったから」
真城朔
「体感が……」
真城朔
ずっと続いている。
真城朔
たまに階段があるけど……
真城朔
ひどくなったり多少ましになったりしつつ、基本的にはずっと凹凸。
夜高ミツル
やっぱりこれが山頂まで続くんだろうな……になってる。
夜高ミツル
「結構歩いた気はする……けど……」
夜高ミツル
けど……という感じ……
真城朔
「うん……」
真城朔
「や」
真城朔
「休み休み……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「途中」
真城朔
「楽に、なった」
真城朔
「かと思ったんだけど……」
真城朔
合流したあたりで平坦な道になって……
夜高ミツル
「あんな感じでずっと続いてたら楽だったんだけどな~……」
真城朔
「そんな甘い話はなかった……」
夜高ミツル
「なかったなあ……」
夜高ミツル
「山だな……」
真城朔
「山……」
夜高ミツル
「普通に山だった……」
真城朔
「山は厳しい……」
夜高ミツル
「せめて上着は持ってきててよかったな……」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく
真城朔
「腕とか」
真城朔
「こすれそう……」
夜高ミツル
「かなり涼しくなってきた感じもするし……」
真城朔
「山」
夜高ミツル
そもそも涼しい日を選んで来たのもあり……
夜高ミツル
「山だな~……」
真城朔
「大変なとこは」
真城朔
「もっと大変、だろうけど……」
夜高ミツル
「もっと大変なとこに迂闊に登らなくてよかった……」
真城朔
「うん……」
真城朔
深く頷いている。
夜高ミツル
鍛えてるし体力づくりもしてるから……とか言って慢心しないで……
夜高ミツル
今回せずに来たとは言えないが…………
真城朔
一応初心者向けを登ってるはず……
夜高ミツル
これで初心者向け……
真城朔
山は厳しい。
夜高ミツル
大変だな……
夜高ミツル
大変な道をえっちらおっちら登っている。
真城朔
よいしょよいしょとついていく。
夜高ミツル
もうちょっと行ったら休憩するか~なんて話していたところ……
夜高ミツル
不意に視界が開ける。
夜高ミツル
「…………あ」
真城朔
「ん」
真城朔
目をまたたき……
夜高ミツル
どこまでも茂っていた木々がなくなり、
夜高ミツル
開けた場所の真ん中に大きめの建物がある。
真城朔
「…………」
真城朔
ぱちくり……
夜高ミツル
「……山頂?」
真城朔
「ついた?」
夜高ミツル
辺りを見渡す。
夜高ミツル
「ぽい……」
真城朔
ぱち……
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
顔を見合わせる。
夜高ミツル
「着いたな……」
真城朔
「ついた……」
真城朔
「あ」
真城朔
「ベンチある」
夜高ミツル
「おー……」
夜高ミツル
「座ろ座ろ」
真城朔
こくこく……
真城朔
てくてく歩ける。もう道が平たいので。
夜高ミツル
急に文明……
夜高ミツル
二人並んで、ベンチに腰を下ろす。
真城朔
建物がいっぱいあって……
真城朔
ベンチに座って周囲をきょろきょろと見回している。
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
「山の上って感じ薄いな……」
夜高ミツル
「車道あるし……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「展望台」
真城朔
「だよね」
真城朔
白い建物を見上げる。
夜高ミツル
「でか……」
真城朔
「おっきい」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「なんかこう……」
夜高ミツル
「温度差じゃないけど」
夜高ミツル
「ずっと、すげー山って感じのところ歩いてたから……」
真城朔
「うん…………」
真城朔
しきりに頷いている。
真城朔
「急に、なんか」
真城朔
「人工物」
夜高ミツル
「な……」
夜高ミツル
ケーブルカーで登ってきたらしき、軽装の人もちらほらと。
真城朔
文明だ……
真城朔
「もうちょっとしたら」
真城朔
「展望台、行く?」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「ちょっと休憩して……」
真城朔
リュックを下ろしている。
真城朔
チャックをじーと開けて……
真城朔
タオルを出して、ミツルの顔に。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ぽんぽん……
夜高ミツル
目を閉じて拭いてもらっている。
真城朔
「お茶も、飲んで」
真城朔
「休憩したら」
真城朔
「行こ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
まあまあ一休みして、展望台。
夜高ミツル
「わ」
夜高ミツル
「すげー」
夜高ミツル
手すりに手をかけて、下を覗く。
真城朔
「すごい……」
真城朔
ミツルの隣で手すりに手を添えて。
夜高ミツル
「登ってきたんだなあ……」
真城朔
「なかなか」
真城朔
「険しかった……」
真城朔
頷いている。
真城朔
展望台から360℃、広々とした札幌の街を見下ろしながら。
夜高ミツル
「札幌って広いんだな……」
真城朔
「ひろい……」
真城朔
「時たま走り回ってるけど……」
真城朔
狩りの夜に。
夜高ミツル
「見下ろしてみると改めて……って感じだな」
真城朔
「北海道は」
真城朔
「もっと、広い」
真城朔
「のに……」
真城朔
建物がいーーーーーっぱい並んでいるのをぽかんと見ている。
真城朔
建物がずらーーっと並んでて……
真城朔
でも空も広くて……
真城朔
まあまあ雲がかかってて……
夜高ミツル
「広いな……」
夜高ミツル
圧倒されてる。
真城朔
広大。
真城朔
「ひろい……」
夜高ミツル
「うち見えるかなー」
真城朔
「見えてても」
真城朔
「わかる気」
真城朔
「しない……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
建物が多すぎる。
真城朔
「あっちの」
真城朔
「奥」
真城朔
「海……?」
真城朔
「かな……?」
夜高ミツル
指さされた方を見る。
真城朔
目を凝らしている。
夜高ミツル
「多分……」
真城朔
「ひろい……」
真城朔
同じところに戻ってきた。
夜高ミツル
「海まで見えるんだなー……」
真城朔
看板があったのでそそそ……と寄り……
真城朔
「あ」
真城朔
「日本海」
真城朔
看板を指差してから、同じ方角を指差す。
真城朔
「日本海」
真城朔
「見えてる」
夜高ミツル
「海……」
真城朔
「海」
夜高ミツル
「何キロくらいあるんだっけな、海まで……」
夜高ミツル
視界のスケールがすごいな……になっている
真城朔
「…………」
真城朔
「いっぱい……」
真城朔
スケールがすごくてぜんぜんわかんない。
夜高ミツル
「いっぱいだな……」
真城朔
「ひろい……」
真城朔
緩やかな風に目を細めて、
真城朔
ぐぐーっと伸びをした。
真城朔
ミツルを振り返る。
真城朔
「山」
真城朔
「すごいね」
夜高ミツル
「すごいな」
夜高ミツル
「1時間登っただけで、こんな遠くまで見えるんだな」
真城朔
「道のり」
真城朔
「険しかっただけ、ある……」
真城朔
でこぼこで……
夜高ミツル
「だなあ」
夜高ミツル
二人並んで山頂の風に吹かれる。
真城朔
流石に観光名所だけあってぽつぽつ人がいるけど……
真城朔
二人並んで札幌の街を見ている。
夜高ミツル
この景色のどこかに、二人で一年近くを過ごしてきたマンションがある。
真城朔
「んー……」
真城朔
「札幌駅」
真城朔
「あれ、っぽいから……」
真城朔
看板と見比べている……
真城朔
「…………」
真城朔
「あのあたり……」
真城朔
かなり漠然と指差した。
夜高ミツル
同じく看板と見比べて……
夜高ミツル
「あれが駅……だもんな」
夜高ミツル
「多分」
真城朔
「駅は」
真城朔
「けっこう、わかりやすい」
真城朔
おっきい……
夜高ミツル
「あれ駅ビルだもんな」
真城朔
「うん」
真城朔
「線路が通ってて……」
真城朔
ふんわりと指でなぞっている。
夜高ミツル
「うんうん」
真城朔
「だから……」
真城朔
「…………」
真城朔
目を凝らしてみるも……
真城朔
結局ミツルを見る。
真城朔
「わかんないね」
夜高ミツル
「はは」
夜高ミツル
「わかんないなー」
真城朔
「わかんない……」
夜高ミツル
「別に目立つ建物でもないしな」
真城朔
「ちょっと高い」
真城朔
「けど……」
真城朔
同じくらい高い建物いっぱいある……
夜高ミツル
「いっぱいあるからなー」
夜高ミツル
「あの辺のなんか……どれか……」
夜高ミツル
「わかんねー」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
二人並んでわかんないわかんない言ってる。
夜高ミツル
わかんないになりながら下を眺める。
真城朔
わかんないけど、景色はきれい。
真城朔
しばらく見てたけど……
真城朔
「おなか」
真城朔
「すいてない?」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「そうだな……」
夜高ミツル
「飯食うか」
夜高ミツル
お弁当を作ってきたのだ。
真城朔
「ここだと」
真城朔
「さすがに、だし」
真城朔
「……ベンチ?」
真城朔
さっき休んだ……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
休憩室あるらしいけど……
真城朔
ちょっと持ち込みのお弁当は申し訳ない。
真城朔
においもするし……
夜高ミツル
「一回下りるか」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いて、ミツルについて歩く途中、
真城朔
展望台に象徴的な鐘の隣を通り過ぎる。
真城朔
ぼちぼちと人の姿のある展望台の中でも、そこは特に人が多くいる。
真城朔
特にカップルがぼちぼち。
夜高ミツル
人がいるのが気になって、そちらに視線を向ける。
真城朔
ミツルにつられて目を向けた。
夜高ミツル
鐘……
真城朔
ちょっと調べた時にあったのが。
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「幸せの鐘……?」
真城朔
「みたい……」
夜高ミツル
「あれかあ」
真城朔
「鍵」
真城朔
「かかってる」
夜高ミツル
「後で人いなかったら見てみるか」
真城朔
真城が指差した先には錠前がずらりと。
真城朔
「うん」
真城朔
「ごはん、食べたあとで」
夜高ミツル
神社のおみくじみたいだな……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
だいぶそんなかんじ……
真城朔
「行こ」
真城朔
というわけで、ベンチに逆戻り。
真城朔
二人で並んで座っている。
真城朔
ちょこちょこ人が登ってきたりする……
夜高ミツル
荷物を下ろして、弁当箱を取り出す。
真城朔
お茶も出して、おしぼり出して……
真城朔
おにぎりも出す。
真城朔
お弁当包みをベンチに敷いて……
真城朔
ならべならべ
夜高ミツル
二人の間に並べる。
真城朔
一通り広げまして……
夜高ミツル
「よし」
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
合わせて唱和。
真城朔
お弁当箱の中身は前にお花見で作ったものとほぼ同じ。
夜高ミツル
唐揚げにミニハンバーグ。
真城朔
あとは卵焼きに、つけあわせ的ブロッコリーとかプチトマトとか……
真城朔
おにぎりは塩にぎりで。
真城朔
まんまる。
夜高ミツル
真城が握ってくれた。
真城朔
にぎりました。
真城朔
箸をとって、まずはとりからを。
真城朔
前のと同じ……なんか……揚げてないやつ。
夜高ミツル
まんまるのおにぎりを一つ取る。
真城朔
真城でも一口で食べられるように、小さめに切ってくれている。
真城朔
それを頬張る。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
その隣で、包みを開いておにぎりにかぶりつく。
夜高ミツル
並んでもぐもぐしている。
真城朔
山頂でもぐもぐ……
真城朔
ちょこちょこおかずに作ってきたメニューなので、味は保証付き。
夜高ミツル
「おいしい」
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
ごくん
真城朔
「ん」
真城朔
ミツルに頷いた。
真城朔
「こっちも」
真城朔
「おいしいよ」
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
こちらも頷いている。
真城朔
ベンチに座ってお互いを見つめながら頷き合っている。
真城朔
箸、止まりがち。
夜高ミツル
いつもそう。
夜高ミツル
とはいえさすがにお腹も空いているので、またおにぎりを一口。
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
真城はお腹がすかないのでのんびりしている。
真城朔
のんびりミツルが食べるのを見てます。
真城朔
ミニハンバーグを半分に割ったりしている。
夜高ミツル
二口目を飲み込むと、今度は箸を取って唐揚げをつまむ。
夜高ミツル
唐揚げ……唐揚げ?
真城朔
一応唐揚げということになっている何か。
真城朔
おいしいのは確か。
夜高ミツル
やっぱり唐揚げとはなんか違うもののような気がする。
夜高ミツル
うまいものはうまいが。
真城朔
ミニハンバーグは普通に小さいハンバーグです。
真城朔
もぐむく
真城朔
口を動かしながら、小さめのおにぎりを取って一口。
真城朔
ぼや~
夜高ミツル
小さめのまると大きめのまるを並んで食べて……
真城朔
でかい建物をバックに山を眺め……
真城朔
登ってきた人が通ったり、降りていく人が通ったり。
真城朔
のどか。
真城朔
頭下げてくる人もいる。
夜高ミツル
それに気づいたらこちらも下げ返したり。
真城朔
ぺこりと。
真城朔
山では挨拶が大事。
夜高ミツル
山をなめてたなりに、マナーを一応調べてきた。
夜高ミツル
のどかなところでお弁当を食べている。
真城朔
ぼやぼやと……
真城朔
「なんか」
真城朔
「やっぱり、こゆとこだと」
真城朔
「違うね」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
ここは木に囲まれて麓の景色は見えないけど……
夜高ミツル
それでもやっぱり家で食べるのとは違う。
真城朔
むしろ自然の中って感じはここの方がする……
夜高ミツル
山を登ってきた感。
夜高ミツル
「たくさん歩いた後だしなー」
真城朔
「うん」
真城朔
「思ったより」
真城朔
「大変だった……」
夜高ミツル
「な~……」
真城朔
食べかけの塩にぎりを手にぼんやりと思い返している。
真城朔
「観音様」
真城朔
「いっぱいいた」
夜高ミツル
「すげーいたな……」
真城朔
「途中からちらほら……」
真城朔
「足元、ごろごろになってからは」
真城朔
「なんか」
真城朔
「特に……」
真城朔
多かった気がする……
夜高ミツル
「危ないところを見守ってもらってんのかな……」
真城朔
「かも……」
真城朔
「あそこ」
真城朔
「転んだら」
真城朔
「たいへん」
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
「転ばないでよかった」
真城朔
「よかった」
真城朔
「…………」
真城朔
「気を」
真城朔
「つけてた……」
真城朔
実は……みたいな調子で言う。
夜高ミツル
真城を見る。
夜高ミツル
「ありがとうな」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
「休憩とかも気使ってくれてたもんな」
真城朔
「俺のペース、だと」
真城朔
「危ないから……」
真城朔
控えめに頷いている。
夜高ミツル
ついていけるようになりたいんだけどな……
夜高ミツル
こればかりは……
真城朔
生き物として険しい。
真城朔
「合わせさせると」
真城朔
「よくない」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「おかげで無事に登れた」
真城朔
「よかった……」
真城朔
噛み締めながら、小さくおにぎりを一口。
夜高ミツル
頷いて、ミニハンバーグに箸を伸ばす。
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
もくもく食べてます。
真城朔
雲がかかった空でほどほどの陽射し。
真城朔
帽子と長袖の服でまあまあなんとか……
夜高ミツル
晴れるようなら中に移ったほうがいいかな……
夜高ミツル
とか空を眺めつつ。
真城朔
ぼやぼやと食を進め……
夜高ミツル
もくもくもぐもぐ……
真城朔
むぐむぐ
夜高ミツル
やがて、弁当箱がきれいに空に。
真城朔
おにぎりもなくなりました。
夜高ミツル
お茶を飲んで一息ついて……
真城朔
ぼや~……
夜高ミツル
「ごちそうさまでした」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
仲良く唱和。
夜高ミツル
空になった弁当を片付け、ゴミはビニール袋にまとめて。
真城朔
まとめまとめてお弁当包みにくるみ……
夜高ミツル
後片付け終わり。
真城朔
リュックへもどし。
真城朔
「次」
真城朔
「どうしよ」
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
「まだ夜まで結構あるな……」
真城朔
「ある……」
真城朔
「鐘」
真城朔
「見てみる……?」
夜高ミツル
「あ、そうだな」
夜高ミツル
「行ってみるか」
真城朔
「行こ」
真城朔
頷いて立ち上がり……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
同じく立ち上がり……
真城朔
てくてく道に出つつ、ぼんやりと山を見回し
真城朔
「あ」
真城朔
ぱちりとまばたき。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「お寺」
真城朔
「祠……?」
真城朔
祠というのもちょっと違うような……
真城朔
お参りできそうな場所がある。
真城朔
鈴と……がらがら鳴らすやつが……
夜高ミツル
「お堂……」
夜高ミツル
とも違う気がする。
夜高ミツル
首を捻る。
夜高ミツル
とにかくそういう感じのなんか。
真城朔
ある……
真城朔
「観音様の……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「これも登山者のお守りみたいな……」
夜高ミツル
「そんな感じだよな」
真城朔
「本尊……?」
真城朔
「的な……?」
真城朔
どんどん言葉が曖昧になっていく。
真城朔
わかんないけど……そういう雰囲気の……
夜高ミツル
何もわからない。
夜高ミツル
わかんないけどとりあえず……
夜高ミツル
「お参りしてくか」
真城朔
雰囲気でものを言っている。
真城朔
「しよっか」
真城朔
こくこく……
真城朔
何もわからないけど、お参りはできる。
真城朔
たぶん……
夜高ミツル
てくてくとそちらに向かっていく。
真城朔
ついていきます。
夜高ミツル
石段を登り……
真城朔
てくてく……
夜高ミツル
「賽銭箱中にある……」
夜高ミツル
なぜ……
真城朔
「なんでだろ……」
真城朔
ふしぎ。
真城朔
首をひねっている。
真城朔
鈴は鳴らせそう。
夜高ミツル
わかんないけど、他にお賽銭を入れるような場所もなさそうなので……
夜高ミツル
「二礼二拍手……」
夜高ミツル
言いかけて
夜高ミツル
「あれ、神社だっけ?」
真城朔
「神社……」
真城朔
「お寺……」
真城朔
えーと……
真城朔
覗き込み……
真城朔
「ここは、寺院」
真城朔
「って書いてある」
夜高ミツル
「礼とか拍手とかは寺……?」
夜高ミツル
「神社……?」
真城朔
「…………」
真城朔
「し」
真城朔
「しらべる……?」
真城朔
スマホ取り出し……
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「あ」
真城朔
「二礼二拍一礼は」
真城朔
「お寺ではNG……」
夜高ミツル
「あぶね……」
真城朔
もにもに調べながら読み上げている。
真城朔
ギリギリセーフ。
真城朔
「調べて」
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく
真城朔
「えっと」
真城朔
「手水とか、ないから……」
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「合掌して祈願し、一礼する……?」
真城朔
鈴は……?
真城朔
「…………」
真城朔
「鈴」
真城朔
「あるのって……」
真城朔
もにもに……
真城朔
「神社……?」
夜高ミツル
鈴を見上げている……
真城朔
「あ」
真城朔
「鰐口……?」
夜高ミツル
「わにぐち」
真城朔
「お寺だと鰐口っていうんだ……」
夜高ミツル
「へー……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「確かになんか」
夜高ミツル
「よく見たら鈴と違う……?」
真城朔
「かも……?」
真城朔
わかんない……
真城朔
しばらくもにもにやっていたが……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
なんか平たい……
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「鳴らして」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「普通にしたら」
真城朔
「いいの、かな……?」
真城朔
色々出てきすぎてわかんなくなっちゃった。
夜高ミツル
「かな……」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
「あ、柏手は打たない」
真城朔
「って」
夜高ミツル
「打たない」
真城朔
「それは神社……」
夜高ミツル
頷いて、縄を手に取る。
真城朔
ミツルの手にそっと手を添え……
夜高ミツル
そのまま一緒に引き……
真城朔
えいしょ……
夜高ミツル
今度は奥側に押す。
真城朔
えいや。
夜高ミツル
こーん……
夜高ミツル
鰐口が突かれて鳴る。
真城朔
割と地味な音。
真城朔
鐘っぽい……?
夜高ミツル
鈴じゃない……
夜高ミツル
鰐口を鳴らして、それから……
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
祈願……
真城朔
祈り……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
二人で無事に登頂できました……ありがとうございます……
夜高ミツル
もうすぐ満月だから……狩りも無事に終えられますように……
真城朔
ミツが怪我とかしませんように……
真城朔
できるかぎり平和で過ごせますよう……
夜高ミツル
真城と二人でできるだけ平穏に……
夜高ミツル
…………
夜高ミツル
二人でやたら熱心に願をかけて
真城朔
長々……
夜高ミツル
やがて、どちらからともなく目を開ける。
真城朔
ぱち……
夜高ミツル
正面に向かってお辞儀をして……
真城朔
礼。
夜高ミツル
ぺこり。
夜高ミツル
並んで石段を下りる。
真城朔
とことこ……
真城朔
「……なんか」
真城朔
「思ったより、お寺とか……」
真城朔
「神社とか……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「むずかしい……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「ぜんぜん」
真城朔
「知らなかった……」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
こくこく……
真城朔
「複雑だった」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「そういえば初詣も行かなかったしな……」
真城朔
「まったりしてた……」
夜高ミツル
調べる機会がなかった。
夜高ミツル
「人ヤバいから、あんまりな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「山、も」
真城朔
「登ってこなかったし……」
真城朔
バイク旅してると山登ろうって思わない……
夜高ミツル
思い返せば……
夜高ミツル
北海道に着いてからは、家でのんびりまったりしていた記憶ばかり……
真城朔
つい……
真城朔
家が落ち着く。
真城朔
料理はしてた。
夜高ミツル
料理したり近場の散歩をしたり……
夜高ミツル
「してないこと、たくさんあるなあ……」
真城朔
「ある……」
夜高ミツル
「北海道出る頃には夏休みも終わってるし」
夜高ミツル
「平日は観光とかしやすいかもな」
真城朔
「だと」
真城朔
「いい、ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「色々行ってみような」
真城朔
「……うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「行きたい」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷いて、
夜高ミツル
今は鐘を見に向かう。
真城朔
建物に入り、展望台にあがり……
真城朔
…………
真城朔
まだ人はいるけど……
真城朔
まあ別にいっぱいってほどじゃない。もともと。
夜高ミツル
いっぱいって程じゃなくても、人がいると割と避けがち。
夜高ミツル
避けがちだけど、今はまあいけるかな……という程度。
真城朔
まあまあこれくらいなら別に……
真城朔
と、通り掛かった自販機の……
真城朔
その隣に……
真城朔
きょと、と目を瞬く。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
ミツルもそちらに目を向ける。
真城朔
普通に飲み物が売っている自販機の隣に、
真城朔
なんか……ピンクと白のストライプの自販機がある。
真城朔
なかなかのいかにも感。
夜高ミツル
下の方にでっかく、
夜高ミツル
LOVE
LOCK
夜高ミツル
愛の鍵
真城朔
だいぶいかにも。
夜高ミツル
いかにもだな……
夜高ミツル
「これが……あれか……」
夜高ミツル
「鐘の周りにいっぱいあった……」
真城朔
「うん……」
真城朔
ハート型の錠前と鍵が……
真城朔
「大好きな人と愛の鍵を取り付けると」
真城朔
「固い絆で結ばれるという『愛の鍵伝説』」
真城朔
「…………」
真城朔
首をひねった。
夜高ミツル
「へー……」
夜高ミツル
なんか……すごいな……
真城朔
「なんか……」
真城朔
「…………」
真城朔
「魔女っぽい……」
真城朔
率直な感想。
夜高ミツル
「……あ~~」
夜高ミツル
「うわ」
夜高ミツル
「それっぽ……」
真城朔
「いそう……」
夜高ミツル
「いそ~……」
真城朔
ケチつけるつもりはないけど……
真城朔
多分これは普通のだけど……
夜高ミツル
でもなんかすげー縁起悪く見えてくるな……
夜高ミツル
「………………」
夜高ミツル
「行くか…………」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「行こ」
真城朔
もともとこういうのするタイプではあんまり……
夜高ミツル
お互いそんなに惹かれない方。
真城朔
鐘の方へ。
真城朔
錠前がいっぱい下がってる手すりの真ん中に鐘がある。
真城朔
なんか……ふつうの鐘。
夜高ミツル
ふつう……
夜高ミツル
夜はライトアップされるらしいけど、今はふつうに鐘。
真城朔
けっこう素朴。
真城朔
ぼんやり見上げ……
真城朔
見上げた向こう側に札幌が見える……
夜高ミツル
手すりからは遠いけど、ここだけちょっと高くなってるので麓が見える。
真城朔
「…………」
真城朔
「鳴らす?」
真城朔
せっかく来たので……
真城朔
カップルがなんか錠前とりつけてる……
夜高ミツル
「鳴らしてくか」
夜高ミツル
せっかく来た。
真城朔
「鳴らそ」
夜高ミツル
頷いて……
夜高ミツル
そよそよと風に揺れている紐を取る。
真城朔
手を重ねます。
夜高ミツル
紐を引いて……
真城朔
かーん……
真城朔
甲高い音が鳴った。
夜高ミツル
それを聞きながら鐘を見上げ……
夜高ミツル
人が少ないとはいえあまり独占するのもなんなので、
真城朔
さくさく退去……
夜高ミツル
さくさく……
真城朔
すごすご
夜高ミツル
「休憩所の方行ってみる?」
夜高ミツル
今日はここまでずっと屋外だったし……
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「休む……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
手を取る。
夜高ミツル
「行こ」
真城朔
手を握り返す。
真城朔
「うん」