真城朔
二人で手を繋いで休憩室から出てくる。
真城朔
それなりに長くのんびり過ごして、もうそろそろ夕暮れ時。
夜高ミツル
日の沈むところを見るかということで、外に出てきた。
真城朔
休憩中にソフトクリーム食べたりもした。
真城朔
外の風景を眺めながら食べられる場所があった……
真城朔
事前に調べていた通りレストランは高級感がすごくてちょっとこわかった。
夜高ミツル
さすがにちょっと入れそうにない……
真城朔
ハードルが高い。
真城朔
テイクアウトもあったけど、お弁当食べておなかいっぱいだったので……
真城朔
なんにせよ、再び展望台へ。
夜高ミツル
帰りにまだ残っていれば買って帰ろうとなった。
夜高ミツル
今は展望台。
真城朔
雲のかかった空の青色が薄くなりつつある。
真城朔
彩度は低く、明度は暗く。
真城朔
雲は鮮やかな紅に。
真城朔
地平線は眩しい橙色に染まっている。
夜高ミツル
夕暮れの光に、山の輪郭が浮かび上がっている。
真城朔
「まだ、なんていうか」
真城朔
「街並み」
真城朔
「って感じ」
真城朔
まだ明るいので、建物の輪郭が見える。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「これからだなー」
真城朔
「これから……」
真城朔
並び頷きのんびり眺め。
真城朔
建物の電灯はちかちか見えてきている。
夜高ミツル
のんびりのんびり……
夜高ミツル
「光、大丈夫か?」
夜高ミツル
傾いた日の前ではあんまり帽子が役立たない……
真城朔
「平気」
真城朔
帽子を被り直す。
真城朔
「雲、出てるし」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「あんまり、こう」
真城朔
「直射日光って感じも……」
真城朔
「高い場所だから……?」
真城朔
首をひねった。
夜高ミツル
「かな……」
真城朔
「かも……」
夜高ミツル
よく分からないまま頷きあっている。
夜高ミツル
ともかく大丈夫ならよかった……
真城朔
やや目を眇めてはいる。
夜高ミツル
眩しくはある……
夜高ミツル
ミツルもそう。
真城朔
夕暮れとなればどうしても。
夜高ミツル
オレンジ色の光に照らされながら、二人で日の沈む様を眺める。
真城朔
ぼんやり……
真城朔
ぼんやりしているうちに日が沈みゆく。
夜高ミツル
「ぽつぽつ明かりが点いてきてる」
真城朔
「うん」
真城朔
「増えてる」
真城朔
ぽつぽつちかちか……
真城朔
日が沈むにつれて当然暗くなってくるので、一個一個の光が映えてくる。
夜高ミツル
「街の明かりって、宇宙からも見えるんだっけ……」
真城朔
「なんか」
夜高ミツル
そんな感じの写真をなんかで見た気がする。
真城朔
「先進国の方が、眩しい」
真城朔
「みたいな話……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「こういう夜景が」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「集まって……」
夜高ミツル
「陸の形が分かるくらいに……」
真城朔
「すごい」
夜高ミツル
「すごいよな~」
夜高ミツル
話している間にもどんどんと空は暗くなり
夜高ミツル
反対に、街は眩く光を灯していく。
真城朔
陽射しも眩しくなくなってくる。
真城朔
帽子も取ってしまった。
真城朔
真城の時間。
真城朔
暗くなった世界にちかちかぴかぴか、人の営みの光。
夜高ミツル
ミツルと真城も、いつもならあの光の中にいる。
真城朔
今日だけはちょっと高いところから、人の暮らしと街並みを見下ろしている。
真城朔
「……夜景」
真城朔
「っぽくなってきた」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「きれいだな」
真城朔
「うん」
真城朔
「……きれい」
真城朔
空には少し欠けた月。
夜高ミツル
「普段あの中にいるときは別になんとも思わないのに」
夜高ミツル
「こうして上から見るときれいだよなあ」
真城朔
「中にいると」
真城朔
「ちょっと、眩しすぎちゃう」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「近すぎると見えないもの」
真城朔
「ある」
夜高ミツル
「ここはちょうどいい距離だな」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いている。
真城朔
「宇宙みたいに」
真城朔
「遠すぎもしないし……」
真城朔
一時間の登山。
夜高ミツル
「宇宙はちょっと行けないからな~」
夜高ミツル
真城とだったらどこへでも、と本気で思ってるけど
夜高ミツル
宇宙はさすがに……
真城朔
さすがに。
真城朔
「宇宙」
真城朔
「行っても、別に……」
真城朔
なにもないし……
夜高ミツル
「まあなー」
夜高ミツル
「俺は真城がいればそれでいいけど……」
夜高ミツル
「どうせなら二人で色々できる方が楽しいしな」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いている。
真城朔
「あと」
真城朔
「寒そう、だし」
夜高ミツル
「だな」
夜高ミツル
「あ、あと飯も……」
夜高ミツル
「宇宙食……」
真城朔
「んー……」
真城朔
びみょうな声。
夜高ミツル
「料理なんかできないよな多分……」
真城朔
「宇宙、行きたいなら」
真城朔
「そういうの食べるのも」
真城朔
「いいかもだけど……」
真城朔
「普通に料理」
真城朔
「できるほうが……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「やっぱり宇宙はさすがにだな~……」
真城朔
「これくらいが、いいよ」
真城朔
ミツルへと少し身を寄せる。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
ぎゅっと手を繋ぎなおす。
真城朔
指を絡める。
真城朔
「登るの、ちょっと」
真城朔
「大変だった」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「でも、楽しかった」
真城朔
「うん」
真城朔
「新鮮……」
夜高ミツル
日が落ちた山の上は少し肌寒いけど
夜高ミツル
こうして身を寄せ合っていれば、あたたかい。
真城朔
触れ合った手のひらがあたたかい。
夜高ミツル
「登ってきてよかった」
真城朔
「うん」
真城朔
「きて、よかった」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
のんびり話しているうちに、すっかり暗くなった。
真城朔
暗い街並みに、電灯のひとつひとつがイルミネーションに光ってる。
夜高ミツル
夜景っぽくではなく、本格的に夜景。
真城朔
「えーと……」
真城朔
「日本三大夜景」
真城朔
「だっけ」
夜高ミツル
「三大……」
夜高ミツル
「なるほどなあ……」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
遠くまで地上を埋め尽くす光、光、光……
真城朔
車の光が、この距離からではゆっくりと流れていく。
夜高ミツル
「札幌って都会だな……」
夜高ミツル
今更のようなことを言う。
真城朔
「うん」
真城朔
「すごく都会……」
夜高ミツル
この中に魔女や吸血鬼がどのくらい……
夜高ミツル
いや、考えたくない……やめよう……
真城朔
フォロワーもいっぱい……
真城朔
ハンターもいる。
真城朔
暗くなった夜空に、満つる前の月。
夜高ミツル
眼下には、散々駆けずり回ってきた札幌の夜の街。
真城朔
数日後にはまた駆けずり回る予定があるけど……
真城朔
今はのんびり、街を見下ろしている。
夜高ミツル
「……出る前に、見れて良かった」
夜高ミツル
「来てよかったな」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いて、まじまじと目を凝らしている。
真城朔
「ここで」
真城朔
「暮らしてた」
真城朔
「ん、だね」
夜高ミツル
「長居したな~」
真城朔
「冬」
真城朔
「終わったら、出よう」
真城朔
「とか」
真城朔
「北海道の色々、回ろう」
真城朔
「とか」
真城朔
「言ってたけど……」
夜高ミツル
「ははは」
夜高ミツル
「全部ぐだぐだになっちゃったなー」
真城朔
「家で」
真城朔
「のんびり……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「楽しかったから、つい」
真城朔
「しすぎちゃった」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「住み心地よかったもんなあ」
真城朔
「よかった……」
真城朔
「お店、いっぱい」
真城朔
「近くにあったし……」
真城朔
「都会」
夜高ミツル
想定よりのんびりしてはしまったけど
夜高ミツル
多分お互いに、こういう時間が必要だったのだろうと思う。
真城朔
街を慌ただしく出てきたから……
夜高ミツル
それよりも前からずっと、真城は気の休まるときがなかっただろうし……
真城朔
旅暮らしも悪くはなかったけれども
真城朔
のんびりまったり……
真城朔
生活。
夜高ミツル
そういえばいつだったか、人間の暮らしなんて久しぶりとか言ってたな。
夜高ミツル
あの頃は冗談だと思ってたけど。
夜高ミツル
「冬はさすがに大変だったけど……」
真城朔
「でも、雪遊びとか」
真城朔
「したし……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ほとんどずっと家の中」
真城朔
「いたし」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「買い物もできるだけ買い込んでなー」
夜高ミツル
「あんまり外出ないでいいようにして……」
真城朔
「してた……」
真城朔
「今も、けっこう」
真城朔
「買い込みがち」
真城朔
「だけど」
夜高ミツル
「まあな~」
真城朔
つい……
夜高ミツル
おうちだいすき。
真城朔
買い物は気分転換。
夜高ミツル
「いつか二人でちゃんと住むなら、札幌でもいいのかもな」
真城朔
「いいかも……」
真城朔
頷いているが。
真城朔
「……沖縄」
真城朔
「暮らしてみたら、同じこと」
真城朔
「言うかも……?」
夜高ミツル
はは、と笑う。
夜高ミツル
「言うかも~」
夜高ミツル
「いやでも沖縄は夏がキツいから」
真城朔
「あ……」
真城朔
たしかに……になっている。
真城朔
「でも」
真城朔
「札幌も、冬……」
夜高ミツル
「冬が寒いのは俺も真城も一緒だから」
夜高ミツル
「沖縄は気温もだけど、日差しが厳しいらしいし」
真城朔
「ん……」
真城朔
たしかに……になり続けている。
夜高ミツル
「まあ、沖縄の次決めてないけど、そこも気にいるかもだからなー」
真城朔
「なったら」
真城朔
「その時」
真城朔
「その度、考えよ」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ちょっと……だいぶ……気が早かったな」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いている。
真城朔
頷いて、夜闇に包まれた展望台の上で、
真城朔
きらきらの夜景を見下ろしている。
夜高ミツル
二人身を寄せ合って。
夜高ミツル
「……まあ」
夜高ミツル
「住まないにしろ、また来ような」
真城朔
「……うん」
真城朔
「今度は、めいっぱい」
真城朔
「北海道」
真城朔
「回る……?」
夜高ミツル
「北海道にいたっていうか、札幌にいたって感じだったしな」
夜高ミツル
「もっと東とか北とか」
真城朔
「北海道」
真城朔
「広い……」
夜高ミツル
「知床? 稚内?」
夜高ミツル
何があるかよく知らないけど……
真城朔
「小樽」
真城朔
よくわかんないまま北海道の地名をあげている。
夜高ミツル
何があるかは知らない。
夜高ミツル
「広いよなー……」
真城朔
街を見下ろして。
真城朔
「札幌、だけでも」
真城朔
「こんなに広いのにね」
夜高ミツル
「札幌だって全然回りきれてない……」
真城朔
「行ったことないとこ」
真城朔
「ばっかり」
真城朔
夜景をじーっと見つめている。
夜高ミツル
「なー」
真城朔
「どこが、どう」
真城朔
「とか」
真城朔
「全然わかんない……」
真城朔
「あれ」
真城朔
「ぴかぴかしてる」
真城朔
指差す。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
みんななにもかもぴかぴかしてるが……
夜高ミツル
指差す先を見る。
真城朔
「丸い……」
真城朔
「観覧車?」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「ほんとだ」
真城朔
「行ったことない」
夜高ミツル
「遊園地……?」
夜高ミツル
「遊園地とかあったっけ……」
真城朔
「遊園地は……」
真城朔
「あったら流石に」
真城朔
「知ってる……」
夜高ミツル
「だよなあ」
夜高ミツル
他に遊園地らしい光もないし……
真城朔
「今度」
真城朔
「行ってみる?」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「行ってみようか」
真城朔
「ね」
真城朔
「今から、でも」
真城朔
「行けるとこ」
真城朔
「は……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「行こう」
真城朔
「ね」
真城朔
「うん」
真城朔
「うん、……」
真城朔
繰り返し頷いて、
真城朔
頷いた頬に、すうと涙を落とす。
夜高ミツル
「……真城?」
真城朔
「…………」
真城朔
微笑みのままに泣いている。
夜高ミツル
頬を伝う涙を指で拭う。
真城朔
拭われるままに瞼を伏せて、
真城朔
「……悲しく」
真城朔
「ない」
真城朔
「よ」
夜高ミツル
「なら、よかった」
真城朔
「……うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷きながら俯いている。
真城朔
涙は止まずにいる。
夜高ミツル
涙を拭っていた手を背中に回して、そのまま抱き寄せる。
夜高ミツル
よしよしと背中を撫でる。
真城朔
身体と身体が密着する。
真城朔
軽く体重を預けて、撫でられている。
真城朔
「……悲しく」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「でも俺がしたかったから」
真城朔
「……ん」
真城朔
か細い声で応えて俯く。
夜高ミツル
背中を撫でている。
真城朔
寄り添われている。
真城朔
熱を感じている。
真城朔
一緒にいる。
夜高ミツル
夜風に吹かれて、より一層に互いの熱が心地よい。
真城朔
夜闇に包まれて、より一層に互いの熱に安堵する。
夜高ミツル
「一緒に行こう」
夜高ミツル
「札幌にいる内も、出てからも、どこでも」
真城朔
「……うん」
真城朔
ミツルの肩に頬を寄せて、目を伏せた。
真城朔
「ずっと」
真城朔
「一緒に……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「一緒だ」
夜高ミツル
「ずっと」
真城朔
夜景をいっぱい堪能してしまったので、当然もはやとっぷり夜。
真城朔
これで下山なんてできるはずがないので、帰りはミニケーブルカーとロープウェイ。
夜高ミツル
山の中腹で一度乗り継ぎをする。
真城朔
ついでにレストランのテイクアウトで色々買った……。
真城朔
じゃが棒はその場で二人で分けて食べた。
夜高ミツル
まだ結構あったかくてほくほくで……
夜高ミツル
おいしかった。
真城朔
チーズが強かった。
真城朔
他にも買ったやつは家に帰ってから食べようとなり……
真城朔
「ケーブルカー」
真城朔
「けっこう、ちっちゃい……?」
真城朔
二人で乗り場に来ました。
真城朔
まあまあ人いる。
夜高ミツル
「だな……」
真城朔
緑色のかわいらしげな見た目。
夜高ミツル
ちょうど観覧車のゴンドラのような感じ。
真城朔
ちょっと大きめのゴンドラ。
夜高ミツル
こっちはロープウェイと違って上から吊ってるわけではないけど……
真城朔
ケーブルのカー。
真城朔
二人でくっついて乗り込む。
夜高ミツル
「待たないで済んでよかった」
夜高ミツル
少し声を潜めて話しかける。
真城朔
「待つのも」
真城朔
「嫌じゃない、けど」
真城朔
潜めた声で答えて、でもよかった、と頷いている。
真城朔
前後がガラス張りになってるから、夜景がよく見える。
夜高ミツル
頷き返して。
夜高ミツル
ガラス越しに、街の灯りが少しずつ近づいてくるのが見える。
真城朔
がたんごとん……
真城朔
木も見える。
真城朔
なかなかの存在感で。
夜高ミツル
近い……
真城朔
茂ってる……
真城朔
流れていく木と遠くの夜景をぼんやり眺めつつ……
真城朔
中腹駅へ到着。
夜高ミツル
他の客に混じってケーブルカーを降りる。
真城朔
中腹駅をのんびり歩いていると……
真城朔
「あ」
真城朔
お土産ショップ。
真城朔
に、なんかすごい……
真城朔
存在感のある……
夜高ミツル
あれは……
真城朔
きぐるみみたいなのが……
真城朔
ピンクと黒の……
夜高ミツル
「……うさぎ………………?」
真城朔
「……かな……?」
真城朔
耳が長いし……
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
「目が…………」
真城朔
「口も……」
夜高ミツル
言い知れぬ圧のようなものを感じる……
真城朔
なんか、ある。
真城朔
圧が。
真城朔
「あ」
真城朔
「グッズある……」
真城朔
靴下とかTシャツとか……
夜高ミツル
「もーりす……」
夜高ミツル
「リス……?」
真城朔
「うさぎじゃない……?」
真城朔
ピンクと黒だけど……
夜高ミツル
「そうだよな……」
真城朔
あ、解説ある……
真城朔
…………
夜高ミツル
並んで解説を見る。
真城朔
「えぞりす……」
夜高ミツル
「りす……?」
真城朔
「あ」
真城朔
「しっぽ……」
夜高ミツル
「ほんとだ」
夜高ミツル
「でかい……」
真城朔
「りすっぽく」
真城朔
「見えてきた」
真城朔
「……かも?」
夜高ミツル
「しっぽがあるとちょっとそれっぽい……」
夜高ミツル
しっぽから本体に視線を移す。
夜高ミツル
顔……
真城朔
ずっしりとした胴体……
真城朔
「これ」
真城朔
「口が、鍵穴?」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「なるほど」
夜高ミツル
「だから丸い……?」
真城朔
「丸い……」
真城朔
「もーりす」
真城朔
「の」
真城朔
「伸ばし棒が」
真城朔
「鍵穴で……」
真城朔
「え、と」
真城朔
「幸せの鐘の……?」
夜高ミツル
「なるほどな~……」
真城朔
鍵推し……
真城朔
「あ」
真城朔
「ここでも売ってる……」
真城朔
LOVE LOCKが……
夜高ミツル
「ほんとだ」
真城朔
「推されてる……」
夜高ミツル
「持って帰るのか……?」
夜高ミツル
「あーいや、登りに買っていくのか……」
真城朔
「たぶん」
真城朔
頷いている。
真城朔
「あとは……」
真城朔
普通の北海道みやげみたいなのと……
真城朔
「もーりすバター飴」
夜高ミツル
「色々あるな……」
真城朔
「グッズも……」
真城朔
「あ」
真城朔
「これ、藻岩限定だって」
真城朔
そう指差した先に
夜高ミツル
「お」
真城朔
北海道ラーメン
真城朔
とあった。
真城朔
「…………」
真城朔
藻岩限定の……?
夜高ミツル
「藻岩限定」
夜高ミツル
「北海道ラーメン」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「藻岩ラーメンじゃなくて……?」
真城朔
「北海道ラーメン……」
真城朔
でもここにしか売ってないって書いてある……
夜高ミツル
ここ限定の北海道ラーメン。
真城朔
深い。
真城朔
のか?
真城朔
北海道の広さを実感した直後で……
夜高ミツル
こんな局所的なところで北海道の名を背負ってる……
夜高ミツル
「これ」
夜高ミツル
「買ってく?」
真城朔
「買う?」
真城朔
聞き返しちゃった。
夜高ミツル
「せっかくだし買ってくかー」
夜高ミツル
グッズとかは買って帰れないし……
真城朔
残るものはちょっと。
真城朔
服なら多少はと思うが、ちょっと主張が強すぎる。
真城朔
「買っていって」
真城朔
「今度、作って食べよっか」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
食べ物は買いやすい。
真城朔
料理したいし。
真城朔
ラーメン、あんまりお店で食べないし……
夜高ミツル
「味噌かな」
夜高ミツル
「北海道だし」
真城朔
「ん」
真城朔
「そうしよ」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
3種類ある中から、味噌味のものを1パック手に取る。
真城朔
レジに並び……
夜高ミツル
お会計。
真城朔
食べ物を買い込んでいる……
夜高ミツル
色々買った。
真城朔
「ロープウェイ」
真城朔
「行く?」
真城朔
時間を確認しつつ……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
最後に、ガラス越しの夜闇をバックに佇むもーりすくんをちらっと見て……
真城朔
ちら……
夜高ミツル
やっぱり威圧感がすごい……
夜高ミツル
昼に見たらもうちょっとかわいいのかな……
真城朔
迫力が……
真城朔
迫力に気圧されつつ、ロープウェイへと。
真城朔
ケーブルカーより大きい。
夜高ミツル
ちょっと車体が長い感じ。
真城朔
乗り込み……
真城朔
ちょっとなんか……
真城朔
ケーブルカーより足元が、こう……
夜高ミツル
やや不安定な感じで……
真城朔
ゆらゆら。
真城朔
ケーブルカーと同じく、
真城朔
むしろケーブルカーよりも夜景がよく見える。
真城朔
きらきらぴかぴかの札幌の街。
夜高ミツル
先程よりも更に近づいている。
真城朔
麓へと。
真城朔
ロープウェイ内のアナウンスを聞きながら、
真城朔
少しずつ、いつもの街へと降りていく。
夜高ミツル
「1時間かけて登った距離も、あっという間だな」
真城朔
「うん……」
真城朔
「でも」
真城朔
「上りは、登ってきて」
真城朔
「よかった」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ミツルの顔を窺って、同意が得られたことにちょっとほっとする。
真城朔
また夜景に視線を戻す。
夜高ミツル
「こうしてロープウェイの上から見るのと、山を登りながら見るのとじゃ全然違うもんな」
真城朔
「うん」
真城朔
「……夜」
真城朔
「下山する人って」
真城朔
「いるのかな……?」
真城朔
「あ」
真城朔
「歩き、で」
夜高ミツル
「歩きは……」
夜高ミツル
「いないんじゃないか……?」
真城朔
「危なさそう……」
夜高ミツル
山道を思い起こす。
真城朔
ごろごろでこぼこ……
夜高ミツル
もしかしたら他にもっと歩きやすいルートがあるのかもしれないが……
夜高ミツル
それにしても……
夜高ミツル
「危ないよな……」
夜高ミツル
「歩く人は、明るい内に帰ってるんじゃないかなあ」
真城朔
「普通は」
真城朔
「そうだよね……」
真城朔
たぶん……
真城朔
実際はいるらしいが、今の二人には想像がついていない。
真城朔
ぼんやり近づきつつある札幌の夜景を見下ろしている。
夜高ミツル
夜の森は青々というよりは黒々……という感じで。
真城朔
なかなかの迫力。
夜高ミツル
この下を夜歩く人がいるなんて思えない……
真城朔
熊とかいるかもしれないし……
夜高ミツル
危ない。
真城朔
よくない。
真城朔
普段もっと危ないことをしている二人だが……
真城朔
普段というか……
真城朔
月イチで……
夜高ミツル
危ないことをしてる分、他の危険はできるだけ避けたい二人。
真城朔
平和にいこう。
夜高ミツル
平和にロープウェイで下っている。
真城朔
その下りもそろそろ終わりが見えてきた。
真城朔
街の光ももうすぐ近く。
夜高ミツル
非日常から日常へ。
真城朔
いつもの街へと。
夜高ミツル
「……楽しかったな」
真城朔
「うん」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「来てよかった」
夜高ミツル
展望台でも言ったようなことを繰り返す。
真城朔
同じように頷いている。
夜高ミツル
頷きあっている内に、ロープウェイが駅舎に入っていく。
真城朔
夜景が見えなくなって、
真城朔
駅舎の中、ロープウェイのアナウンスを聞く。
夜高ミツル
「早かったなー」
真城朔
「うん……」
真城朔
ケーブルカーよりは長かったけど、自分で登るよりは当然。
真城朔
「……戻ってきたね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
手を繋いで、ロープウェイを降りる。
夜高ミツル
「帰ろう」
真城朔
「ん」
真城朔
手を握り返して、歩いていく。
真城朔
二人暮らす部屋への、家路につく。
夜高ミツル
街の明かりの中を、二人で。
真城朔
いつもの暮らしへ帰りゆく。