2021/08/23 夕方

真城朔
エプロンを着て台所に立っている。
夜高ミツル
念の為こちらもエプロンをつけて、やや引いた位置に立っている。
夜高ミツル
右腕には変わらず包帯がぐるぐると。
真城朔
カレーを作る。
真城朔
昼には二人で買い物に出かけた。
真城朔
狩り明けなので食材をいっぱい買い込みました。
夜高ミツル
右腕が使えないだけで、他は元気。
夜高ミツル
買い物も一緒に行ける。
真城朔
とはいえ怪我人を連れ回してしまった……
真城朔
俺が一人で行けたら良かったんだけど……
夜高ミツル
もし真城一人で行けても一緒に行く。
真城朔
ついてきてもらいました。
真城朔
というわけで、昼に買ったばかりの豚肉、にんじん、じゃがいも、たまねぎ。
真城朔
そしてカレールー。
真城朔
豚肉はカレー用のやつとかじゃなくて、普通の薄切り肉。
夜高ミツル
二人の間ではそれがスタンダードになっている。
真城朔
これが一番落ち着く……
真城朔
「えーと……」
真城朔
カレールーを取り上げて、裏のレシピを確認している。
真城朔
流石に覚えてるつもりだけどちょっと自信ない……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
後ろから見守っています。
真城朔
見守られている。
真城朔
朝昼ごはんも結構こんな感じだった。
真城朔
「……野菜を」
真城朔
「切ります」
真城朔
宣言をした。
真城朔
カレールーを置く。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
頷いてる。
真城朔
頷き返しながら、まな板を出す。
真城朔
包丁を出して……
真城朔
じゃがいもを洗います。
真城朔
じゃぶじゃぶ
真城朔
ほどほどに洗ったら、ピーラーを出して皮を剥く。
夜高ミツル
あんまりミツルから口を出すのはよくないので……
真城朔
三角コーナーに皮を落としている……
夜高ミツル
困っている様子がなければ見守りに徹するぞ、と思っている。
真城朔
徹されている。
真城朔
なんだかんだやってきているし、そんなに難しい行程でもないので、
真城朔
着々と進みます。
真城朔
皮を剥いて、じゃがいもは乱切り。
真城朔
あっ……
真城朔
芽……
真城朔
乱切りにしかけたところで芽を取り始める。
真城朔
これは結構手つきがぎこちない。
夜高ミツル
なんか困惑している気配があったが……
夜高ミツル
芽を取り除きはじめたのを見てなるほどになった。
真城朔
包丁の……顎の部分で……
真城朔
えぐり……
真城朔
えぐり出すように……
夜高ミツル
がんばれ……!
真城朔
普段こういう難しい行程はミツルがやりがち。
真城朔
「あ」
真城朔
だいぶ抉ってしまった……
真城朔
いっぱい無駄が出た感じがして、ちょっとしょんぼりする。
夜高ミツル
しょんぼりしてる……
真城朔
しょんぼりしつつ続けている。
真城朔
慎重に……
真城朔
しんちょうに
真城朔
サクッ……
真城朔
力加減が難しいらしい。
真城朔
結果、かなり芽の部分が凹ついたじゃがいもがまな板の上にごろごろと並んだ。
真城朔
なかなかに哀れな姿……
夜高ミツル
切ったら大丈夫!
真城朔
切ります。
真城朔
乱切りはかんたんなのですぐに終わる。
真城朔
終わったので、ボウルを出して水を張り……
真城朔
ちゃぷちゃぷ……
真城朔
じゃがいもを浮かべて食事台に。
真城朔
アク抜き。
夜高ミツル
一緒に料理をし始めた頃を思うと、真城もかなり料理に慣れてきたと思う。
夜高ミツル
自信の方はまだあんまりなさげだが……
真城朔
だいぶ包丁さばきがまあまあいい感じになってきた。
真城朔
まあまあいい感じになってきた包丁さばきでにんじんを乱切りしてます。
夜高ミツル
皮を剥くにしても切るにしても、危なっかしいところはなくなった。
真城朔
皮剥きはピーラー。
真城朔
にんじんはアク抜きいらんのでザルにあげる。
真城朔
玉ねぎも……
真城朔
昔は皮剥きだけ任されたりしてたけど……
真城朔
今も薄切りとかみじん切りとかはあんまり自信ないけど……
夜高ミツル
みじん切りはそもそも難しい……
真城朔
カレーに入れる玉ねぎは細めのくし切りでいいので、気楽。
真城朔
さくさく切ってこちらもザルに。
真城朔
目が痛くなったりしない。アド。
夜高ミツル
ならないらしい。
真城朔
しみない。
真城朔
関係ないとこでは泣くけど玉ねぎには強い。
真城朔
まな板を軽く水洗い……
真城朔
豚の薄切り肉を広げ、食べやすい感じに切っていく。
真城朔
ざっくり。加熱したら縮むので。
夜高ミツル
そんなに神経質にならなくても大丈夫なやつ。
真城朔
煮込んじゃうしね。
真城朔
切った肉は一旦トレーに戻して、とりあえず包丁とまな板を洗い……
真城朔
じゃぶじゃぶ……
夜高ミツル
高1の時、初めて真城がミツルの家に遊びに来て
夜高ミツル
その時に出したのがカレーだった。
夜高ミツル
理由は失敗しないから。
真城朔
カレーは簡単。
真城朔
シンプルイズベスト。
真城朔
なので、そんなに緊張する必要はないはずなのだが……
夜高ミツル
変にアレンジとかもしないし……
真城朔
なんか妙に緊張感を伴ってやっています。
真城朔
洗い物をする背中もぴしっと伸びてる。
夜高ミツル
やっぱり後ろで見てるのが緊張するんだろうか……
夜高ミツル
最初に見てても大丈夫か確認はしたけど……
真城朔
見ててほしいって言った。
真城朔
ふあんなので……
夜高ミツル
ということなので、遠慮なくこうして見守っている。
真城朔
まな板と包丁を定位置に戻し……
真城朔
鍋を出す。
真城朔
コンロに乗せて油を……
真城朔
カレールー取ってきた。
真城朔
レシピを見て量を確認する。不安なので。
夜高ミツル
確認は大事。
真城朔
ちゃんと大さじを使って指示された量の油を入れます。
真城朔
コンロを着火して、加熱。
真城朔
「あっ」
真城朔
換気扇のスイッチを入れた。
夜高ミツル
あ……
夜高ミツル
よくある……
真城朔
あぶないあぶない……
真城朔
菜箸で油の様子を見ているけどいまいちよくわからない……
真城朔
わかんないけど熱くなってきた気がするし……
真城朔
たぶん……
夜高ミツル
最終的に熱くなるから大丈夫だろ……というところはある。
真城朔
ある。
真城朔
豚肉を入れます。
真城朔
じゅわって音がした。
真城朔
熱くなってた。
真城朔
菜箸でばらけさせながら炒めていく……
真城朔
肉の炒められるいい感じの匂いと音がします。
夜高ミツル
いい匂いがしてきてる。
真城朔
料理って感じ。
真城朔
ほどほどに加熱できたらたまねぎの入ったざるを持ってきて……
真城朔
IN。
真城朔
炒め続けます。
夜高ミツル
火を扱ってる様子も、前はもっとこわごわ……という感じだった。
真城朔
あんまり強火にできなかった。
真城朔
中火が強火くらいに受け止めてた。
真城朔
実際中火ってけっこう強いし……
夜高ミツル
強い。
夜高ミツル
中火と強火の感覚、難しい……
真城朔
火加減というものの難しさ……
真城朔
たまねぎと肉を長めに炒めつつ……
真城朔
はたと顔を上げた。
真城朔
たまねぎを入れていたざるを取って、流し台の方へ。
真城朔
アク抜きしていたじゃがいもをざるにあげます。
夜高ミツル
ざばー
真城朔
ざばざば
真城朔
白いのがボウルの底に……
真城朔
ざるに上げたじゃがいもを食事台に戻し、
真城朔
たまねぎの透き通り具合を……
真城朔
かくにん……
真城朔
「…………」
真城朔
しばらくまじまじ覗き込んでいたが……
夜高ミツル
見てるな……
真城朔
見ていたが、ちらりとミツルを振り返った。
夜高ミツル
目が合った。
夜高ミツル
合ったので、鍋の方に近づいていく。
真城朔
場所を譲りつつ……
真城朔
「もう」
真城朔
「大丈夫かな……?」
真城朔
玉ねぎの火の通り具合……
夜高ミツル
鍋を覗き込む。
真城朔
じゅうじゅうになった肉と、だいぶくったりしてるたまねぎが。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「このくらいで大丈夫」
真城朔
「ん」
真城朔
ほっ……
真城朔
見るからに安堵した。
夜高ミツル
安堵した様子を見て微笑んで、
夜高ミツル
「順調にできてるから」
夜高ミツル
「この調子でやってけば大丈夫」
真城朔
「う」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく頷いた。
夜高ミツル
頷きを返して、元いた場所に戻ります。
真城朔
鍋の前に戻り……
真城朔
次はにんじんを入れる。
真城朔
どさどさ
真城朔
軽く炒め……
真城朔
すぐにじゃがいもも入れちゃう。
真城朔
たまねぎと違ってそんなに気を遣わなくていいという認識……
真城朔
油を行き渡らせる感じに炒めていきます。
夜高ミツル
炒めてる後ろ姿を見ている。
真城朔
熱心にやってます。
真城朔
無心……
夜高ミツル
じゅわじゅわ……と具材の熱される音がしている。
真城朔
換気扇の音をバックに……
真城朔
しばらくそんな感じでやっていたが、ふと手を止めて……
真城朔
覗き込み……
真城朔
「…………」
真城朔
むむ……
夜高ミツル
悩んでる……
真城朔
しばらく悩んでいたが……
真城朔
決心したように頷いた。
夜高ミツル
おお……っ
真城朔
計量カップを取って、水を出す。
真城朔
じゃー……
真城朔
レシピぶんの水を注ぎます。
真城朔
大きい方の計量カップで2回に分けて。
真城朔
鍋に水がひたひたに。
夜高ミツル
計量カップやらスプーンやらは、真城と一緒に料理をするようになってから改めて揃えた。
夜高ミツル
ミツルは3年間の自炊経験でなんとなく目分量で分かるけど、真城はそうではなく……
真城朔
わかんない……
真城朔
ふあん……
夜高ミツル
あとは、計量をきちんとしないといけないような料理を以前は作らなかった、というのもある。
真城朔
目分量料理
真城朔
真城は毎回計ります。
夜高ミツル
野菜と肉を、切って炒めて醤油かけて終わり、みたいなのばっかり作ってた。
夜高ミツル
真城と一緒にここに暮らすようになってから、作ったことのないものに挑戦する機会も増えていたので……
夜高ミツル
そういう意味でも、買うにはちょうどよいタイミングだった。
真城朔
買ってもらえたのでいっぱい使う。
真城朔
料理するときに何かをはかるみたいな仕事を任せられがち。
真城朔
淡々とやる。
真城朔
今は淡々とカレーになる前のカレーを煮込み……
真城朔
ぐつぐつ……
夜高ミツル
煮込まれていってる。
真城朔
お玉を取って……
真城朔
あくをすくう。
真城朔
そろ……っと掬って
真城朔
流し台へぱしゃ……
夜高ミツル
肉を煮込むとあくがでる……
真城朔
アク抜きはしたけどお野菜からも出る。
真城朔
ぐつぐつの真ん中にあくが浮いているので、ほどほどに……
真城朔
ほどほど……
真城朔
…………
真城朔
こういう加減がわからないやつが一番むずかしい。
真城朔
やりすぎると味気なくなっちゃうし……
真城朔
「…………」
真城朔
何回かおたまを行き来させたあたりで……
真城朔
ミツルを振り返りました。
夜高ミツル
再び目が合う。
夜高ミツル
寄っていきます。
真城朔
「もう」
真城朔
「いいかな……?」
真城朔
まだぐつぐつに煮えた中央にあく的なものが浮いてはいるが……
夜高ミツル
このまま飲むものならともかく、ここからルーを入れるわけだし……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「このくらいでもう大丈夫」
真城朔
「ん」
真城朔
ほっ。
真城朔
「ありがと」
真城朔
ミツルOKが出たので……
夜高ミツル
そもそも俺が最初に作ったときはアク抜きしなかったような気がする……
夜高ミツル
後ろに戻りました。
真城朔
レシピにいちおうある……
真城朔
小皿を取って、おたまを置く。
真城朔
蓋をして、火加減を調整して……
真城朔
タイマーをセットする。20分。
夜高ミツル
一人暮らしの男子の雑な料理をしていた。
真城朔
雑にミツルをからかってた。
真城朔
今はこの通りです。
真城朔
あとは煮えるまで待つ……
真城朔
というところで。
真城朔
「サラダ」
真城朔
「作る……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
そんなむずかしいやつじゃないけど……
真城朔
冷蔵庫からレタスを出して、きゅうりとトマトを出して、
真城朔
「…………」
真城朔
「……いっぱい」
真城朔
「作っちゃおっか……?」
真城朔
つくりおき……
夜高ミツル
「それでもいいな」
夜高ミツル
明日の分も。
真城朔
「する」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
「うん」
真城朔
サラダ皿を複数出してくる。
真城朔
たまねぎとにんじんに使っていたざるを軽く洗い……
真城朔
ちぎって洗ったレタスを片方に入れて、とんとんと水を切る。
真城朔
皿に振り分け……
夜高ミツル
サラダはミツルしか食べないから、作ってもらってる感がより強い……
真城朔
トマトときゅうりも切って振り分ける。
真城朔
1個と1本まるごと使った。
夜高ミツル
いっぱい。
真城朔
サラダが4つできました。
真城朔
一個一個ラップを張って冷蔵庫に入れていく。
真城朔
入れたらまたざるを洗いのまな板と包丁を洗いの……
夜高ミツル
こうして後ろで見てると、一人で料理ってやることが多いな……
夜高ミツル
洗い物くらいできたらよかったんだけど……
真城朔
淡々とやっている。
真城朔
定位置に戻し……
真城朔
タイマーを確認すると、まだ5分くらい残ってる。
真城朔
うーんと……
真城朔
「お皿、とか」
真城朔
「食卓とか……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「する」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「並べるの手伝うよ」
真城朔
「ありがとう」
夜高ミツル
一個ずつしか持てないけど……
真城朔
「えーと、じゃあ」
真城朔
「台を……」
真城朔
台ふきんを取ってじゃぶじゃぶ。
真城朔
絞り……
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「火、見てて」
真城朔
「拭いてくる……」
夜高ミツル
「了解」
真城朔
頷いて、食卓の方へ。
真城朔
鍋はほどほどにぐつぐつ言ってます。
夜高ミツル
まあ大丈夫だろうとはいえ、火元からは目を離さないほうがいいのはそう。
真城朔
鍋蓋に水滴がいっぱいついててあんまり中が見えない。
夜高ミツル
真城に代わって鍋を見ている。
真城朔
見てもらっている間に食卓を拭いて戻ってきた。
真城朔
カレー皿を2枚取って食事台に置き……
真城朔
流し台に戻っておしぼりを2つ作る。
真城朔
お湯でじゃぶじゃぶ
真城朔
絞り絞り
真城朔
広げて畳んでくるくる……
真城朔
これはもとからだいたい真城がやるやつなので、手際が良い。
夜高ミツル
巻かれていってる。
真城朔
二つ並びました。
真城朔
「お盆」
真城朔
「小さいやつ……」
真城朔
100均で買った小さいやつを取って……
真城朔
おしぼりを2つと、スプーンを2つと、箸を1膳。
真城朔
乗せました。
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「ん」
真城朔
差し出す。
真城朔
真城は両手で。
夜高ミツル
左手でお盆を受け取り……
夜高ミツル
「あ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「箸」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「フォークにしてもらえるか……?」
真城朔
「あっ」
真城朔
はた……
夜高ミツル
右手が使えないため……
真城朔
そうだった……
真城朔
「ごめん」
真城朔
箸を回収。
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
うっかり……
夜高ミツル
ミツルもスルーしかけた。
真城朔
フォークを1本取って、改めてお盆に乗せます。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「ん」
真城朔
「おねがい」
夜高ミツル
お盆を持って食卓へ。
真城朔
見送り……
真城朔
拭かれた食卓の隅っこに台ふきんが。
夜高ミツル
あれ……
夜高ミツル
とりあえず一旦お盆を置いて、
夜高ミツル
おしぼりやスプーンを1つ1つ並べていく。
夜高ミツル
並べ並べ……
夜高ミツル
終わったらお盆の上に台ふきんを乗せてキッチンに戻る。
真城朔
炊飯器の中のお米をひっくり返し直してます。
真城朔
戻ってきたミツルを向いて、
真城朔
「ありがと」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「これ持ってきちゃったけど、まだ使うやつだった?」
夜高ミツル
ふきんを見せる。
真城朔
「あ」
真城朔
「えーと」
真城朔
「うーんと……」
真城朔
ちょっと言いづらそうにするが……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「戻しとこうか」
真城朔
「ん」
真城朔
控えめに頷いた。
真城朔
「その」
真城朔
「こぼしたら」
真城朔
「とかの……」
真城朔
ぼそぼそ……
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「なるほど」
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
こく……
夜高ミツル
「ん、じゃあ戻しとく」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
お盆は置いて、台ふきんを戻しに行った。
真城朔
見送り……
夜高ミツル
とてとて……
真城朔
ってる間にタイマーが鳴った。
真城朔
ぴぴぴぴ……
夜高ミツル
置くだけなのですぐに戻ってくる。
真城朔
あわあわで止めた。
真城朔
タイマーを止め……
真城朔
火も止めた。
真城朔
鍋の蓋を取ると蒸気がぶわっと。
夜高ミツル
もわもく……
真城朔
すごい。
真城朔
箱からカレールーを取り出して半分にする。
真城朔
半分のフィルムを剥がし、4つに折り……
真城朔
投入。
真城朔
お玉を取ってぐるぐる……
真城朔
ぐるぐるぐるぐる
夜高ミツル
すぐにカレーのにおいがしてくる。
真城朔
カレーになる前のいろんな可能性を秘めた何かが見事にカレーに染まっていく。
夜高ミツル
カレールーを使うとカレーができるぞ。
真城朔
すごいぞ。
真城朔
いっぱいぐるぐるしてます。
真城朔
こういう無心にかき混ぜるやつを無心に延々やりがち。
真城朔
しかし永遠にやるわけにもいかないので、ほどほどに止めて……
真城朔
再び火を点けて、あと10分。
夜高ミツル
あとちょっと。
真城朔
タイマーセット。
真城朔
のんびりかき混ぜながら待つ。
真城朔
ぐる……ぐる……
夜高ミツル
あとはもう邪魔になる心配もないので、真城の傍によって鍋を覗き込む。
真城朔
つやつやのカレーです。
夜高ミツル
「お~」
夜高ミツル
「うまそう」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「カレーに」
真城朔
「なった……」
夜高ミツル
「カレーになってるなー」
真城朔
「…………」
真城朔
「味見」
真城朔
「する……?」
夜高ミツル
「お」
夜高ミツル
「じゃあしようかな」
真城朔
こくこく頷き……
真城朔
小皿を取ってきます。
真城朔
ちょっとだけ掬い上げて……
真城朔
湯気の立つカレーをふうふうする。
夜高ミツル
してもらっている。
真城朔
しばらくふうふうしてから……
真城朔
「熱くないか」
真城朔
「気を、つけて」
夜高ミツル
「ん、ありがと」
真城朔
ちょっと不安げに小皿を差し出す。
夜高ミツル
小皿を受け取り……
夜高ミツル
口元に持っていって、傾ける。
真城朔
とろりとしたカレールー。
真城朔
ただただシンプルにカレールーの味。
夜高ミツル
その味を舌で確かめて、
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「おいしい」
真城朔
「ん」
真城朔
「よかった……」
真城朔
ほっとしています。
真城朔
すぐほっとする。
夜高ミツル
「真城も味見する?」
真城朔
ずっと不安。
真城朔
「俺、は」
夜高ミツル
小皿を差し出す。
真城朔
差し出され……
真城朔
たので、受け取ります。
真城朔
残っているのをちろりと舐める。
真城朔
「…………」
真城朔
「カレーの」
真城朔
「味……」
夜高ミツル
「カレーだなー」
真城朔
頷く。
真城朔
「カレー」
真城朔
「できた……」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「できてる」
真城朔
「よかった……」
真城朔
同じことを繰り返している……
夜高ミツル
うんうん……
夜高ミツル
真城の手にある小皿を取って、流しに持っていく。
夜高ミツル
置き……
真城朔
「あ」
真城朔
「洗う……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
流しの前を譲る。
真城朔
譲られた。
真城朔
ささっと洗って水切りかごへ。
真城朔
ぴぴぴぴ……
真城朔
そうこうしてるうちにまたタイマーが鳴った。
真城朔
10分。
真城朔
火を止める。
真城朔
ミツルを振り返った。
夜高ミツル
「できたな」
真城朔
「……うん」
真城朔
「できた……」
真城朔
「あと、盛る」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
皿を取ります。
真城朔
炊飯器の方へ……
真城朔
とりあえず自分のかるーい方を盛り……
真城朔
もう一枚にミツルのご飯を盛る。
真城朔
いつも見てるくらいを……
夜高ミツル
冷蔵庫を開けて
真城朔
「これで」
真城朔
「大丈夫?」
真城朔
一応確認をする。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
開けたままそちらを見て
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
ほ……
真城朔
頷き返した。
夜高ミツル
「麦茶でいいか?」
真城朔
「うん」
真城朔
「あ」
真城朔
「サラダも」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
カレー皿を両手に鍋の方に戻る。
真城朔
盛り……
真城朔
これは……
真城朔
いざとなったらおかわりしてもらう感じで……
真城朔
まあいつも見てるくらいで……
真城朔
たぶんだいじょうぶだとおもうから……
真城朔
盛ります。
夜高ミツル
麦茶のポット……
夜高ミツル
サラダ……
夜高ミツル
一回に1つずつしか取れない。
夜高ミツル
とりあえず台に置き……
真城朔
真城は1回にカレー皿2枚を持っていく。
真城朔
食卓に置いて戻ってきた。
夜高ミツル
コップを取ってお盆の上に並べている。
真城朔
「俺」
真城朔
「やるよ」
真城朔
「サラダ、持っていって」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「ここでドレッシングかけた方が……」
真城朔
早いかも……
夜高ミツル
「ああ」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
頷く。
真城朔
麦茶のポットを開けています。
真城朔
ミツルが並べてくれたコップへと注ぎ注ぎ……
夜高ミツル
冷蔵庫からドレッシングを取り出す。
夜高ミツル
片手でも蓋を開けるのはできる。
夜高ミツル
よいしょ……
真城朔
あっ……
真城朔
俺がやればよかった……
真城朔
麦茶を注ぎ終わって、ポットを……
夜高ミツル
大丈夫大丈夫……
真城朔
……持っていっちゃうか……
夜高ミツル
蓋を置いて、ドレッシングをかけ……
真城朔
お盆に乗せて食卓へ。
夜高ミツル
ぐるっとかけて、蓋を取り、閉めます。
夜高ミツル
きゅっ
真城朔
戻ってきました。
真城朔
心配そうにミツルを見ている。
夜高ミツル
見られた。
夜高ミツル
「あとはこれ持ってくだけかな」
真城朔
「うん」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
冷蔵庫を開けて、ドレッシングを戻す。
真城朔
見守り……
夜高ミツル
戻ってきてサラダを取る。
夜高ミツル
真城と並んで食卓へ。
真城朔
一緒に。
夜高ミツル
ぽてぽて……
真城朔
食卓にはカレーと麦茶が並んでいる。
真城朔
麦茶のポットも置いてある。
夜高ミツル
最後にサラダを置いて……
夜高ミツル
定位置に腰を下ろす。
真城朔
隣に座ります。
真城朔
手を合わせる。
夜高ミツル
それを見て、
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
声も合わせる。
真城朔
いただきます、とは言ったものの……
真城朔
スプーンを手に取っただけで、ミツルを見ている。
夜高ミツル
スプーンを取る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
カレーと米をひとさじに掬って……
夜高ミツル
ぱくり
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
凝視
夜高ミツル
いつもより気持ち長い気がする咀嚼のあと……
夜高ミツル
ごくり
真城朔
ごくり……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
ほ……
夜高ミツル
真城を見て微笑む。
真城朔
本日何度目かわからない安堵。
真城朔
なんなら朝昼ごはんも似たような感じだった。
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
「具もちゃんと火が通ってるし」
夜高ミツル
「カレーできてる」
真城朔
「カレー」
真城朔
「できた……」
真城朔
ちらと自分の皿を見下ろす。
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
いつもよりも少なめ。
真城朔
それをすくって、ぱくりと一口に。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
見てる。
真城朔
見られている……
真城朔
咀嚼している。
真城朔
もぐむく……
夜高ミツル
お互いにさっき味見をしたはずなのだが……
真城朔
したはずなのだが……
夜高ミツル
したはずなのだが、見守っています。
真城朔
見守られています。
真城朔
よく噛んで飲み込みました。
真城朔
「……うん」
真城朔
頷く。
真城朔
「カレーできてる……」
真城朔
同じことを何度でも言う。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「できてるよ」
夜高ミツル
言う。
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
「……ん」
真城朔
やっと少し表情を緩めた。
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
よかった……
夜高ミツル
ずっと緊張している様子だったから……
真城朔
気が抜けたように肩も落ちる。
真城朔
緊張していました。
夜高ミツル
「包丁使うのもうまくなったし」
夜高ミツル
「火の通り加減も大丈夫だし」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「見て、くれた」
真城朔
「し……」
夜高ミツル
「真城が大丈夫と思ったなら、もう大丈夫だと思うな」
夜高ミツル
二口目を掬って、口へ。
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
「そう」
真城朔
「だと、いい」
真城朔
「けど」
真城朔
じ……
夜高ミツル
もぐもぐしながら頷いている。
真城朔
真城もやっと二口目を。
夜高ミツル
飲み込み……
真城朔
んぐむぐ
夜高ミツル
フォークに持ち替えて、サラダもいただく。
夜高ミツル
もしゃもしゃぱりぱり……
真城朔
レタスとキュウリとトマトのサラダ。
真城朔
めちゃくちゃシンプル
夜高ミツル
シンプルにおいしい。
真城朔
大したことはしてない……
夜高ミツル
飲み込んで、
夜高ミツル
「作業の順番で困ったりもなさそうだったし」
夜高ミツル
多分自分が見てなくても大丈夫だったろうなーと思う。
真城朔
「カレーは」
真城朔
「レシピ、書いてあるから……」
真城朔
飲み込んでからぽつぽつと言う。
夜高ミツル
「煮込んでる間に何するかとかもさ」
夜高ミツル
「スムーズにやれてたし」
真城朔
「いつも」
真城朔
「ミツが、してるときに」
真城朔
「やること……」
夜高ミツル
「一緒に色々してきたもんな」
真城朔
頷く。
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「教えてもらった……」
夜高ミツル
「もう教えることそんなにないのかもなー」
真城朔
「え」
夜高ミツル
サラダを食みます。もしゃもしゃ。
真城朔
「ま」
真城朔
「まだ」
真城朔
「わかんない、こと」
真城朔
「いっぱい……」
夜高ミツル
飲み込み……
夜高ミツル
「俺もいっぱいあるよ」
夜高ミツル
「だから、あとは一緒に調べて試す感じになってくのかなって」
真城朔
「いっしょに……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「俺もほら、プロとかじゃ全然ないからな」
夜高ミツル
「前やってた自炊はめちゃめちゃ適当だったし……」
真城朔
「でも」
真城朔
「おいしかった……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
微笑む。
夜高ミツル
「なら、それはよかった」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく頷いてる。
真城朔
「おいしかったよ」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「ありがとう」
夜高ミツル
「真城が作ってくれる飯もうまいよ」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツの、ほどじゃ」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「そんなことない」
夜高ミツル
「おいしいよ」
夜高ミツル
「すごく」
真城朔
「ん」
真城朔
「うー……」
夜高ミツル
スプーンに持ち替えなおして、カレーを一口。
真城朔
見ている……
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
ミツルに視線を向けつつ、小さめの一口を。
夜高ミツル
並んでカレーを食べる。
真城朔
今日は真城が一人で作ったカレーを。
夜高ミツル
初めてミツルが真城に振る舞ったのと同じ料理。
真城朔
同じカレールーを使って、だいたい同じように作った。
夜高ミツル
具材も同じ。
真城朔
場所は別……
夜高ミツル
場所どころではなく、あの頃とは何もかも違いすぎて。
真城朔
二人の関係も暮らしも、何もかもが変わってしまった。
夜高ミツル
真城とこうなるなんて、あの頃には予想してなかったし、できるはずもなかった。
真城朔
ミツルとこうなるなんて、あの頃には考えもしなかったし、考えていいはずがなかった。
夜高ミツル
変わらないのはカレーの味と、
夜高ミツル
ミツルと真城が、二人でそれを食べているということ。
夜高ミツル
それくらい。
真城朔
それだけ。
真城朔
それだけの事実を二人の延長線に、
真城朔
当たり前のようにこれからを思い描く。
夜高ミツル
きっとこの先も何度も何度もこのカレーを作って
夜高ミツル
そして、二人で並んで食べるのだろう。
真城朔
そのように無邪気に信じていた。