2021/08/24 昼過ぎ

真城朔
台所からは水の流れる音。
真城朔
時折食器の触れ合う音もする。
夜高ミツル
それを聞きながら、やや所在なさげにソファに腰掛けている。
真城朔
昼ごはんは昨日のカレーの残りだった。
夜高ミツル
2日目のカレーはおいしい。
真城朔
真城があんまり食べないからもうちょっと残ってる。
真城朔
どちらにせよその洗い物をして……
真城朔
水音が止まる。
真城朔
終わった。
夜高ミツル
台所の方を見る。
真城朔
少しして、
真城朔
真城がリビングへと戻ってくる。
真城朔
足取りは妙に重たげ。
夜高ミツル
「片付けありがと」
夜高ミツル
戻ってくる真城を迎える。
真城朔
「……ん」
真城朔
控えめに頷くと、ミツルの座るソファへ……
真城朔
ソファへ……
真城朔
行くのだが、ちょっと間を開けて座った。
真城朔
くっついてない。
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「…………」
真城朔
所在なさげに視線が彷徨っている。
夜高ミツル
開けられた間を詰める。
真城朔
詰められてしまった。
真城朔
逃げるわけではないが……
真城朔
身体を少し強張らせた。
夜高ミツル
「真城?」
夜高ミツル
顔を覗き込んで様子を窺う。
真城朔
「う」
真城朔
覗き込まれる。
真城朔
ミツルから視線を逸らした。
真城朔
肩に妙な力が入って、
真城朔
膝の上で拳が握られる。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
気まずい時間……
夜高ミツル
触れようとしていた左手が少しの間躊躇いに固まって、
夜高ミツル
結局、いつものように肩を抱き寄せる。
真城朔
強張った肩が抱き寄せられて、握られた拳にさらに力が入る。
真城朔
息を詰めている。
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「う」
夜高ミツル
肩を抱いた手を、今度は頬に添わせる。
夜高ミツル
すり、と触れる。
真城朔
びくりと肩が跳ねて、
真城朔
伏せられた瞼がおずおずと上がって、
真城朔
夜色の瞳がミツルを映す。
夜高ミツル
熱を伴って、目線が絡む。
真城朔
背を強張らせている。
真城朔
震えた唇が、
真城朔
きゅっと引き結ばれた。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
再び名前を呼んで
真城朔
「ぅ」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
顔を寄せる。
真城朔
反射的に、
真城朔
瞼を伏せてしまう。
夜高ミツル
唇を重ねる。
真城朔
重ねられた唇の奥で、
真城朔
言葉にできないかすかな訴えに、喉が小さく鳴った。
noname
 
真城朔
カーテンの隙間から夕陽が差し込む。
夜高ミツル
起きたら日が傾きかけていた……。
夜高ミツル
まあよくあることだが……。
真城朔
ミツルの隣でシーツにぺったり眠っている。
真城朔
くた……
夜高ミツル
手を伸ばして、乱れた髪を指で梳く。
真城朔
「ん……」
真城朔
小さく息を漏らして、ミツルの手に頭を擦り寄せる。
夜高ミツル
髪を整えて、今は撫でる手つきに。
真城朔
ふにゃふにゃ……
真城朔
表情が緩んだ。
夜高ミツル
その様子に、ミツルの表情も緩む。
真城朔
しばらくすよすよと撫でられていたが……
夜高ミツル
撫で撫で……
真城朔
もぞ……
真城朔
むにゃ……
真城朔
「…………」
真城朔
ぼんやりと瞼をあげる。
真城朔
ぼー……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
それに気づいても手は止めずに。
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「はよ……」
真城朔
ぼやぼやと挨拶を返してから、
真城朔
ちらりとミツルの右腕を見た。
夜高ミツル
右腕にはまだ包帯が厚く巻かれたままで、
夜高ミツル
とはいえ痛みがあるような様子はない。
真城朔
「…………」
真城朔
それでも落ち込んだように視線を落とした。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「痛くないよ」
夜高ミツル
視線を落とした真城に声をかける。
真城朔
「でも」
夜高ミツル
手はやはり、柔らかく真城の頭に触れている。
真城朔
「怪我、してる」
真城朔
「し……」
真城朔
「悪化とか……」
真城朔
できるだけ俺の方からしたけど……
真城朔
したとはいえ……
真城朔
しょぼしょぼ……
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
「真城も気をつけてくれてた」
真城朔
しょぼしょぼしつつも撫でられています。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「大丈夫だって」
夜高ミツル
撫でている。
真城朔
撫でられ……
真城朔
「俺が」
真城朔
「こう、だから……」
夜高ミツル
「俺が、したかった」
夜高ミツル
「真城と」
真城朔
「…………」
真城朔
「付き合わせた……」
夜高ミツル
「俺がしたかったんだ」
夜高ミツル
繰り返して、手を背中に回して抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられる。
真城朔
肌と肌が直接触れ合って、熱が伝わる。
真城朔
いつもの少し低い体温。
夜高ミツル
心地よい、いつものぬくもりがある。
真城朔
しょぼしょぼしていても熱は同じ。
夜高ミツル
身体を寄せて、熱を分け合う。
真城朔
俯いている……
真城朔
俯きながらも、ミツルの腕を振りほどかずにいる。
夜高ミツル
「真城が好きだから」
夜高ミツル
最中にも何度も繰り返した言葉を口にする。
夜高ミツル
「好きだからしたい」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それだけ」
真城朔
「……う」
真城朔
「ぅー……」
真城朔
逃げ場をなくしたように声を漏らす。
夜高ミツル
ますますに身体を寄せる。
真城朔
ぴったりとくっついている。
真城朔
諦めたように、真城からも体重を寄せた。
夜高ミツル
嬉しそうに小さく息をつく。
真城朔
ややぎこちないというか、気まずそうというか、落ち込んだ様子ではありつづけるものの……
夜高ミツル
背中に回していた手を、再び頭に。
夜高ミツル
頭の丸さを確かめるように撫でる。
真城朔
頭を撫でられていると少し落ち着く。
真城朔
おずおずとミツルの胸に頬を寄せて、
真城朔
また瞼を伏せる。
夜高ミツル
寄せられた頭をゆっくりと撫でている。
真城朔
うと……
真城朔
「……み」
真城朔
「つ」
真城朔
うとうとの声で名前を呼ぶ。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
寝そうだな……と思いつつ手は止めない。
真城朔
「……おなか」
真城朔
「すいて、たり……」
真城朔
「とか……」
真城朔
撫でられながら言い募る。
夜高ミツル
「まだ大丈夫」
夜高ミツル
「腹減ったら起こすから、寝ていいよ」
真城朔
「……ん」
真城朔
「こんばん」
真城朔
「肉じゃが……」
真城朔
「ちゃんと……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「楽しみにしてる」
夜高ミツル
「から、ちゃんと起こすよ」
真城朔
「ん…………」
真城朔
頷いて、真城の身体から力が抜ける。
真城朔
穏やかな寝息が立つ。
夜高ミツル
それに気づいてからも、やはりしばらくは手を止めずにいた。