2021/08/26 夜

真城朔
二人揃ってカラオケボックスから出てくる。
真城朔
歌ってきたわけではなく、時間潰しにぼんやりしてた。
夜高ミツル
便利な個室扱い。
真城朔
ドリンクバーもあるし……
夜高ミツル
平日だから安上がりで……
真城朔
隣の歌声がすごかったりしたけど、まあまあ個室なのでのんびりできた。
真城朔
のんびり時間を潰して、外を見回せばすっかり夜。
真城朔
上を見上げれば夜空をバックに、
真城朔
ちかちかと光る観覧車の佇まいが目に入る。
夜高ミツル
大きいとは思っていたが、近くから見ると更に迫力がある。
真城朔
「……前、見たときは」
真城朔
「こんなに小さかったのに……」
真城朔
手で小さい感じの円をつくりながら。
夜高ミツル
「だなあ」
夜高ミツル
「近くで見ると結構あるな……」
真城朔
頷く。
真城朔
「おっきい」
真城朔
当たり前だけど……
真城朔
他愛もない話をしながら、二人で観覧車乗り場へと向かう。
夜高ミツル
受付で大人二人分の料金を支払い……
真城朔
案内されるがままに二人で乗り込む。
真城朔
なんか既に乗り場がライトで青くて光ってる……
夜高ミツル
スタッフの人の笑顔に見送られ、扉が閉まる。
真城朔
密室に。
真城朔
ケーブルカーよりも狭い。
夜高ミツル
片方に2人ずつの、計4人座れるようになっている。
夜高ミツル
のを、片側に二人並んで座る。
真城朔
なんか微妙に傾いてる気がするけど……
真城朔
まあいいか……
真城朔
ゆらゆら揺られながら観覧車の高度が上がっていく。
真城朔
札幌の街が見下ろせる感じになっていく……
夜高ミツル
ゴンドラの側面は床のすぐ上までガラス張りになっている。
夜高ミツル
下がよく見える。
真城朔
なかなかスリリングな仕様。
真城朔
そういうのは別に怖くないけど……
夜高ミツル
そうだろうな……
真城朔
高いとここわいとかは別にもう……
真城朔
ガラスの窓に手を触れて、ぼんやりと札幌の夜景を眺めている。
真城朔
ごうんごうんと少しずつ高度が上がっていく……
夜高ミツル
「観覧車、すげー久しぶりだ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……俺」
真城朔
「実は、初めて……」
夜高ミツル
「初めて」
夜高ミツル
「初めてかあ」
夜高ミツル
「どう?」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いていたが、どうかと訊かれ、
真城朔
ぼんやりとまた外を眺め……
真城朔
「……なんか」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「狭いロープウェイみたいな……」
夜高ミツル
「……あ~」
真城朔
「狭くて」
真城朔
「街中で」
真城朔
「進む方向が違くて……」
夜高ミツル
「ぐるぐる回ってる……」
真城朔
「上にあがってる」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
つい最近ロープウェイに乗ったばかりなので、比べてしまった。
夜高ミツル
こうして話している間にも、ごうんごうんと上に。
真城朔
札幌の街がまあまあ見渡せる感じになってきた。
真城朔
ほんとは多分……
真城朔
一望できる、とか、そういう形容をしてもいいと思うんだけど……
夜高ミツル
高いところから見渡してはいるし……
夜高ミツル
いるんだけど……
真城朔
いるんだけど、という感じ。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
いるんだけど……という空気がやんわりと漂っている。
真城朔
「…………」
真城朔
やんわりぼんやり……
真城朔
「……でも」
真城朔
「この中、だと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「だと?」
夜高ミツル
首を傾げる。
真城朔
「……ミツと」
真城朔
「二人だけ、だから」
真城朔
「安心する……」
真城朔
観覧車のゴンドラはゆらゆら揺れている。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
抱きしめる。
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
抱きしめられている。
真城朔
ミツルの胸に少し身を寄せて、小さく頷いた。
真城朔
そろそろと腕を回す。
真城朔
そろそろ おそるおそる
夜高ミツル
嬉しげに、更に身体を寄せる。
真城朔
抱き合い身を寄せ合いながら、札幌の夜景を見下ろす。
真城朔
札幌の街中から見下ろせる、札幌の夜景を見ている。
夜高ミツル
山から見たよりもずっと近くに光がある。
真城朔
一味違った夜景。
夜高ミツル
夜景の奥、遠くに黒いシルエットが見える。
夜高ミツル
「あれ」
夜高ミツル
「藻岩かな」
真城朔
「?」
真城朔
示された方を見……
真城朔
「…………」
真城朔
「そうかも……?」
真城朔
曖昧ながら頷いた。
真城朔
じっと目を凝らしている。
夜高ミツル
ミツルもそんなに確信なく言っている。
真城朔
「……なんか」
真城朔
「ライトアップっぽいの」
真城朔
「ある気がするし……」
真城朔
「たぶん……?」
真城朔
たぶん……
真城朔
二人でぺったりガラスにくっついて首をかしげている。
夜高ミツル
「ん……あ~」
夜高ミツル
目を凝らして、頷く。
真城朔
「見える?」
夜高ミツル
「なんとなく……」
夜高ミツル
「多分……?」
真城朔
こくこく……
真城朔
曖昧な感じに頷き合っている。
真城朔
「……あそこも」
真城朔
「きれい、だった」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「きれいだったな」
真城朔
「高くて……」
真城朔
「すごかった」
夜高ミツル
「500mとかあったんだもんなあ、高さ」
真城朔
「すごい……」
真城朔
「登った」
夜高ミツル
「横にすると大したことない距離なのにな……」
夜高ミツル
「高さにすると高い……」
真城朔
「高かった……」
真城朔
「ごつごつ」
真城朔
「してた」
夜高ミツル
「大変だったな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷いて……
真城朔
いると、ついにてっぺんを通り越したのか、
真城朔
高度が下がり始めた。
夜高ミツル
地上が近づいてくる。
真城朔
札幌の街が。
夜高ミツル
「……あ、もう下りか」
真城朔
「ん……」
真城朔
「なんか」
真城朔
「あっという間……」
夜高ミツル
「結構短いんだよなあ、観覧車って」
真城朔
「意外と……」
真城朔
「外からだと」
真城朔
「あんまり、意識しない……」
真城朔
どれがどれとか……
夜高ミツル
「しないなあ」
真城朔
「中にいると……」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルにまた身を寄せる。
夜高ミツル
ぴと……
夜高ミツル
お互いに身体を寄せ合う。
真城朔
「……これくらい、狭いの」
真城朔
「わりと」
真城朔
「好き」
真城朔
「かも……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「二人だけだし」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
札幌の街を見下ろしている。
夜高ミツル
この距離だと、地上を歩く人々まで見える。
真城朔
藻岩とは違った夜景の趣。
夜高ミツル
「都会だなー……」
夜高ミツル
「人が多い」
真城朔
「多い」
真城朔
「多かった……」
夜高ミツル
「まだ夏休みだもんなあ」
真城朔
「うん」
真城朔
「……夏休み、とか」
真城朔
「抜きでも……」
夜高ミツル
「抜きでもだったな……」
真城朔
「土日」
真城朔
「あんまり、出なかった」
真城朔
「もんね」
夜高ミツル
「多分正解だったと思う」
真城朔
こく……
真城朔
頷いている。
真城朔
「…………」
真城朔
見下ろす札幌の街が、どんどんいつもの高さへと近づいていく。
真城朔
観覧車の終わりが近づいている。
真城朔
それを惜しむように、ぺったりと窓に張りついて外を見る。
夜高ミツル
身体を寄せたまま、一緒に外を眺める。
真城朔
ぼんやり……
真城朔
夜色の瞳に夜景の光を映し込む。
夜高ミツル
その様子がガラスの反射に映っている。
真城朔
観覧車はもうすぐ終着点へ。
真城朔
札幌での暮らしも、同じく終わりを迎えつつある。
夜高ミツル
「……あっという間だなあ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
ちら、と目を向ければもう降り場が見えている。
真城朔
真城がミツルを向く。
真城朔
夜景を映していた瞳に、今は目の前、ごく近くのミツルを映している。
夜高ミツル
「観覧車も、一緒に札幌で暮らすのも」
夜高ミツル
「時間が経つのって早いよなって思っただけ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
また外へと目を移す。
真城朔
「あっという間」
真城朔
「だった……」
真城朔
言っている間に、
真城朔
観覧車のゴンドラの扉が開く。
夜高ミツル
くっついているところに……
真城朔
くっついてるなあ。
夜高ミツル
さすがに気まずさがあった。
夜高ミツル
真城の手を取ってゴンドラを降りる。
真城朔
いつもとは逆の手で導かれる。
真城朔
ゴンドラは二人を降ろし、次の旅へ。
真城朔
次の一周。
真城朔
その門出をぼんやりと見送る。
夜高ミツル
スタッフの人は大してこちらを気に留めた様子もなかった。
夜高ミツル
カップルなんていくらでも見ているのだろう……
真城朔
あまりにもカップル向けアトラクション。
夜高ミツル
きらびやかなゴンドラが回っていくのを見送って、
夜高ミツル
「……行くか」
真城朔
「ん」
真城朔
手を繋いだまま乗り場から出る。
夜高ミツル
「地下だったっけ……」
真城朔
「ん、と」
真城朔
繋いでいない手でスマホを出し……
真城朔
もにもに……
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
片手しか使えないとこういう時調べられない。
夜高ミツル
使える片手は真城と繋いでいるため。
真城朔
繋いでいるので、真城が調べました。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「ありがと」
夜高ミツル
この後は地下で回転寿司をいただく予定。
真城朔
結構食事処はいっぱいあるんだけど、居酒屋系は入れないし……
真城朔
北海道の寿司はおいしいし。
夜高ミツル
発つ前にまた食べておこうとなった。
夜高ミツル
「行こ」
真城朔
「ん」
真城朔
「行こ」