2021/08/29 昼過ぎ

真城朔
大変天気のよい昼下がり。
真城朔
カーテンを締め切って電気をつけた部屋の中、
真城朔
二人並んでソファに腰掛けている。
夜高ミツル
肩を寄せ合う。
真城朔
こうなってからはずっとミツルの左側。
真城朔
くっつき……
夜高ミツル
左手を回して抱き寄せている。
真城朔
腕を回され、ミツルの肩に頬を寄せている。
真城朔
昼食を食べたあとの穏やかな時間。
夜高ミツル
昼は真城がハンバーグを作ってくれた。
真城朔
二人でよく作っては冷凍してきたミニハンバーグ。
真城朔
今回も一人だけど多めに作って、ちゃんと冷凍もした。
夜高ミツル
多めの肉をむにむにと捏ねるのを見ていた。
真城朔
無心。
真城朔
ミツルが怪我をしてからこちら、そのように真城が一人で料理をしてきたわけだが……
真城朔
(レシピを見てもらうなどの手伝いはあったにせよ……)
真城朔
「…………」
真城朔
ちらとミツルの右腕に視線をやる。
夜高ミツル
明日、包帯を取って抜糸してもらえることになっている。
真城朔
「…………」
真城朔
ちらちらと視線をやりつつ……
夜高ミツル
「……真城?」
夜高ミツル
視線を捉える。
真城朔
少しずつ俯きがちになっていく。
真城朔
視線を逸らし……
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「どうした?」
夜高ミツル
俯いてしまった頭を撫でる。
真城朔
なでられ……
真城朔
「……い」
真城朔
「いたく」
真城朔
「ない?」
真城朔
かなり今更の言葉。
夜高ミツル
今更だったので、思い当たるまでちょっとの間。
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「もう痛くない」
真城朔
「…………」
真城朔
「いたかった……」
真城朔
ときも……
真城朔
ぼそぼそ……
夜高ミツル
「薬飲んでたから、結構大丈夫だったよ」
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
言って、また頭を撫でる。
真城朔
丸い頭を撫でられている。
真城朔
しょぼしょぼ……
真城朔
「糸」
夜高ミツル
しょんぼりさせてしまっている……
真城朔
「明日……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「……抜く、時」
真城朔
「痛いかも」
真城朔
「だし……」
夜高ミツル
「抜糸で痛かったことないから」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの肩にくっついている。
夜高ミツル
「昔は抜糸も痛かったらしいけどなー」
夜高ミツル
「今は痛くないようになってるんだって」
真城朔
「そう」
真城朔
「なんだ……」
真城朔
よくわからない……
真城朔
ぬわれたことない……
夜高ミツル
ないだろうなあ
夜高ミツル
「そうらしい」
真城朔
「…………」
真城朔
「でも」
真城朔
「怪我……」
真城朔
「しない、のが」
真城朔
「一番……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「そうだなあ」
夜高ミツル
真城の肩に体重を預ける。
真城朔
ミツルの体重を受け止めている。
夜高ミツル
怪我をせず、真城に心配をかけずにできたら、どれほどよいことか。
真城朔
「…………」
真城朔
できることなら、ミツルを狩りに連れていきたくはないのだけれど……
真城朔
それを言っても聞いてもらえないことを知っているので、黙っている。
夜高ミツル
最初は随分と反対されたのを押し切って、一緒に狩りに行っている。
夜高ミツル
心配をかけると分かっていて。
真城朔
「…………」
真城朔
自分が悪いから……
真城朔
俺のせい……になっている。
真城朔
なっているけど、口に出すとやっぱりミツルを困らせるから……
真城朔
黙ってくっついている。
夜高ミツル
なんだかんだでお互い黙ってしまっている。
真城朔
穏やかな昼下がりに黙りこくって並んでいる。
夜高ミツル
左手でゆるゆると真城の真っ直ぐな黒髪を梳いている。
真城朔
撫でられ……
真城朔
そうされるのが好きで、心地がよいのに、
真城朔
どこか居心地の悪さを感じている。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
なんとなく気まずい沈黙……。
真城朔
しょぼしょぼ……
夜高ミツル
「…………怪我しないよう、もっと、気をつける」
夜高ミツル
沈黙を破って出たのは、結局そんな当たり前の言葉。
真城朔
「…………ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷く。
真城朔
「俺も」
真城朔
「もっと、ちゃんと……」
真城朔
「もっと……」
真城朔
返す言葉も似たようなもので、幾度となく繰り返されてきたような。
夜高ミツル
「……ありがとう」
夜高ミツル
「真城には、いつも助けてもらってるよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「当たり前……」
真城朔
「だって」
真城朔
「全部」
真城朔
「全部……」
夜高ミツル
「俺は、俺の意思で狩りに行ってるよ」
夜高ミツル
「誰のせいでもないからな」
真城朔
「…………」
真城朔
「でも」
真城朔
「行きたい、わけじゃ……」
夜高ミツル
「そうしたいって思ってる」
真城朔
「…………」
真城朔
ちらりとミツルの顔を見る。
夜高ミツル
すぐ隣から、真城を見つめている。
真城朔
「……俺」
真城朔
「は」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
意味もなく唇をひらいてとじて、
真城朔
結局何も言えないで視線を落とす。
夜高ミツル
しばらく言葉の続きを待っていたが、俯かれてしまった。
真城朔
俯いてしまっています。
夜高ミツル
こうして心を痛めさせて、時には泣かせて、
夜高ミツル
それでも、真城を一人で狩りに行かせる方がずっと嫌だ。
夜高ミツル
左手を背中に回して、抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられる。
真城朔
ミツルの胸に頬を預けて、今もなお俯いている。
夜高ミツル
「もっと気をつける、し」
夜高ミツル
「無茶も無理も、できるだけしない」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
「俺も」
真城朔
「がんばる……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「怪我、するの」
真城朔
「やだ」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「自分の命を守るのを最優先する、も」
夜高ミツル
「覚えてる」
夜高ミツル
「ちゃんと」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「そう、して……」
真城朔
「俺」
真城朔
「なんとでもなる」
真城朔
「し」
真城朔
「大丈夫、だし……」
夜高ミツル
「………………」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
間がありつつも、頷く。
真城朔
頷き返した。
真城朔
ミツルに寄り添っている。
真城朔
寄り添うのも抱き寄せられるのも、
真城朔
こうして大人しくされているのは、
真城朔
いつかを思えば、大きな変化ではある。
夜高ミツル
逃げずに、ずっとミツルの隣にいてくれている。
夜高ミツル
それを求めて、こうして抱きしめて寄り添い合うようになったのも、
夜高ミツル
やはり大きな変化で。
真城朔
「…………」
真城朔
浮かない顔をしてはいるものの……
夜高ミツル
それでも、この腕の中にいる。
真城朔
ずっと一緒にいる。
夜高ミツル
何度も離れかけて、すり抜けそうになって、
夜高ミツル
やっと手を繋いだ。
夜高ミツル
ずっとこうしているためなら、なんだってする。
夜高ミツル
そうしたい。
真城朔
ぬくもりを感じている。
真城朔
真城からは、あまり前向きなことは言えない。
真城朔
時折零れ出ることのあるそれを、
真城朔
こういうときは、よくないと思う。
真城朔
駄目なのに、と我に返る。
夜高ミツル
真城が望める時は、一緒に希望を語る。
夜高ミツル
望めない時は、ミツルが真城の分まで望む。
夜高ミツル
左手で抱き寄せている背中に、そっと右の手も回す。
夜高ミツル
力こそあまり込められないが、久方ぶりに両腕で抱きしめる。
真城朔
「……っ」
真城朔
びく、と身を強張らせて、
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
左手で強張った背中を撫でる。
真城朔
「……き」
真城朔
「きず」
真城朔
「ひらいた」
真城朔
「ら……」
夜高ミツル
「無理は、してない」
夜高ミツル
「痛くもない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「から、大丈夫」
真城朔
じ、とミツルの顔を見つめ……
夜高ミツル
見られる……
夜高ミツル
「力も入れてないから……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ちょっと動かすくらいは、ほら、歩いてても自然に動いたりとかあるし」
夜高ミツル
「な?」
真城朔
じ……
真城朔
しばしミツルの顔を見つめていたが、
夜高ミツル
大丈夫……の顔をしている。
真城朔
やがてやや不安げながらも小さく頷いた。
真城朔
それから、ゆっくりと腕を回す。
真城朔
ミツルの背中に腕を回して、
真城朔
恐る恐るに、その胸に頬を預ける。
夜高ミツル
受け止める。
夜高ミツル
背中を撫でるのも、まだ左腕で。
真城朔
「…………」
真城朔
胸に頬を寄せ、
真城朔
耳を当てる形になる。
夜高ミツル
とく、とく、と鼓動がある。
真城朔
その鼓動の音を聞いている。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「できるだけ」
真城朔
「元気で、いてね」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
「真城と一緒なら元気でいれるよ、俺は」
真城朔
「……ん」
真城朔
再び小さく頷いて、
真城朔
ミツルの胸に頬をすり寄せた。