2021/08/30 昼過ぎ

真城朔
昼下がり。八月の末の天気の良い日。
真城朔
やや古めのビルから、二人揃って出てくる。
真城朔
ビルには不動産屋の看板が下がっているが、その実は曙光騎士団の事務所である。
真城朔
ちょこちょこ世話になってきた。
夜高ミツル
今回はミツルの傷の手当てで世話になった。
真城朔
病院に入院するほどではないけど……くらい。
真城朔
糸を抜いてもらって、ガーゼと軟膏をもらってきた。
真城朔
陽射しの強さに目を細め、リュックから帽子を被り……
夜高ミツル
ぐるぐると腕に巻かれていた包帯は解かれ、今はガーゼが傷口を覆っている。
真城朔
ミツルの頭にも被せる。
真城朔
おそろい色違い。
夜高ミツル
「ありがと」
夜高ミツル
被せられた。
真城朔
被せました。
真城朔
「…………」
真城朔
「痛く」
真城朔
「ない?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「普通に動かす分にはもう問題ないって言われたしな」
真城朔
「ん……」
夜高ミツル
ぐーぱーと右手を軽く握ったり開いたり。
真城朔
心配そうにその様子を眺めている。
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
「痛くない」
真城朔
じ……
真城朔
こく……
真城朔
やや元気がない。
夜高ミツル
ん、と頷きを返して。
夜高ミツル
「行こ」
夜高ミツル
手を取る。
真城朔
「……ん」
真城朔
手を取られ、握り返す。
真城朔
夏の終わりの札幌の街を、二人でのんびり歩いていく。
夜高ミツル
最近はまた暑くって、今日も夏日。
真城朔
札幌なのに……
夜高ミツル
でもやっぱり関東よりはマシだな……というのも分かってきた。
夜高ミツル
今日は暑い方だから暑いけど……
真城朔
関東はむしむしするから……
真城朔
コンクリートジャングル。
真城朔
札幌も都会だからなかなかコンクリートジャングルではあるけども。
夜高ミツル
それでも関東と比べたら全然マシ。
真城朔
まし。
夜高ミツル
まだマシな熱気の中を、手を繋いで歩いている。
真城朔
ぽてぽてとことこ
夜高ミツル
ぽてぽてと向かった先は小さなスーパー。
真城朔
マンションから一番近いスーパーで、よくお世話になっている。
真城朔
カートに籠を乗せ……
夜高ミツル
店内が狭いのであんまり色んなものはないけど、変わったものを作ろうと思わなければそんなに問題ないくらいの品揃え。
真城朔
日常生活には十分。
夜高ミツル
メーカーへの拘りとかもないし。
真城朔
ない……
夜高ミツル
あるやつを買う。
真城朔
からからカートを押して、生鮮食品売り場へ。
真城朔
「……粉」
真城朔
「使い切らないと……」
夜高ミツル
「だなー」
真城朔
「ベーキングパウダー……」
真城朔
強力粉もあんまり使わないけど……
夜高ミツル
「ピザとか?」
真城朔
「同じやつ」
真城朔
「また作る?」
夜高ミツル
「そうだなー」
真城朔
もにもに……
真城朔
スマホを出して調べている。
真城朔
んー……
夜高ミツル
「今回はなんか具足してみるか?」
真城朔
「なに」
真城朔
「足す?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「ソーセージ……?」
真城朔
「チーズ、は」
真城朔
「普通のでいいかな……」
真城朔
生鮮食品売り場でぼんやり話し込んでいる……
夜高ミツル
「いいと思う」
夜高ミツル
「普通にピザ用の買って」
真城朔
「ん」
真城朔
「あとは……」
真城朔
「トマトとか……?」
夜高ミツル
「トマトもいいな」
夜高ミツル
「あとピーマンとか?」
真城朔
「たまねぎ……」
真城朔
とりあえず目についたトマトとピーマンをかごに入れた。
真城朔
たまねぎは家に常備があり……
真城朔
「あ」
真城朔
「サラダの……」
真城朔
レタスも入れる。
真城朔
きゅうりも入れる……
夜高ミツル
かごに野菜がいろいろ。
真城朔
「キャベツ」
真城朔
入れる? みたいな顔でミツルを見る。
夜高ミツル
「買っとくか」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
使いみちが多いし日持ちもする。
真城朔
入れ入れ……
夜高ミツル
便利。
真城朔
レタスよりもつ。
真城朔
「じゃがいも……」
真城朔
は、家にまだあったような……
夜高ミツル
あった気がする。
真城朔
いいかな……?
夜高ミツル
大丈夫ということにする。
真城朔
なった。
真城朔
「バジル」
真城朔
ピザに使う……?
真城朔
「あ、にんじん」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
これは入れておこう……
真城朔
手を伸ばしてにんじんを入れ……
真城朔
バジル……
夜高ミツル
「バジル……」
夜高ミツル
「今回の具だとなくてもよさそう……?」
真城朔
「かな」
真城朔
じゃあなしで……
真城朔
あんまりもたないし……
真城朔
一応いざとなったらドライパセリがある。
夜高ミツル
ピーマンとか乗ってるタイプのピザはバジル乗ってない気がするし……
夜高ミツル
大丈夫だろう……
真城朔
よいものとする。
真城朔
「豆腐」
真城朔
野菜から加工品のコーナーに来た。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
安い豆腐を買う。木綿。
夜高ミツル
「ピザの材料はあと何かいるっけ?」
真城朔
「ソーセージ」
真城朔
「あと、えーと」
真城朔
「チーズ?」
夜高ミツル
「チーズと……ソーセージと……」
夜高ミツル
棚から取ってかごへぽんぽんと置く。
真城朔
スーパーが狭いとこういうのが近くにある。
真城朔
「牛乳」
真城朔
入れる。
真城朔
「あとは」
真城朔
「お肉とか……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「卵も」
真城朔
「買う?」
真城朔
万能。籠に入れる。
夜高ミツル
「買っとこ」
真城朔
お肉売り場のコーナーへ。
真城朔
がらごろ
真城朔
何買おう……
真城朔
いっぱいある……
夜高ミツル
お肉はいろいろある。
真城朔
とりあえず……
真城朔
鶏ももと豚薄切りを取った。
真城朔
定番。
夜高ミツル
安定。
真城朔
2パックずつとる。
真城朔
いっぱいたべる
真城朔
ミツが……
夜高ミツル
冷凍もするし。
真城朔
いっぱいたべてほしいし……
真城朔
なかなか籠にどっさりになってきた。
夜高ミツル
しばらく分の買い物をまとめてするので、いつもこうなる。
真城朔
けっこう買い忘れが生じたりもするけど……
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「これくらい……?」
夜高ミツル
どっさりのかごを見て……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き合う。
夜高ミツル
「とりあえずこんなもんで」
真城朔
「うん」
真城朔
二人でレジの方へ。
真城朔
がらごろ
夜高ミツル
てくてく
真城朔
お会計も支払いも真城がやり……
真城朔
普段はミツルがやってるけど。
夜高ミツル
今は真城に財布を預けてある。
真城朔
預かっています。
真城朔
支払いが終わって詰め場へ。
真城朔
リュックを下ろす。
夜高ミツル
ミツルもリュックを台に下ろす。
真城朔
肉のパックを小袋に入れ……
真城朔
自分のリュックの底へと。
真城朔
詰め詰め……
夜高ミツル
二人並んでリュックに詰めていく。
真城朔
無心。
真城朔
卵のパックだけはレジ袋に。
夜高ミツル
潰れると悲しいため……
真城朔
かなしい。
真城朔
全部詰め終わりました。
真城朔
「ミツ」
真城朔
ミツルのぶんのリュックを抱え……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
抱えてもらったリュックに腕を通す。
真城朔
そろそろ……
真城朔
慎重。
夜高ミツル
しっかりと背負う。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
背負ってもらいました。
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
自分のをひょいと背負って、左手に卵のパック。
夜高ミツル
空いている右手の方を繋ぐ。
真城朔
しっか……
夜高ミツル
ぎゅっ
夜高ミツル
手に手を取って、スーパーを出る。
真城朔
札幌の夏の陽射しに目を細める。
夜高ミツル
「暑いな~」
夜高ミツル
スーパーは涼しかったからよけいに……
真城朔
「あつい……」
真城朔
こくんと頷く。
真城朔
「帰ろ」
真城朔
「早く」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
暑い暑いと言い合いながらも、繋いだ手は離さずに。
夜高ミツル
二人の部屋への帰り道を辿る。
真城朔
二人が過ごした札幌の、夏の終わりの一日のこと。