2021/09/01 昼過ぎ

真城朔
昼食を終え、後片付けも済ませ、リビングのソファへと戻ってくる。
真城朔
ミツルの抜糸が済んだとは言え、一応はまだ安静にしたいということで、
真城朔
今日も家事全般を真城が担当している。
夜高ミツル
やってもらっている。
真城朔
やり終え、戻ってきました。
真城朔
ミツルの隣に寄りつつ……
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
頷き返し……
真城朔
医療キットを出してくる。
真城朔
テーブルの方へ。
夜高ミツル
右腕に貼ってあるガーゼを剥がしていく。
夜高ミツル
ぺりぺり……
真城朔
途中で手を添え……
真城朔
剥がしていきます。
真城朔
慎重……
夜高ミツル
ぺり……ぺり……
真城朔
やたら時間をかけて、慎重にやる。
夜高ミツル
ガーゼの下から、ゆっくりと縫合痕があらわになっていく。
真城朔
しょぼ……
真城朔
気持ちしょぼ……になりながらも手は止めず……
真城朔
無事はがせました。
真城朔
おっきな傷……
夜高ミツル
抜糸したばかりの傷跡はまだ生々しい。
真城朔
そのさまにずいぶんとしょぼしょぼになりつつ……
真城朔
真新しい脱脂綿を出します。
真城朔
消毒液を吸わせて……
真城朔
ガーゼに覆われていた部分を消毒していく。
真城朔
ぽん……ぽん……
夜高ミツル
ぽんぽんしてくれるのを眺めている。
真城朔
痛くないように軽い感じでやっている。
夜高ミツル
落ち込ませるくらいなら自分でしたっていいんだけど、それはそれで落ち込ませるだろうから……
真城朔
したいと主張して、しています。
夜高ミツル
お言葉に甘えている。
真城朔
消毒が終わったので脱脂綿を捨て……
真城朔
新しい脱脂綿に消毒液を吸わせ……
真城朔
ガーゼが貼られていた部分との境界をこしこしと……
夜高ミツル
丁寧にやってもらっている……。
真城朔
きになる……
真城朔
汚れも落としました。
夜高ミツル
きれい。
真城朔
曙光騎士団からもらった軟膏を出して……
真城朔
手に取り……
真城朔
そっ……
真城朔
ぬり…………
真城朔
ぺた……
夜高ミツル
ひや……
夜高ミツル
軟膏のぺたっとした感触。
真城朔
傷に障らないようにぺたぺたと……
真城朔
「…………」
真城朔
「痛く」
真城朔
「ない?」
真城朔
いつもの確認。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
多少しみはするけども……当たって痛いとかではないので……
真城朔
「……ん」
真城朔
慎重にぬりぬりぺたぺた……
真城朔
馴染ませています。
真城朔
すり……
真城朔
ミツルの腕を白い指で撫ぜている。
夜高ミツル
白い指が傷をなぞって動くのを見ている。
真城朔
視線はまっすぐに。
真城朔
真剣にミツルの腕の傷へと注がれている。
夜高ミツル
傷が一つ、また一つと増える度、
夜高ミツル
別に誇らしい気持ちになるでもなく……
夜高ミツル
また真城を悲しませてしまうな、と思う。
真城朔
その真城はミツルの傷の手当てに集中している。
真城朔
ぺたぺた軟膏を塗り終えて……
真城朔
まじ……
真城朔
…………
真城朔
よし……
真城朔
よし……になったので、貼るガーゼを出しました。
夜高ミツル
よしになってる。
真城朔
接着面の保護を剥がし……
真城朔
伸ばし……
真城朔
んー……
真城朔
ミツルの傷をうまく覆う角度を確認している。
夜高ミツル
腕を差し出したまま待機している。
真城朔
何度も再確認し……
真城朔
こっち……
真城朔
いや……ここが……
真城朔
…………
真城朔
こう…………
夜高ミツル
ガーゼを傾けているのを見……
真城朔
ガーゼの端をぺた……
真城朔
皺を作らないようにそこからゆっくり……
真城朔
でもミツの傷が痛まないように……
真城朔
あっ
真城朔
皺……
真城朔
斜めに……
真城朔
でも剥がして貼りなおせないし……
真城朔
軌道修正……
真城朔
皺…………
真城朔
…………
夜高ミツル
声かけたら集中が切れそうで黙っている。
夜高ミツル
真剣にやってくれているので……
真城朔
なんとか貼り終えました。
真城朔
ちょっと不格好に接着面が歪んでいる……
真城朔
うーん…………
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「ん……」
夜高ミツル
終わったので、うーんになっている真城に声をかける。
真城朔
頷き……
真城朔
医療キットを片付けながら、微妙に釈然としない表情。
真城朔
じーっとミツルの腕を見ている……
夜高ミツル
見られている……
夜高ミツル
自分でもなんとなく右腕に視線をやる。
真城朔
「……なんか」
真城朔
「変で…………」
真城朔
医者のひとみたいにうまくできない……
夜高ミツル
「大丈夫大丈夫」
夜高ミツル
「ちゃんと貼れてる」
真城朔
かな……
真城朔
うーん……
真城朔
うーんになりつつ、医療キットをしまいました。
真城朔
ゴミ箱も戻し……
真城朔
手を洗って戻ってくる。
夜高ミツル
隣に腰を下ろした真城の頭を撫でる。
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
撫でられる。
真城朔
「……うん」
真城朔
また頷く。
夜高ミツル
撫でている。
夜高ミツル
左手で。
夜高ミツル
右手は使うとまだ心配させる……。
真城朔
しんぱい……
真城朔
ほどほどに使っていくのがいいとはいうけど……
真城朔
リハビリ……
真城朔
「……もう」
真城朔
「九月……」
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
こく……
夜高ミツル
「そろそろ出る準備もしてかないとな……」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いている。
真城朔
スマホを取ってきて……
真城朔
「……十日?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん……」
真城朔
こく……
真城朔
もにもにとスマホをいじり……
夜高ミツル
その日に退去する予定で、既に管理会社に連絡してある。
真城朔
真城がスマホの画面に出したのはゴミ収集日のカレンダー。
真城朔
ミツルと覗き込みつつ……
夜高ミツル
覗き……
真城朔
「ちょっとくらい、は」
真城朔
「困ったら、樋口さんが……」
真城朔
二人が札幌を出ると聞いた曙光騎士団の人が、置いていいって言ってくれてた。
夜高ミツル
「助かるな……」
真城朔
こく……
真城朔
「けど……」
真城朔
「できる限りは、ちゃんと……」
夜高ミツル
退去前最後の燃えるゴミの日は9日。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
こくこく
真城朔
「火曜日に」
真城朔
「プラごみ……」
真城朔
プラごみはここが最後で……
真城朔
指差している。
夜高ミツル
「水曜が燃えないゴミ」
真城朔
こく……
夜高ミツル
「木曜が燃えるゴミ……」
夜高ミツル
順番にカレンダーのマス目を追う。
真城朔
「ペットボトル、とか」
真城朔
「最後の日」
真城朔
十日を指差して。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「冷蔵庫も」
真城朔
ちらりと台所の方を見る……
真城朔
「ちょっとずつ……」
夜高ミツル
「空にしてかないとな……」
真城朔
粉とか減らしてるけど……
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「フライパンとか水曜に出さないとだから」
夜高ミツル
「料理できるのは火曜までか……?」
真城朔
「ん……」
真城朔
こく……
真城朔
「それ以降は」
真城朔
「……電子レンジ……?」
夜高ミツル
「だなー」
真城朔
「低温調理器……」
夜高ミツル
「あれは……」
夜高ミツル
台所の方に目をやる。
真城朔
「いっぱい」
夜高ミツル
見えないけど……
真城朔
「ローストビーフつくった……」
夜高ミツル
「作ったなー……」
真城朔
こくこく
真城朔
「……おいしかった」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「便利だったな……」
真城朔
「すごかった」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
しょんぼりし始めている。
真城朔
捨てたくないな……
真城朔
全体的にだけど……
真城朔
特に愛着がある。
夜高ミツル
ある……
夜高ミツル
問題なく使える機械を捨てるというのも、なんだか……
夜高ミツル
という感じもあり……。
真城朔
もったいない……
真城朔
もうしわけない……
真城朔
そんな感じの……
夜高ミツル
まだ使えるのに……
夜高ミツル
「……もったいないな……」
真城朔
「……うん……」
真城朔
「でも」
真城朔
「持ってけない」
真城朔
「よね……」
真城朔
あっても仕方がなさすぎる……
夜高ミツル
「無理だなあ」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
ミツルもしょんぼり……とまではいかないものの、
夜高ミツル
だいぶテンション上がらない感じ。
真城朔
スマホの画面を二人で覗きながら、なんとなくくっついてる。
夜高ミツル
ぴと……
真城朔
くっつき……
真城朔
「……もう」
真城朔
「一週間と、ちょっと……」
夜高ミツル
「早いなー……」
夜高ミツル
なんだかこればっかり言ってる気がする。
真城朔
日々体感している。
真城朔
「あんまり」
真城朔
「のんびりも、もう……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
しょぼしょぼ
夜高ミツル
元々荷物を増やさないようにしてきたから、そこまで片付けるものもなくはあるけど……
真城朔
服とか捨てて……
真城朔
消耗品も捨てて……
真城朔
ちょっとした家事セットを捨てて……
真城朔
あとはまあだいたいレンタル。
夜高ミツル
普通の引っ越しと比べたら、だいぶやることは少ない。
真城朔
出ていくだけ。
真城朔
それだけのことがやたらに寂しい。
夜高ミツル
去年の11月に入居してから、おおよそ10ヶ月。
夜高ミツル
早かったけど、短くはなかった。
夜高ミツル
この部屋にも、暮らしの中で使ってきたものたちにも、すっかり愛着が湧いてしまった。
真城朔
どこかに腰を落ち着けてゆっくり過ごすなんて久しぶりで……
真城朔
すっかり堪能してしまった。
夜高ミツル
のんびりまったり……
夜高ミツル
二人で巣ごもりを……
真城朔
してしまった……
真城朔
それが名残惜しくて、
真城朔
終わるのが寂しくなってしまって、
真城朔
ぴったりとミツルにくっついている。
夜高ミツル
ミツルの方も、真城に身体を寄せている。
夜高ミツル
二人して、ここを離れがたくて、寂しくて
夜高ミツル
その気持ちを分かち合うように、ぴったりと寄り添う。
真城朔
埋められない寂しさを、お互いの熱で補っている。
夜高ミツル
「……沖縄でも」
夜高ミツル
「いい部屋見つけような」
真城朔
「……うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「のんびり過ごせる」
真城朔
「とこだと」
真城朔
「いいな」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「キッチン広めで……」
真城朔
「あとは……」
真城朔
「…………」
真城朔
あんまりないかも……
夜高ミツル
ないなあ……
夜高ミツル
ベッドも別に狭くてもいいし……
真城朔
いっしょならそれで……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
だから、ミツルからも「あとは」の先が思いつかない。
真城朔
ただ、これから先も二人でのんびり過ごせますように。
夜高ミツル
それだけが、望むことだった。