2021/09/07 夕方

真城朔
明日は燃えないごみの日。
夜高ミツル
フライパンや鍋などはこの日に出してしまわないといけない。
夜高ミツル
ということで、今日がこの部屋でする最後の料理。
真城朔
二人でエプロンを着てキッチンに立っている。
夜高ミツル
最後に何を作るかあれこれ考えたが……
夜高ミツル
ビーフストロガノフにしよう、ということになった。
真城朔
クリスマスの夜に二人で作った料理。
真城朔
真城はほとんど見てるだけだったが……
夜高ミツル
まだ本格的に一緒に料理を始める前だった。
夜高ミツル
でも炒めてもらったりした。
真城朔
炒めるのはやった……
真城朔
ちらりとミツルの腕を見る。
夜高ミツル
腕には相変わらずガーゼが貼ってある。
真城朔
心配そうに表情を曇らせ……
真城朔
「包丁」
真城朔
「俺、する……」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「俺炒めるのやるな」
真城朔
「お願い」
真城朔
図らずともクリスマスのときとは逆に。
真城朔
まな板を出し……
真城朔
たまねぎを剥き始めます。
真城朔
ぺりぺり
真城朔
ミツはもっと手際よくやってる気がする……
真城朔
みたいな気持ちが、料理をするたびにある。
真城朔
あるが、やるしかない。
真城朔
やっている。
真城朔
皮を剥いて並べ、まずは縦に割り……
真城朔
縦に二等分されたたまねぎを倒し……
真城朔
とん……とん…………
真城朔
やや危なっかしさを感じないでもない慎重さで薄切りしていく。
真城朔
ミツのやってた薄切りよりはどうしても厚い……
真城朔
気がする……
夜高ミツル
その隣で計量の必要なものを計ったりしている。
真城朔
前と同じビーフストロガノフのレシピで作ろうとしたんだけど……
夜高ミツル
なんか見つからなかった。
真城朔
すぐ見つかるやつを使ったはずなんだけどな……
真城朔
ふしぎ。
夜高ミツル
検索して上の方に出てきたはず……
夜高ミツル
はずなのに見つからなかったので、今回は別のレシピを参考にしている。
真城朔
なんとなく近い感じの違うレシピ。
夜高ミツル
今回はデミグラスソースを使わない。
夜高ミツル
カットトマトにケチャップ、ウスターソース。
真城朔
カットトマトの使用量が中途半端だったので、ちょっとアレンジしちゃおうという結論が出ている。
真城朔
たまねぎを切り終わり……
真城朔
小さめのざるにあげて、次はしめじにとりかかる。
夜高ミツル
ケチャップにソースに砂糖と、大さじで量って深めの小皿に入れていく。
真城朔
石突きを落とし ばらけさせ……
夜高ミツル
水はレシピより減らすので、煮込みながら様子を見つつ入れていく感じで……
夜高ミツル
量るものはこれくらいで……
夜高ミツル
あっバター
夜高ミツル
スケールを出して台に置く。
夜高ミツル
冷蔵庫からバターを取ってくる。
真城朔
いろいろ置かれている……
真城朔
しめじもざるに上げる。
真城朔
まな板を軽く水で流して水を切り……
真城朔
最後に牛肉。
真城朔
薄切りだけどちょっといいやつ……
夜高ミツル
バター結構軽いな……
夜高ミツル
中身を取り出す。
夜高ミツル
ちんまりとした欠片が銀紙に包まれている。
夜高ミツル
とりあえずこのままスケールに乗せてみる。
夜高ミツル
22.1グラム。
夜高ミツル
欲しい量は20グラムなので……まあ……
真城朔
銀紙ごとのせてる……
夜高ミツル
このまま全部使えばいいか。
真城朔
みたいな顔で、なんとなく手を止めてミツルを見てしまっていたが……
夜高ミツル
見られていることに気づいた。
真城朔
目が合った。
夜高ミツル
「ちょうど今回使い切れる量だった」
真城朔
「あ」
真城朔
なるほど……
真城朔
「バター、送れないから」
真城朔
「ちょうどよかった……」
夜高ミツル
「さすがになー」
真城朔
「さすがに……」
真城朔
頷き返し……
真城朔
牛肉を切り始めます。
真城朔
肉を切るにしては几帳面な切り方。
真城朔
とん……とん……
真城朔
力を込めて切っている……
夜高ミツル
軽く拭いて、スケールをしまう。
夜高ミツル
入れ替わりに鍋を取り出して、コンロに置く。
真城朔
切れたらパックに戻し……
真城朔
手を洗い、スポンジを取り……
真城朔
はっ……
真城朔
スポンジを置いた。手を洗い直す。
真城朔
パックに置いた牛肉に、高いところから塩こしょうをしている。
真城朔
慎重に……
夜高ミツル
換気扇を回し、コンロの火をつけて
真城朔
かけすぎないように……
夜高ミツル
玉ねぎとしじみを自分の方に寄せる。
夜高ミツル
鍋が温まるのを待ち……
夜高ミツル
そろそろいいかな……
真城朔
かけおわり、塩こしょうの蓋を閉めた。
真城朔
きゅっ……
真城朔
塩こしょうなんかはまだいいけど、ものによっては閉めすぎて後が大変になったりする。
夜高ミツル
鍋の底にバターを投入する。
夜高ミツル
じゅわわ……
真城朔
そういうのももうなくなるんだけど……
夜高ミツル
なくなるな……
真城朔
なくなる……
夜高ミツル
バターを溶かして鍋底に広げ、そこに玉ねぎを入れる。
真城朔
ミツルが炒めているのを横に眺めつつ……
真城朔
改めてまな板を洗います。
夜高ミツル
炒めています。
真城朔
あわあわごしごし
夜高ミツル
菜箸で炒め炒め……
夜高ミツル
弱火でじっくり。
真城朔
料理を日常的にするようになった今でも、
真城朔
万事ミツルがやる方が手際が良くてうまくやれてるように見える。
真城朔
実際そうなのだろうとも思っている。
夜高ミツル
真城も上手になったし自分とそんなに差があるとは思わないとは、事ある毎に言ってはいるんだけど……
真城朔
ある……
夜高ミツル
あるかあ……
真城朔
洗い物くらいはちゃんとできる。
夜高ミツル
きれいにできてる。
真城朔
えいしょえいしょ
真城朔
まな板と包丁を洗い終わり、定位置に戻しました。
真城朔
戻してから……
真城朔
「これも」
真城朔
「明日……」
真城朔
片付ける……
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
しょんぼりしてきた。
夜高ミツル
日用品を処分するとなると、いよいよここともお別れ……という感じがする。
真城朔
今日のこれだって最後の料理なわけで……
夜高ミツル
明日からは作り置きをレンジで温めるくらいしか……
真城朔
しょんぼりしてきたが……
真城朔
「食卓、とか」
真城朔
「準備」
真城朔
「する……」
夜高ミツル
「ん、頼む」
夜高ミツル
しょんぼりしている間に玉ねぎがしんなりしてきた。
真城朔
頷き返し……
真城朔
台ふきんを温水でじゃぶじゃぶして絞る。
真城朔
ぎゅっ……
夜高ミツル
鍋にしめじと牛肉を入れる。
夜高ミツル
ちょっと火を強め……
真城朔
前はミツルがそうして炒めるのを対面から眺めていた。
真城朔
今は……二人で料理してるから……
真城朔
準備する……
夜高ミツル
分担作業。
真城朔
食卓の方に行って台を拭いている。
夜高ミツル
眺められてるのもそれはそれで好きだったけど、一緒にできるのは楽しい。
夜高ミツル
真城に切ってもらった具材を炒めている。
夜高ミツル
じゅー……
真城朔
がんばって薄切りにしました。
真城朔
なってると思いたい……
夜高ミツル
なってる。
真城朔
なってるかな……
夜高ミツル
なってるなってる。
真城朔
なってたら……
真城朔
よかった……
真城朔
おしぼりを作っています。
真城朔
ぎゅっ……
夜高ミツル
それを横目にひたすら炒めている。
真城朔
広げ……
真城朔
おりたたみ……
夜高ミツル
だいぶ肉に火が通ってきた感じ……
真城朔
まるめまるめ……
真城朔
いいにおいしてきてる……
夜高ミツル
肉ときのこと玉ねぎがバターで炒められたにおい。
真城朔
バターはつよい……
夜高ミツル
既においしそう。
真城朔
これからもっとおいしそうになるはず。
真城朔
炊飯器の炊けた音がし……
真城朔
「あ」
真城朔
「俺」
真城朔
「ひっくり返す……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
しゃもじを取り……
真城朔
多めに炊いてある。
真城朔
「包むのも」
真城朔
「やっちゃう」
夜高ミツル
トマトのパックを取りつつ
夜高ミツル
「ありがと、頼む」
真城朔
あとは出るまでこのお米を食べるぞ。
真城朔
多分これくらい食べるだろう……というくらいの量も
真城朔
なんとなく暮らしてるとわかってくるし……
真城朔
それくらいの当たりをつけながら……
真城朔
とりあえずひっくり返している。
夜高ミツル
紙パックだけどハサミを使わずに開けられるようになってる。
夜高ミツル
開けて、中身をどばどば……と鍋へ。
夜高ミツル
とんとんと底を叩いて全部入れきり……
夜高ミツル
さっき量ったケチャップとかソースとかも入れる。
夜高ミツル
レシピで(A)とか書かれる部分。
真城朔
ルー的部分。
夜高ミツル
ぐるぐる……
夜高ミツル
かき混ぜながら火を弱火にする。
真城朔
ラップを出してき……
真城朔
調理台の上に何枚か広げ……
真城朔
ごはんをちょっとずつ盛っていく。
真城朔
真城1人分だと少ないので2人分1セットでやる。
真城朔
それをくるみ……
夜高ミツル
煮込みながら、時々中身をかき混ぜている。
夜高ミツル
ぐる……ぐる……
真城朔
くるんだものを片端から冷凍庫に入れている。
真城朔
炊飯器の中を再確認し……
真城朔
たぶん……
真城朔
これくらいあればいいはず……
真城朔
頷いて、蓋を閉じます。
夜高ミツル
そろそろかな……
夜高ミツル
小皿を出してきて、おたまでその上にちまっとすくう。
夜高ミツル
冷まして……
真城朔
皿を出してきている。
夜高ミツル
味見。
真城朔
平皿を二枚……
夜高ミツル
うーん…………
夜高ミツル
うーんになっている。
真城朔
「?」
真城朔
うーんになっているミツルを見た。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ん」
真城朔
とてとて……
真城朔
近づいていく……
夜高ミツル
「トマト多めに入れたから……」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「トマト味が結構……」
夜高ミツル
説明。
真城朔
足を止めて鍋を覗き込み……
真城朔
「赤い……」
真城朔
「前も」
真城朔
「赤くはあった」
真城朔
「けど」
真城朔
うーん……?
夜高ミツル
「前はデミグラスソースも同じくらい入れたからな……」
真城朔
新しいレシピではデミグラスがなくなった。
夜高ミツル
小皿にまたちんまりと盛って、ふうふうと冷まし……
夜高ミツル
「今こんな感じ」
夜高ミツル
差し出す。
真城朔
うけとり……
真城朔
ぺろりと舐める。
真城朔
…………
真城朔
「おいしい」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「うまくはある……」
真城朔
「でも、確かに」
真城朔
「トマト……?」
真城朔
かなりトマト。
夜高ミツル
「結構トマトだよな……」
真城朔
何故製品を宣伝するレシピページで製品を気持ちよく使い切るレシピにしてくれないのか不思議だが……
夜高ミツル
388g中の100g……?
夜高ミツル
小皿を受け取って、台に置く。
真城朔
「どうする……?」
真城朔
こういうときの味の調整には未だに全く自信がない。
真城朔
まったくもってじしんがない……
夜高ミツル
「砂糖ちょっと足してみようかな……」
夜高ミツル
「あとウスターソースもかな……」
真城朔
「ん……」
真城朔
食卓の準備がだいたい終わったので、見守っている。
真城朔
じ……
夜高ミツル
酸味の調整にはとりあえず砂糖……という気持ちがある。
真城朔
わからない……
夜高ミツル
さっきしまった砂糖をもう一度取り出す。
真城朔
ミツはわかるからすごい……
夜高ミツル
さじも取ってきて……
夜高ミツル
砂糖をすくって、さらさらと鍋に入れる。
真城朔
見ています。
夜高ミツル
ぐるぐる……
夜高ミツル
皿に取って一旦味を見て……
真城朔
まじまじ……
真城朔
なんかそういう瞬間は特にすごい料理してる……って感じに見える。
夜高ミツル
もうちょい……
夜高ミツル
今度は冷蔵庫からソースを取ってくる。
真城朔
ミツはりょうりができてすごい……
真城朔
おお……
夜高ミツル
とってきた。
夜高ミツル
ちょろ……と鍋に垂らす。
夜高ミツル
また混ぜ……
真城朔
じ……
夜高ミツル
味見……
夜高ミツル
ぺろ……
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
もう一度小皿に取って、
夜高ミツル
少し冷ますと再び真城に差し出す。
真城朔
「ん」
真城朔
受け取り……
真城朔
冷ましてもらったのでそのまま舐め……
真城朔
ぱちくり。
真城朔
「トマト」
真城朔
「少なくなった……」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
頷き返す。
夜高ミツル
「こんな感じかな……」
真城朔
「すごい……」
真城朔
いつもおもうけど……
夜高ミツル
「トマトが強い時は砂糖足していく感じで」
夜高ミツル
「覚えておくといいかも」
真城朔
ほえー……になってる。
真城朔
「おぼえとく……」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いたものの……
真城朔
暫く使う予定のない知識ではある。
夜高ミツル
そうなんだよな……
真城朔
料理しなくなる……
真城朔
けど……
真城朔
「…………」
真城朔
「おぼえとく……」
真城朔
繰り返した。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
火を止める。
真城朔
鍋を覗き込み……
夜高ミツル
鍋の中にたっぷりとビーフストロガノフ。
真城朔
おいしいがいっぱい。
夜高ミツル
「あとサラダとローストビーフ……は出すだけだから……」
真城朔
「盛ったら」
真城朔
「できあがり」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
「ビーフストロガノフ」
真城朔
「できた」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「できた」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
二人で頷き合って、笑った。
noname
 
真城朔
食卓にはビーフストロガノフ、ローストビーフ、サラダ、それとぶどうジュース。
夜高ミツル
瓶のいいジュース。
真城朔
クリスマスに買ったのと同じやつ。
真城朔
食事を並べ、二人で並んで座る。
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
二人で唱和し、スプーンを取る。
夜高ミツル
ご飯とビーフストロガノフを一緒にスプーンですくう。
真城朔
すくい……
真城朔
小さめの一口をぱくり。
夜高ミツル
ぱく……
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
むぐむぐ……
夜高ミツル
前回とはやっぱり味が違う感じがする……
真城朔
違うけど……
真城朔
ごくんと飲み下し。
真城朔
「おいしい」
真城朔
「よ」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
飲み込む。
夜高ミツル
「よかった」
真城朔
頷き……
夜高ミツル
ここしばらくはずっと、感覚じゃなくてレシピ頼りで作ってたから……
夜高ミツル
たまに感覚頼りで調整するとちょっと緊張する。
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「こう……」
真城朔
「ちゃんと、味見て」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「できると」
真城朔
「料理、できる」
真城朔
「って感じ」
真城朔
「する……」
夜高ミツル
「もっと色々知ってると細かく調整もできるんだろうけどな……」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「知ってる……」
真城朔
また小さめをひとさじすくい……
真城朔
ぱくり。
夜高ミツル
「酸味が強い時に砂糖を入れるといいみたいなのを、色々……」
夜高ミツル
ミツルも二口目を食べる。
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
並んでもぐむぐ
夜高ミツル
味わっている。
真城朔
おいしい……
夜高ミツル
ちゃんとうまくできてよかった……
真城朔
飲み込んで、スプーンを置いて
真城朔
箸でローストビーフを取り……
真城朔
それも口に含む。
夜高ミツル
ミツルもローストビーフに箸を伸ばす。
夜高ミツル
ビーフにビーフだけど気にしない。
夜高ミツル
ぱく……
真城朔
豪華。
夜高ミツル
おいしい肉がたくさんでうれしい!
真城朔
おいしい肉を味わっています。
真城朔
クリスマスに思い切って買った低温調理器。
夜高ミツル
ゲーム機でも買うか~というつもりで見に行ったのが……
夜高ミツル
でもゲームを買うより活用できたと思う。
真城朔
すっかり心を奪われてしまい……
真城朔
主にローストビーフを作るのに使っていたこれは、彩花が引き取ってくれる。
夜高ミツル
そういう話になった。
夜高ミツル
かなり捨てたくなかったので、大変に助かっている。
真城朔
大切に使ってきたので嬉しい。
夜高ミツル
きれいに大切に使ってきた。
夜高ミツル
ちゃんと毎回手入れして……
真城朔
売るのとかなかなかこの身分だと難しいから……
真城朔
思い入れを理解してくれる相手に譲れることになってよかった……
夜高ミツル
よかった。
真城朔
よかった……を噛みしめつつ
真城朔
ローストビーフの味を噛みしめている。
真城朔
「……ローストビーフ」
真城朔
「作れるのも」
真城朔
「すごいって、思った……」
夜高ミツル
「これは低温調理器がすごかったな……」
真城朔
「ミツも」
真城朔
「すごいし……」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「すごい……」
真城朔
繰り返している。
夜高ミツル
照れくさそうにしている。
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「おいしい、けど」
真城朔
「ミツが作ってくれると」
真城朔
「作って、くれるの」
真城朔
「もっと」
真城朔
「おいしいから……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「そうならよかった」
夜高ミツル
「真城が作ってくれるのも、全部おいしいよ」
真城朔
「……俺」
真城朔
「ミツ、ほど」
真城朔
「うまくできない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「うまくなったよ」
夜高ミツル
「俺が手使えない間、一人でできてたし」
真城朔
「……教えて」
真城朔
「もらってた……」
夜高ミツル
「一緒にするようにして」
夜高ミツル
「真城の料理が食べれてよかった」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん……」
真城朔
こく……
真城朔
「ミツが」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「教えてくれたから……」
夜高ミツル
「沖縄行ったらまたやろうな」
真城朔
「ん……」
真城朔
頷く。
真城朔
「沖縄、だと」
真城朔
「なに」
真城朔
「おいしいんだろ」
夜高ミツル
「沖縄料理は……」
真城朔
「……ゴーヤ?」
夜高ミツル
「ゴーヤチャンプルが沖縄だもんな」
夜高ミツル
「そういえば島なのにあんま魚のイメージないな……」
真城朔
「そういえば……」
真城朔
「北海道は」
真城朔
「魚」
真城朔
「すごかったけど……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「沖縄はそんなに……」
夜高ミツル
「行ったら結構あったりすんのかな……」
真城朔
「かも……?」
夜高ミツル
思い出したようにサラダを食べる。
夜高ミツル
むしゃむしゃ……
真城朔
真城は食べないけどミツルに食べさせたがるはっぱ。
真城朔
真城もローストビーフを一切れ取った。
真城朔
ぱく……
夜高ミツル
なにかしらの野菜は毎日食べるようにしている。
真城朔
もぐむぐ……
真城朔
野菜、食べてほしい……
真城朔
自分はあんまり食べないから申し訳ないけど……
夜高ミツル
別に野菜嫌いではないし、真城が喜ぶから食べる。
真城朔
うれしい。
真城朔
健康……
夜高ミツル
飲み込んで……
夜高ミツル
「サーターアンダギー……?」
夜高ミツル
思いついたやつを適当に言ってから
真城朔
んー……
夜高ミツル
「あれはお菓子だっけ……?」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いた。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「お菓子、なら」
夜高ミツル
お菓子だった……
真城朔
「ちんすこうも……」
真城朔
「名物……?」
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「物産展でよくあるやつ」
真城朔
「ある……」
真城朔
「色んな味も……」
夜高ミツル
「あるよなー」
真城朔
あるある……になっている。
夜高ミツル
「あと果物が結構あるか……?」
夜高ミツル
「パイナップルとか……」
真城朔
「なんか」
真城朔
「沖縄、っていうか」
真城朔
「南国……?」
夜高ミツル
「南国だな……」
真城朔
意外と思いつかない……
夜高ミツル
「ていうか果物は夏前に出るなら厳しいかな……」
真城朔
「かも……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
むずかしい……
真城朔
「北海道、より」
真城朔
「狭いから……」
真城朔
「あんまり」
真城朔
「育てられないとか……?」
真城朔
名物の思いつかなさ……
夜高ミツル
「そうかもな……」
真城朔
ちっちゃい……
真城朔
北海道は超広い。
真城朔
超絶広大。
夜高ミツル
とにかく広い。
夜高ミツル
あんまり広さを実感することはしなかったが……
真城朔
「……あんまり」
真城朔
「回ったりとか」
真城朔
「なくて」
真城朔
「のんびりしちゃった……」
真城朔
定期的に噛みしめている。
真城朔
思い出したようにビーフストロガノフをすくい……
真城朔
食べる。
夜高ミツル
「したなあ」
真城朔
もぐもぐ
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「北海道回ろうと思ったらそれだけで旅行レベルだからな……」
夜高ミツル
ミツルもビーフストロガノフを一口。
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
もぐむぐ
夜高ミツル
北海道を横断するのと東京大阪間が大体同じくらいの距離だったはず……
真城朔
ひろい……
真城朔
札幌ですら広かった……
夜高ミツル
広かったな……
真城朔
藻岩山の光景がまだ頭に残っている。
夜高ミツル
遠くまで街の明かりが見えた。
真城朔
きれいだった……
真城朔
観覧車もきれいだったけど……
夜高ミツル
藻岩の頂上は観覧車よりずっと高い。
夜高ミツル
昼間は街の向こうに海さえ見えた。
真城朔
すごかった……
真城朔
飲み込み……
真城朔
「……のんびり、した」
真城朔
「けど」
真城朔
「行くとこには」
真城朔
「行った……」
真城朔
牧場も行ったし……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「行けてよかった」
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
「来てよかったな、北海道」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いている。
真城朔
「ミツと、来れて」
真城朔
「過ごせて」
真城朔
「…………」
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「真城と一緒に過ごせてよかった」
真城朔
頷き合っては、二人で作った料理を食べる。
夜高ミツル
旅に持っていける荷物はほんの少し。
真城朔
この暮らしだって持っていけはしない。
夜高ミツル
だけどここで暮らした思い出だけは、たくさん持っていける。
真城朔
それを尊び、胸に刻むように、
真城朔
作った料理を味わっている。
夜高ミツル
この味も、大切な思い出の一つとして。
夜高ミツル
いつまでもどこまでも持っていけるものだと、信じている。