2021/09/10 朝
真城朔
持っていく荷物は全部リュックに詰め込んでしまった。
夜高ミツル
元々大して私物を持ち込んではいなかったから。
真城朔
だいたいの荷物をクローゼットにしまい込んでしまっていたことを再確認している。
真城朔
火曜日からこちら、毎朝最後のゴミをまとめて出してきた。
夜高ミツル
そうして今は、すっかり部屋の中は空っぽになっている。
夜高ミツル
残っているのはあらかじめ備え付けられた家具だけ。
夜高ミツル
二人の生活の痕跡は、きれいに掃除して片付けてしまった。
夜高ミツル
どうしようもなく離れがたさを感じてしまっている。
夜高ミツル
「次も対面キッチンの部屋見つけたいな」
真城朔
それと、床に置いてあった段ボールを持ち上げ……
真城朔
曙光騎士団の事務所が置いていっていいって言ってくれた。
夜高ミツル
低温調理器とか食器とか調味料の残りとか色々……
夜高ミツル
いつもより気持ち時間をかけてしっかり履いて……
夜高ミツル
そうするといよいよ出るしかなくなり……
真城朔
開けてもらった扉から、段ボールを抱えてとぼとぼと出ていく。
真城朔
いつまでも後ろ髪を引かれ続けることはできるが……
真城朔
小さく頷いたが、視線は部屋に注がれたまま……
夜高ミツル
それを遮るように、ゆっくりと扉が閉じられる。
真城朔
その音を最後に、ここはもう二人の部屋ではなくなる。
真城朔
きっとそのうち他の誰かが入居して、その人の生活を営んでいくのだろう。
真城朔
その寂しさを紛らわすように、段ボールに添えられた指にきゅっと力が籠もった。
夜高ミツル
未練がましくドアノブを握っていた手を離す。
真城朔
荷物を宅配に出し、曙光騎士団の事務所に挨拶に行き。
真城朔
札幌にいた間もちょくちょく乗ってきたバイクだけど……
夜高ミツル
そこで一泊して、翌朝に青森行きのフェリーに乗る予定を立てている。
真城朔
急ぐ理由もないので、既に宿をとってしまった。
夜高ミツル
お互いにお互いのために安全に行きたい。
夜高ミツル
バイクのシートを上げて、収納からヘルメットを取り出す。
真城朔
どこか落ち込んだ様子のまま被り、ベルトを留める。
夜高ミツル
ミツルはグローブもして、空いた収納に自分のリュックをしまう。
真城朔
ぎゅ、と組み合わされて、ミツルの背中に抱きついている。
真城朔
涼しくなってきた曇り空の秋には、それがぬくもりとして心地良い。
夜高ミツル
真城が頷くのを待って、鍵を回してエンジンをかける。
真城朔
明かりに照らされる室内は、当然ながらマンスリーマンションに比べたらだいぶ狭い。
真城朔
しょぼしょぼとぼとぼとリュックを下ろした。
夜高ミツル
テーブルにコンビニの袋を置いて、リュックを下ろす。
夜高ミツル
寄せられた身体にもたれかかるように抱きつく。
夜高ミツル
「でも車みたいに座ってるだけじゃないから」
夜高ミツル
免許証がある方が運転した方がいいので。
真城朔
ただでさえ埃が出放題の身分なので、こんなことで警察と面倒を起こしたくはない。
真城朔
けれどミツル一人に運転させているのが忍びなく、無言で抱きしめ合っている。
夜高ミツル
ザンギ弁当に蒸し鶏サラダにカップの味噌汁に……
真城朔
お弁当はコンビニで温めてもらったのでなかなかのぬくもり。
夜高ミツル
腰を浮かしたけど真城が先にやってくれた……
真城朔
ミツルが広げてくれたコンビニの夕飯を前に並ぶ。
夜高ミツル
味噌汁は準備中だけどとりあえず手を合わせ……
真城朔
こういうコンビニ弁当を真城も食べる前提では買ってなかった気がする……
夜高ミツル
二人で暮らすようになってから、食事も二人でするものという意識になった。
真城朔
というわけで、かなりおっきめのザンギ弁当。
夜高ミツル
蒸し鶏と葉っぱを取ってもしゃもしゃしている。
夜高ミツル
ザンギってなんだ? 唐揚げじゃないのか? って話を弁当選びながらした。
真城朔
言いつつ、微妙に不思議なことを言っているかも……になった。
夜高ミツル
揚げてない唐揚げをいっぱいつくってきた。
夜高ミツル
齧りかけの唐揚げを一旦置いて、米を取る。
真城朔
さすがにザンギと米と佃煮だけで弁当を形成しているだけある。
夜高ミツル
コンビニ飯が久しぶりすぎてそう思うだけかもしれないが。
夜高ミツル
むぐむぐしてると、ケトルのお湯が沸く。
夜高ミツル
飲み込んで、カップ味噌汁のフィルムをぺりぺりと剥がす。
真城朔
ミツルがそうする様子を眺めながら、まだザンギの1コ目の途中。
夜高ミツル
こぽぽ……とケトルのお湯を注ぎ、くるくると箸でかき混ぜる。
夜高ミツル
当然インスタント味噌汁もかなり久しぶり。
夜高ミツル
沸かしたてのお湯の温かさが身に染みる。
真城朔
両手で味噌汁のカップを持ち、口をつけ、傾ける。
真城朔
一応ザンギ弁当もあっためてもらってはいたけど……
真城朔
沸かしたてのお湯のあたたかさが別物ということがわかる。
夜高ミツル
温めた弁当もおいしいけど、どうしても炊きたてできたての温かさよりは……という感じ。
夜高ミツル
置いてたからちょっと冷めているのもある……
真城朔
味噌汁を飲み込んで、ミツルの方へ差し出す。
夜高ミツル
「八崎出たときはもう結構寒かったからな……」
夜高ミツル
ひかないからって寒い思いをさせたくはない。
夜高ミツル
その隣でぱくぱくと弁当を食べ進めていく。
夜高ミツル
温かさが残っている内に食べた方がいいと気づいた。
夜高ミツル
「俺も、真城に作ってもらった飯の方が好き」
夜高ミツル
「揚げる唐揚げも次はやってみてもいいかもなー」
夜高ミツル
旅は旅でやっぱり悪くない、みたいな気持ちもありつつも、
夜高ミツル
やっぱりひとところでの暮らしが居心地よすぎて……
真城朔
次のことを早々に考え始めてしまっている……。
夜高ミツル
「前はすぐ通り過ぎちゃったからな……」