2021/09/10 朝

真城朔
帽子を被り、パーカーを着込み、
真城朔
旅暮らしのための装い。
真城朔
持っていく荷物は全部リュックに詰め込んでしまった。
夜高ミツル
部屋の見た目は案外変わらない。
夜高ミツル
元々大して私物を持ち込んではいなかったから。
真城朔
だいたいの荷物をクローゼットにしまい込んでしまっていたことを再確認している。
真城朔
火曜日からこちら、毎朝最後のゴミをまとめて出してきた。
夜高ミツル
服とか調理器具とか、色々……。
夜高ミツル
そうして今は、すっかり部屋の中は空っぽになっている。
真城朔
十ヶ月間を過ごしたマンスリーマンション。
夜高ミツル
残っているのはあらかじめ備え付けられた家具だけ。
夜高ミツル
二人の生活の痕跡は、きれいに掃除して片付けてしまった。
真城朔
だからもう、いつでもこの部屋を出られる。
真城朔
出なければならない。
真城朔
ちらりとベッドを見……
真城朔
ソファを見……
真城朔
対面キッチンを見……
夜高ミツル
出なければいけないんだけど……
夜高ミツル
どうしようもなく離れがたさを感じてしまっている。
真城朔
結果、二人で無言で立ち尽くしている。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
俯いている。
夜高ミツル
「……寂しいな」
真城朔
「うん……」
真城朔
ぴたりとミツルにくっついて、小さく頷く。
夜高ミツル
寄せられた身体に腕を回す。
夜高ミツル
背中を撫でる。
真城朔
ミツルの肩に顔を埋めている。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「寂しいけど」
夜高ミツル
「出ないと、な……」
真城朔
「……うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
こく、こくりと、
真城朔
ためらいがちに頷く。
夜高ミツル
頷いている頭を撫でる。
真城朔
すり、と頭をミツルの手のひらに寄せ……
真城朔
ミツルのパーカーの裾を掴んでいる。
夜高ミツル
寄せられながらさらに頭を撫で……
夜高ミツル
「……いい部屋だったな」
真城朔
「……うん」
真城朔
「のんびり」
真城朔
「過ごせた、し……」
真城朔
「広すぎなくて……」
真城朔
「キッチン」
真城朔
「使いやすいし」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「対面、は」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「便利で……」
夜高ミツル
「次も対面キッチンの部屋見つけたいな」
真城朔
「……あると」
真城朔
「いいけど……」
夜高ミツル
「探そう」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷く。
夜高ミツル
ぽんぽんとあやすように背中を叩く。
夜高ミツル
「……行こう」
真城朔
「…………」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
リュックを背負った。
真城朔
それと、床に置いてあった段ボールを持ち上げ……
夜高ミツル
色違いのリュックを背負う。
夜高ミツル
それと、捨てきれなかった分のゴミ袋。
真城朔
曙光騎士団の事務所が置いていっていいって言ってくれた。
真城朔
こっちの段ボールは、彩花に送るぶん。
夜高ミツル
低温調理器とか食器とか調味料の残りとか色々……
真城朔
夕張メロンゼリーも入れた。
夜高ミツル
おいしかったやつ。
真城朔
そのまま玄関へ出る。
真城朔
一度段ボールを置いて、スニーカーを履く。
真城朔
歩きやすい、いつも使っているスニーカー。
真城朔
これからはこれ一足。
夜高ミツル
いつもより気持ち時間をかけてしっかり履いて……
真城朔
しっかり靴紐を結ぶ。
真城朔
きゅっ……
夜高ミツル
よし……
夜高ミツル
そうするといよいよ出るしかなくなり……
真城朔
改めて段ボールを抱え持ち、立ち上がる。
夜高ミツル
ゴミ袋を持って、前に出て扉を開ける。
真城朔
開けてもらった扉から、段ボールを抱えてとぼとぼと出ていく。
真城朔
最後に部屋を振り返り……
夜高ミツル
一緒に振り返る。
真城朔
明るい色調のすっきりとした部屋。
夜高ミツル
二人で10ヶ月を過ごした部屋。
真城朔
いつまでも後ろ髪を引かれ続けることはできるが……
夜高ミツル
名残は尽きない。
夜高ミツル
けれど、もう行かなくては。
真城朔
じっと室内を見ている。
夜高ミツル
「……行く、か」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷いたが、視線は部屋に注がれたまま……
夜高ミツル
それを遮るように、ゆっくりと扉が閉じられる。
真城朔
二人で過ごした部屋が見えなくなる。
真城朔
視線が扉に隔てられて、
真城朔
おしまい。
夜高ミツル
オートロックの施錠される無機質な音。
真城朔
その音を最後に、ここはもう二人の部屋ではなくなる。
真城朔
きっとそのうち他の誰かが入居して、その人の生活を営んでいくのだろう。
夜高ミツル
もうこの部屋に帰ることはない。
夜高ミツル
帰る場所ではなくなった。
真城朔
その寂しさを紛らわすように、段ボールに添えられた指にきゅっと力が籠もった。
夜高ミツル
未練がましくドアノブを握っていた手を離す。
真城朔
ミツルの手が離れていくのを見ている。
夜高ミツル
真城の隣に身体を寄せる。
夜高ミツル
「……行こ」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷き……
真城朔
エレベーターの方へと足を向ける。
夜高ミツル
何度も繰り返し通った場所。
真城朔
それもこれが……
真城朔
最後にもう一度、部屋を振り返る。
真城朔
「…………」
真城朔
「……さよなら」
夜高ミツル
一緒に視線を注ぐ。
真城朔
ぽつりと小さく、言葉を漏らした。
真城朔
荷物を宅配に出し、曙光騎士団の事務所に挨拶に行き。
夜高ミツル
ゴミも預かってもらって。
夜高ミツル
いよいよ、あとは旅立つだけ。
真城朔
札幌にいた間もちょくちょく乗ってきたバイクだけど……
真城朔
なんだか今日は心地が違う。
夜高ミツル
これから北海道を出るために乗る。
真城朔
南へ。
夜高ミツル
まずは函館を目指す。
夜高ミツル
そこで一泊して、翌朝に青森行きのフェリーに乗る予定を立てている。
真城朔
今日そのまま乗れないこともないけど……
真城朔
急ぐ理由もないので、既に宿をとってしまった。
夜高ミツル
安全にゆっくり……
夜高ミツル
夜の運転は危ないし……
真城朔
急がせたくないし……
夜高ミツル
お互いにお互いのために安全に行きたい。
夜高ミツル
バイクのシートを上げて、収納からヘルメットを取り出す。
真城朔
ヘルメットを受け取り……
真城朔
どこか落ち込んだ様子のまま被り、ベルトを留める。
夜高ミツル
ミツルはグローブもして、空いた収納に自分のリュックをしまう。
真城朔
じっとその様子を見ている。
夜高ミツル
シートを下ろして、
夜高ミツル
そこに跨る。
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
大丈夫、と促す。
真城朔
促されて頷き、ミツルの肩に手をかけて
真城朔
ひょいっとその後ろに跨る。
真城朔
最終的に、手はミツルのお腹に。
真城朔
ぎゅ、と組み合わされて、ミツルの背中に抱きついている。
夜高ミツル
服越しに、真城の低い体温を感じる。
真城朔
涼しくなってきた曇り空の秋には、それがぬくもりとして心地良い。
夜高ミツル
「出るぞ」と声をかけ、
夜高ミツル
真城が頷くのを待って、鍵を回してエンジンをかける。
真城朔
「ん」
真城朔
お腹に回した手にきゅっと力を入れる。
真城朔
ぴったりと背に寄り添う熱がある。
夜高ミツル
それを感じながら
夜高ミツル
ゆっくりとバイクを発進させた。
真城朔
ホテルの部屋の電気をつける。
真城朔
明かりに照らされる室内は、当然ながらマンスリーマンションに比べたらだいぶ狭い。
夜高ミツル
一般的なビジネスホテルのワンルーム。
真城朔
別に不満があるわけではないけど……
真城朔
しょぼしょぼとぼとぼとリュックを下ろした。
夜高ミツル
テーブルにコンビニの袋を置いて、リュックを下ろす。
真城朔
とりあえず手を洗い……
夜高ミツル
大事……。
真城朔
ベッドに腰を下ろす。
真城朔
ぼふ……
夜高ミツル
その隣に腰を下ろす。
夜高ミツル
セミダブルのベッドが音を立てる。
真城朔
ミツルへと身を寄せる。
真城朔
ぴったりとくっつき……
夜高ミツル
寄せられた身体にもたれかかるように抱きつく。
夜高ミツル
べた……
真城朔
そろそろと腕を回す。
真城朔
ぴと……
真城朔
無言のままに抱きしめ合っている。
真城朔
ミツルの背中を手のひらで撫で……
真城朔
「運転」
真城朔
「お疲れ……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「ありがと」
夜高ミツル
「真城もお疲れ」
真城朔
「俺」
真城朔
「運転してない……」
真城朔
できたらいいんだけど……になっている。
夜高ミツル
「でも車みたいに座ってるだけじゃないから」
夜高ミツル
「疲れるだろ」
夜高ミツル
お返しとばかりに真城の背中を撫でる。
真城朔
撫でられている……
夜高ミツル
なでよし……
真城朔
お互い撫で合いになった。
真城朔
正確には真城も運転はできるのだが……
夜高ミツル
免許証がある方が運転した方がいいので。
真城朔
ただでさえ埃が出放題の身分なので、こんなことで警察と面倒を起こしたくはない。
真城朔
けれどミツル一人に運転させているのが忍びなく、無言で抱きしめ合っている。
夜高ミツル
ぎゅむ……
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
しばらくそうして抱き合って……
真城朔
ぬくもりを分かち合い……
夜高ミツル
「…………飯食うか」
夜高ミツル
抱きしめたまま、ぽつり。
真城朔
「ん……」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
名残惜しげにゆっくりと身体を離す。
夜高ミツル
のそのそとベッドを降り……
真城朔
ホテルの小さなテーブルに二人で並ぶ。
夜高ミツル
がさがさと袋の中身を広げる。
夜高ミツル
ザンギ弁当に蒸し鶏サラダにカップの味噌汁に……
真城朔
お弁当はコンビニで温めてもらったのでなかなかのぬくもり。
真城朔
「あ」
真城朔
「お湯」
夜高ミツル
「お湯」
真城朔
立ち上がり……
夜高ミツル
「そうだ……」
真城朔
電子ケトルに水を入れてくる。
真城朔
セット……
夜高ミツル
腰を浮かしたけど真城が先にやってくれた……
真城朔
かちっと。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
コードも差し込み……
真城朔
「ん」
真城朔
頷いている。
真城朔
また座る。
真城朔
ミツルが広げてくれたコンビニの夕飯を前に並ぶ。
夜高ミツル
味噌汁は準備中だけどとりあえず手を合わせ……
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
いつもの習慣が続いている。
真城朔
割り箸を取り……
夜高ミツル
ぱきっと割る。
真城朔
思えばマンスリーに入居する前は……
真城朔
こういうコンビニ弁当を真城も食べる前提では買ってなかった気がする……
真城朔
ミツルが食べるのを見てた。
夜高ミツル
見られてた。
夜高ミツル
二人で暮らすようになってから、食事も二人でするものという意識になった。
真城朔
けっこうたべられるようになったし……
真城朔
というわけで、かなりおっきめのザンギ弁当。
夜高ミツル
「コンビニ弁当久しぶりだなー」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
とりあえずサラダから箸を伸ばす。
真城朔
「わざわざ買わなかったし……」
真城朔
悩ましげに首を傾げつつ……
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
ザンギを一個取ります。
真城朔
おっきい……
真城朔
ちょっとかじる。
夜高ミツル
蒸し鶏と葉っぱを取ってもしゃもしゃしている。
真城朔
まだまだ原型を残しているザンギを……
真城朔
一旦蓋の上に置いた。
真城朔
おっきい……
夜高ミツル
かなりでかい。
真城朔
のが、5こもある……
真城朔
もぐもぐとザンギを咀嚼しています。
夜高ミツル
ザンギってなんだ? 唐揚げじゃないのか? って話を弁当選びながらした。
真城朔
どう見ても唐揚げだし……
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
ごく……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
北海道の唐揚げがザンギらしい。
真城朔
「味が、濃いめの」
真城朔
「唐揚げ……」
真城朔
やっぱりそんな感じ。
夜高ミツル
サラダを飲み込む。
夜高ミツル
「やっぱ唐揚げなんだな」
夜高ミツル
俺も……とザンギに箸を伸ばす。
夜高ミツル
でかいな……
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「俺」
真城朔
「多分、一個とお米で……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「結構でかいしな」
真城朔
「ん……」
夜高ミツル
「食べれるだけで大丈夫」
真城朔
申し訳ないようなこれでいいような……
真城朔
むずかしいきもちで頷いている。
真城朔
ザンギをまた一口齧ります。
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
ミツルは一口目を齧る。
夜高ミツル
あぐ……
夜高ミツル
もぐもぐ……
夜高ミツル
なるほど……
夜高ミツル
もくもくもく
夜高ミツル
飲み込む。
真城朔
もぐむぐ
真城朔
ミツルを見ている。
夜高ミツル
「味が濃い目の唐揚げだな……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「甘辛い感じ」
真城朔
頷いて飲み込んだ。
真城朔
「うん」
真城朔
「おいしいけど」
真城朔
「唐揚げで……」
真城朔
お米を割りつつ……
真城朔
「揚げてる唐揚げ」
真城朔
「久しぶりだし」
夜高ミツル
「そういやそうだな」
真城朔
言いつつ、微妙に不思議なことを言っているかも……になった。
真城朔
揚げてない唐揚げとは……?
夜高ミツル
揚げてない唐揚げをいっぱいつくってきた。
真城朔
あれはあれでおいしかったけど……
夜高ミツル
揚げてる唐揚げじゃなかったな……
夜高ミツル
齧りかけの唐揚げを一旦置いて、米を取る。
夜高ミツル
ぱくり。
夜高ミツル
味が濃いから米がうまいな……
真城朔
真城もお米をもぐもぐと……
真城朔
ご飯のおかずにはぴったり。
夜高ミツル
ご飯がすすむ。
真城朔
さすがにザンギと米と佃煮だけで弁当を形成しているだけある。
夜高ミツル
強気だな……と思った。
夜高ミツル
コンビニ飯が久しぶりすぎてそう思うだけかもしれないが。
真城朔
それにしても最近はこう……
真城朔
彩りとか……バランス弁当とか……
真城朔
そういうのが台頭している世の中で……
夜高ミツル
世の中全体が健康志向に向かう中で……
真城朔
肉! 米!
夜高ミツル
やっぱかなり強気かも……
真城朔
お肉としてはまあまあおいしい。
真城朔
からあげのおいしさ。
夜高ミツル
うまくはある。
夜高ミツル
むぐむぐしてると、ケトルのお湯が沸く。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
飲み込んで、カップ味噌汁のフィルムをぺりぺりと剥がす。
真城朔
わいた……
夜高ミツル
ナスの味噌汁。
真城朔
ミツルがそうする様子を眺めながら、まだザンギの1コ目の途中。
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
こぽぽ……とケトルのお湯を注ぎ、くるくると箸でかき混ぜる。
真城朔
お味噌の匂いがする。
夜高ミツル
当然インスタント味噌汁もかなり久しぶり。
真城朔
味噌汁いっぱい作ってきた。
夜高ミツル
ずず……と一口。
真城朔
お米をまた割り……
真城朔
ちまちま食べてます。
夜高ミツル
沸かしたてのお湯の温かさが身に染みる。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
口を動かしながらミツルを見ています。
夜高ミツル
目が合った。
夜高ミツル
ので
夜高ミツル
「真城も飲む?」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
味噌汁を軽く差し出して訊ねる。
真城朔
もぐもぐしつつ頷き……
真城朔
受け取った。
夜高ミツル
渡した。
真城朔
一度箸を置き……
真城朔
両手で味噌汁のカップを持ち、口をつけ、傾ける。
真城朔
ずず……
夜高ミツル
置いていたザンギを取って齧っている。
夜高ミツル
むぐもぐ……
真城朔
こくん……
真城朔
ほう、と息をつく。
真城朔
あったかい……
真城朔
一応ザンギ弁当もあっためてもらってはいたけど……
真城朔
沸かしたてのお湯のあたたかさが別物ということがわかる。
真城朔
もう一口いただいて……
夜高ミツル
温めた弁当もおいしいけど、どうしても炊きたてできたての温かさよりは……という感じ。
夜高ミツル
置いてたからちょっと冷めているのもある……
真城朔
置いてたのが悪くはあるけど……
真城朔
味噌汁を飲み込んで、ミツルの方へ差し出す。
真城朔
「ありがと」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「あったかい」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
むぐむぐしながら頷く。
夜高ミツル
飲み込んで……
夜高ミツル
「もう走ってると結構冷えるしなー」
真城朔
「南、降りてく」
真城朔
「けど」
真城朔
「あったかくなったりは……」
真城朔
しないだろうけど……
夜高ミツル
「しないなあ」
真城朔
「秋」
真城朔
「に、なってきてる」
夜高ミツル
「どっかで服買い替えないとな……」
真城朔
「なんか……」
真城朔
「重ね着したり……」
真城朔
「調整……」
真城朔
うまいこと……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「八崎出たときはもう結構寒かったからな……」
真城朔
「……うん」
真城朔
こく……
夜高ミツル
旅しながらの衣替えを体験してない……
真城朔
「風邪」
真城朔
「ひかないように」
真城朔
「バイクだと、風が……」
真城朔
「えっと」
真城朔
「空気が」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
かぜとかぜが……
真城朔
わかりづらい
真城朔
「……気をつけよ」
夜高ミツル
「気をつける」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「真城も寒くなったら言えよ」
真城朔
「うん」
真城朔
頷き返し……
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「いう……」
真城朔
俺は風邪ひかないけど……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
とは思いつつ、もぐむぐ
夜高ミツル
ひかないからって寒い思いをさせたくはない。
真城朔
ザンギの一個目の最後を口に。
真城朔
へいきだけど……
夜高ミツル
味噌汁をすすっている。
真城朔
お米もまたもうちょっといただいて……
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
その隣でぱくぱくと弁当を食べ進めていく。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「俺」
真城朔
「これくらいで……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷いて飲み込む。
真城朔
後は見に回る……とばかりにすすす……と
真城朔
お手拭きで手を拭いている。
夜高ミツル
残りのザンギと米にサラダに……
夜高ミツル
ぱくぱく
真城朔
勢いよく食べている……
真城朔
すごい……
夜高ミツル
温かさが残っている内に食べた方がいいと気づいた。
真城朔
ミツルがぱくぱく食べてるので眺めてます。
真城朔
じー
夜高ミツル
眺められつつ……
夜高ミツル
完食。
真城朔
からに。
夜高ミツル
空にしました。
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
唱和し……
真城朔
ゴミを片付けつつ……
夜高ミツル
片し片し……
真城朔
「こういう、ご飯」
真城朔
「これはこれで」
真城朔
「だけど……」
真城朔
割り箸をぺきっと折り……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ミツの作ってくれたご飯」
真城朔
「の、ほうが」
真城朔
「好き……」
夜高ミツル
「……ありがと」
夜高ミツル
「俺も、真城に作ってもらった飯の方が好き」
真城朔
「…………ん」
真城朔
控えめに頷く。
夜高ミツル
「揚げる唐揚げも次はやってみてもいいかもなー」
夜高ミツル
「片付けるの大変だろうけど……」
真城朔
「油も」
真城朔
「いっぱい使うし……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「怪我とか……」
真城朔
「……油」
真城朔
「ひっくり返したり、とか……」
真城朔
聞く……
夜高ミツル
「気をつけないとなー」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
旅は旅でやっぱり悪くない、みたいな気持ちもありつつも、
夜高ミツル
やっぱりひとところでの暮らしが居心地よすぎて……
真城朔
次のことを早々に考え始めてしまっている……。
真城朔
「……函館、も」
真城朔
「けっこう」
真城朔
「都会……」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「前はすぐ通り過ぎちゃったからな……」
真城朔
「寒かったから……」
真城朔
早く家が欲しくて……
夜高ミツル
寒かった……
真城朔
窓の外を見る。
真城朔
街の明かりがぴかぴかきらきらしてる。
夜高ミツル
結構な夜景。
夜高ミツル
一緒に窓の外を眺める。
真城朔
ぼんやりじんわり……
夜高ミツル
「……フェリーまだ取ってないし」
夜高ミツル
「明日函館見てく?」
真城朔
「……そう」
真城朔
「する?」
真城朔
ミツルを向く。
夜高ミツル
「2回も素通りするのもなんだかだし」
夜高ミツル
「せっかくだからちょっと回ってみよ」
真城朔
「……うん」
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「あとで、調べよ」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
頷き合い……
真城朔
結局また、ぴとりとミツルに身を寄せた。