2021/09/11 早朝

真城朔
まだ暗いホテルの一室。
真城朔
カーテンは締め切られているが、その向こう側もまだ日の昇る前で。
真城朔
ただ、腕の中にぬくもりがある。
夜高ミツル
ぬくもりを抱き寄せて、身じろぎ……
夜高ミツル
していたところ、ピピピ……とスマホの目覚ましが部屋に響く。
夜高ミツル
「んん……」
真城朔
もぞ……
夜高ミツル
もぞもぞと枕元を手で探る。
真城朔
ミツルの腕の中の熱も小さく身じろぎしている。
夜高ミツル
スマホを取り、アラームを止める。
夜高ミツル
画面の表示はAM5:00。
真城朔
もご……
真城朔
もぞもぞ……
真城朔
ミツルの胸元から顔を出してきた。
真城朔
ぼや……
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
さすがにまだちょっと眠たげに声をかける。
真城朔
こくり……
真城朔
「お」
真城朔
「はよ……」
真城朔
真城もだいぶ蚊の鳴くような声。
真城朔
ふわふわの意識。
夜高ミツル
寝るのも早かったとはいえ、だいぶ早起き。
真城朔
返事をしたはいいものの、ぼー……になっている。
真城朔
あさによわい……
真城朔
そのつもりでいたから起きられはしたけど……
夜高ミツル
ぼやぼやしている頭を撫でる。
真城朔
なでられ……
真城朔
まぶたを伏せてしまった。
真城朔
ミツルの手に頭をすり寄せる。
夜高ミツル
「お茶でも淹れるか?」
真城朔
「ん……」
真城朔
こく……
真城朔
こっくり……
夜高ミツル
「淹れてくる」
夜高ミツル
眠そうだな~……
真城朔
一応上体を起こしてはいる……
真城朔
ので、二度寝はしていない……
真城朔
こくりうつらにはなっている。
夜高ミツル
むにゃむにゃの真城を残して、ベッドを降りる。
真城朔
ミツルのぬくもりが離れ……
夜高ミツル
ケトルを取って洗面台に……
真城朔
しょぼしょぼと瞼を上げて、真城も布団から這い出てくる。
夜高ミツル
水を入れて戻ってくる。
真城朔
ミツルの姿を目で追い……
夜高ミツル
台座にセットしてスイッチオン。
真城朔
両手で口を押さえて下を向き……
真城朔
くぁ……と欠伸を噛み殺した。
真城朔
目をこすりながら顔を上げる。
夜高ミツル
部屋に備え付けのマグカップを並べる。
夜高ミツル
「緑茶と紅茶あるけど、どっちがいい?」
真城朔
「ん~……」
真城朔
ぼんやり考えている。
真城朔
「ミツが」
真城朔
「いいほう……」
真城朔
結論が出なかった……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷き……
真城朔
カフェインが多いのってどっちだったっけ……とか……
夜高ミツル
頷いたはいいものの、どうしようかな……
真城朔
ちょっとかんがえたんだけど……
真城朔
わかんなかった。
真城朔
ぼや……になっている。
夜高ミツル
緑茶の方が馴染みがあるので緑茶にした。
夜高ミツル
これも備え付けのティーパックを取る。
夜高ミツル
開け開け入れ入れ……
真城朔
ホテル備え付けの寝間着姿でぼんやりミツルを眺めている……
夜高ミツル
というところで、お湯も沸いた。
真城朔
いたが、もそもそとベッドを降り……
真城朔
カーテンを開ける。
真城朔
まだ暗い……
夜高ミツル
ケトルを取って、マグカップにお湯を注ぐ。
夜高ミツル
こぽぽ……
真城朔
これから明ける空をぼんやりと眺めている。
夜高ミツル
ケトルを台座に戻し……
夜高ミツル
真城と、その向こうの窓に目を向ける。
夜高ミツル
「まだ暗いなー」
真城朔
「ん……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「日の出」
真城朔
「遅くなってきた……」
真城朔
ハンターは日の出の時間に敏感。
真城朔
ミツルに声をかけられて、もそもそと戻ってくる。
夜高ミツル
「これからどんどん遅くなるなー」
真城朔
こく……
真城朔
こく……
夜高ミツル
言って、マグカップを渡す。
夜高ミツル
「熱いぞ」
真城朔
両手で受け取りました。
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「ありがと」
真城朔
マグカップを口元に近づけ、ふー……と息を吹きかけている。
夜高ミツル
熱々のお茶から湯気が立っている。
夜高ミツル
ミツルも寝起きの身体を温めるように両手でマグカップを持っている。
真城朔
沸かしたてのお湯のあたたかさ。
真城朔
それを手のひらに感じながら……
夜高ミツル
口をつけて、あちち……になっている。
真城朔
ミツルの隣にくっついた。
真城朔
二人並んでベッドに座る。
夜高ミツル
お茶に息を吹きかけつつ、身を寄せ合う。
真城朔
ぼやぼやと時間が過ぎていく……
真城朔
そろそろかな……といった塩梅でお茶に口をつけている。
真城朔
あったか……
夜高ミツル
程よい温度。
真城朔
熱すぎるのにも鈍感だったため、
真城朔
割とこういうのは警戒して冷めるまで待つ。
夜高ミツル
隣でちびちびとお茶を口にしている。
真城朔
ミツルより遅れてちびちびと……
真城朔
久しぶりの、家ではない場所で起きる朝。
真城朔
今日からはまたこれが日常になる。
夜高ミツル
その一日目となる今日、こんなに早起きしたのは朝市に行くためだ。
真城朔
函館の朝市……
真城朔
なにやら有名らしい。
夜高ミツル
らしい。
夜高ミツル
前回は素通りしてしまったので何も知らず……
夜高ミツル
せっかくだから宿泊も延長して函館を回ろう、となって
夜高ミツル
調べて出てきたのが朝市だった。
真城朔
イカが釣れるとかなんとか……
夜高ミツル
釣れるらしい。
夜高ミツル
朝ごはんもそこで食べようとなり、今はお茶だけ飲んでいる。
真城朔
のんびりまったり……
真城朔
朝市は5時にはあいてるらしいけど……
夜高ミツル
さすがに開場に間に合うように行くのは大変すぎるので……
夜高ミツル
それでも5時起きではある。
真城朔
5時に起きてまったりとお茶を飲んでいる。
夜高ミツル
のんびり……
真城朔
くっついています。
夜高ミツル
ぴと……
真城朔
久しぶりのホテルでも、くっついているのはいつもどおり。
夜高ミツル
場所が変わってもすることは同じ……
真城朔
ほっとする……
夜高ミツル
お互いに特に急かすこともなく、まったりとお茶を飲み……
真城朔
ゆっくりとお茶を飲み干しました。
夜高ミツル
息をつく。
真城朔
ミツルに体重を寄せる。
真城朔
ぼー……
夜高ミツル
体重を受け止めて、肩に手を回す。
真城朔
抱き寄せられ、ミツルの胸に頬を預けている。
真城朔
ぬくもりを分け合う。
夜高ミツル
そのまま少しまたぼんやりとし……
夜高ミツル
「そろそろ」
夜高ミツル
「出る準備するか」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
気づけば窓の外も明るくなりはじめている。
真城朔
ミツルの胸に頬を寄せたまま……
真城朔
ぼんやりと窓の外を見る。
夜高ミツル
ハンターにとっては見慣れた光景だが、狩りの後に見るそれとは趣が違う。
真城朔
部屋の中からのんびりぼんやりと眺める夜明けのさま。
夜高ミツル
平和……
真城朔
平和を噛みしめて、ついついのんびりしてしまっている……
夜高ミツル
準備するかと言ったミツルもベッドに座ったまま……
夜高ミツル
ぼや……
真城朔
ぼー……
夜高ミツル
このままずっとこうしてたいが……
夜高ミツル
せっかく早起きしたんだし……
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
ぽんぽんと肩を叩く。
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこくと頷き……
真城朔
やや名残惜しげに頬を離した。
真城朔
朝市市場は思いの外人が多かった。
真城朔
ざわざわがやがや……
真城朔
朝市という感じ……
夜高ミツル
賑わってる……
夜高ミツル
そういえば土曜だしな……
真城朔
わすれてた……
真城朔
手を繋いだミツルにぴったりくっついている……
真城朔
人がいっぱい行き交っている。
夜高ミツル
すごい……
夜高ミツル
なるべく人の少ない隙間を縫って歩く。
真城朔
ひし……
真城朔
「……人」
真城朔
「いっぱい……」
夜高ミツル
「だな……」
夜高ミツル
ぎゅっと手を握り直す。
真城朔
握り返す。
真城朔
やや緊張気味……
夜高ミツル
こんな人が多いとこくるの久しぶりだもんな……
真城朔
密度が高い。
真城朔
色々なお店があり、店員さんの声と人の声と……
真城朔
ほとんど鮮魚とかだけどちょこちょこ農作物とかあり……
真城朔
あとは物産と……
真城朔
いろいろ……
夜高ミツル
色々ある……
真城朔
さかなのにおいがする。
夜高ミツル
いそのかおり……
夜高ミツル
そうして人混みを抜けた辿り着いた目的地は……
夜高ミツル
「……わ~」
真城朔
「あ……」
夜高ミツル
ひときわ、人が多かった。
真城朔
いっぱい並んでる……
夜高ミツル
イカの釣り堀の周りに人がたくさん……
真城朔
青い生簀にイカがふよふよと……
夜高ミツル
そしてその人混みを見守るように、でっかいイカのモニュメント。
真城朔
その回りに人がいっぱい……
真城朔
なんかイカを捌いてる人もいる。
真城朔
「元祖活いか釣り堀」
夜高ミツル
「元祖なんだな……」
真城朔
「あ」
真城朔
「わあ……」
真城朔
イカを釣っている人がいて……
真城朔
その人にイカが墨を吹きかけたところだった。
夜高ミツル
「わあ……」
夜高ミツル
二人でわあ……になってしまった。
真城朔
思わずミツルに密着している。
真城朔
ぴったり……
真城朔
ひし……
真城朔
あっ……
真城朔
釣られたイカが……
夜高ミツル
すぐに捌かれ……
真城朔
ああっ……
真城朔
「…………」
真城朔
固まっている。
夜高ミツル
「……イカ釣りは、やめとくか」
真城朔
「…………」
真城朔
こく……
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いている……
真城朔
あっ
真城朔
今度は水を……
真城朔
びしゃびしゃにされてる……
夜高ミツル
大変だな……
真城朔
すごい……
夜高ミツル
着替えもそんなにないしやめよう……
真城朔
すごすごと人混みから離れていき……
真城朔
その途中、
真城朔
イカのモニュメントが。
真城朔
おっきくて……
真城朔
青い電飾でぴかぴか光ってる。
真城朔
目が合う。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
圧があるな……
真城朔
応援ポスターが貼ってある……
夜高ミツル
函館と東北を応援してる……
真城朔
「……イカの」
真城朔
「モノビーストとか」
真城朔
「これくらいかも……」
夜高ミツル
「あ~…………」
真城朔
触手とかこわそう……
夜高ミツル
やだな……
真城朔
さらに圧を感じ始めている。
真城朔
ぎゅ……
夜高ミツル
行こ行こ……と手を握り直してその場を離れる。
真城朔
ミツルに手を引かれ、人だかりとイカのモニュメントに背を向けた……
真城朔
逃げてきたその足で食堂へ。
真城朔
食堂というか……そういう名前のお店というか……
真城朔
市場の二階にそういうお店がある。
夜高ミツル
500円丼の看板に惹かれて……
真城朔
まあまあ人はいるけど、市場ほどの圧はない。
真城朔
テレビモニタが下がってるのとかだいぶ食堂っぽい……
夜高ミツル
昔ながら感。
真城朔
あんまり品のないことではあるが……
真城朔
先客の丼のサイズ感を眺め……
真城朔
「…………」
真城朔
うーん……になっている。
真城朔
丼だからそりゃそうというサイズ感……
夜高ミツル
表に出てた写真のイメージよりでかい……
真城朔
「わ……」
真城朔
ちょっと遠くの席の人が……
真城朔
いか……
真城朔
いか……?
夜高ミツル
わ……
真城朔
下半身だけのいかが乗っかってるどんぶりに……
真城朔
しょうゆをかけ……
真城朔
うごいてる……
夜高ミツル
すごい……
真城朔
ミツルにしがみついている。
夜高ミツル
くっつきながらメニューを開く。
夜高ミツル
イカはやめよう……
真城朔
こくこく……
真城朔
メニューには500円丼のコーナーが。
夜高ミツル
「これが500円……」
真城朔
「一種類だけじゃ」
真城朔
「ないんだ……」
夜高ミツル
「色々あるな……」
夜高ミツル
「全部うまそう……」
真城朔
「うん……」
真城朔
北海道の魚介類のおいしさは身にしみている。
真城朔
魚介類じゃないやつもあるけど……
真城朔
ジンギスカン丼……?
夜高ミツル
朝市に来てジンギスカン丼……
夜高ミツル
それはそれでうまいんだろうが……
真城朔
なんか違うな……という感じ。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「食べたいやつ……」
真城朔
俺一個食えないし……
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
メニューをめくったり……
夜高ミツル
戻ったり……
夜高ミツル
どれもうまそうだけど……
真城朔
おいしそうだとはおもう……
夜高ミツル
結局一番最初のページに戻る。
夜高ミツル
「五目丼にしようかな」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「おいし」
真城朔
「そう」
夜高ミツル
「色々乗ってるし」
夜高ミツル
明らかに五目より多く見える。
真城朔
五どころじゃない……
夜高ミツル
なんかすごくすごい……
真城朔
「何種類だろ……」
夜高ミツル
「1、2、3、4……」
夜高ミツル
「……9?」
夜高ミツル
くらいあるように見える……
真城朔
「すごい」
真城朔
「500円なのに……」
夜高ミツル
「これ頼んでみよ」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
お冷とおしぼりを持ってきてくれた店員さんに声をかけ……
夜高ミツル
五目丼を注文する。
真城朔
店員さんもなかなか忙しそう……
夜高ミツル
忙しそうだけど元気よく返事をして戻っていった。
真城朔
すごい……
真城朔
お冷をぼんやり飲んでいる。
夜高ミツル
こくこく……
真城朔
やっぱり人のいっぱいいる場所だとあまりリラックスはできず……
真城朔
椅子を寄せてミツルにくっついている。
夜高ミツル
ぴっとり。
夜高ミツル
なるべく隅の方に通してはもらったけど……
夜高ミツル
人が多いものは多い。
真城朔
多いし……
真城朔
隅でも人の存在があるとどうしても気にはなってしまう……
真城朔
気持ちミツルの影に隠れるような感じで……
夜高ミツル
隠れさせている。
真城朔
気持ちほっとする。
夜高ミツル
平日に来れたらもうちょっとマシだったかな……とは思うものの、着いたのが金曜の夜だったので……
夜高ミツル
とは言え予想以上に人が多くもあった……。
真城朔
イカのインパクトもすごかった……
夜高ミツル
わっ……になった
真城朔
久しぶりのホテルだったのもあり、やや気疲れ気味の気配がある。
夜高ミツル
よしよしと背中をさする。
真城朔
「ん……」
真城朔
さすられ……
真城朔
ミツルの肩に頬を寄せる。
夜高ミツル
受け止めている。
夜高ミツル
「人すごかったな」
真城朔
「うん……」
真城朔
「イカも」
真城朔
「すごかった……」
夜高ミツル
「イカもすごかった……」
夜高ミツル
すごかったので圧倒されてしまった……
真城朔
圧倒されてびっくりして……
真城朔
朝早かったのもありややくったり気味。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「食ったら一回ホテル戻るか」
真城朔
「ん」
真城朔
「え……」
真城朔
反射的に頷いたものの……
真城朔
やや戸惑ったように顔を上げてミツルを見る。
夜高ミツル
「俺も早起きしたから眠いし」
真城朔
「で」
真城朔
「でも……」
真城朔
「いろいろ調べた」
真城朔
「のに」
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
「ちょっと休憩してまた出かけよ」
夜高ミツル
「まだ朝なんだし」
夜高ミツル
「時間あるから」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
ミツルに言い募られ、ややためらいがちながらも頷いた。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
頷き返して、また背中を撫でる。
真城朔
撫でられ……
真城朔
「……ごめん……」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「俺が休憩したいから」
夜高ミツル
「だから気にしないで大丈夫」
真城朔
「…………」
真城朔
微妙に納得いっていない表情で頷いている。
夜高ミツル
頷いているところに、五目丼を持って店員さんがやってくる。
真城朔
あ……
真城朔
ちょっと背筋を伸ばした。
夜高ミツル
五目丼、味噌汁、お新香と並べられ……
夜高ミツル
それから小皿と、箸が二膳。
真城朔
二人分たのんでもらった……
夜高ミツル
ぴかぴかつやつやの海鮮丼が二人の前に置かれている。
夜高ミツル
「お~……」
真城朔
「海鮮丼……」
真城朔
「9種類」
真城朔
指差し確認。
夜高ミツル
「9種類あるな……」
夜高ミツル
一緒に確認した。
真城朔
頷き……
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
唱和。
夜高ミツル
いつもの通り。
真城朔
各々箸を取り……
真城朔
真城朔
お醤油……
真城朔
お醤油を取りました。
真城朔
小皿によいしょと注ぎ……
真城朔
「ミツの」
真城朔
「ぶんも……」
真城朔
お醤油を差し出しつつ……
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
受け取ります。
真城朔
渡しました。
真城朔
改めて箸を取り……
真城朔
ぱきん……
夜高ミツル
ぱき……
真城朔
色々種類があって……
真城朔
どこから箸をつけるか……
真城朔
迷っている。
夜高ミツル
色々ある……
真城朔
いろとりどりすぎてこういう時迷いがち。
夜高ミツル
迷っているのを急かさず待っている。
真城朔
待ってくれている……
真城朔
ええと……
真城朔
…………
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「どれ食べる……?」
真城朔
結局訊いちゃった……
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
いくらとかカニとかはいっぱい乗ってるからいいとして……
夜高ミツル
お刺身は一切れずつ。
夜高ミツル
となると……
真城朔
厚さはあるけど……
真城朔
一切れは一切れ。
夜高ミツル
「全部分けたらいいんじゃないか?」
真城朔
「わける……」
真城朔
復唱した。
夜高ミツル
「刺身は箸で分けるの難しいから、一口ずつ……」
夜高ミツル
「いけそうだったらもっと食って大丈夫だけど」
真城朔
「ん」
真城朔
「一口……」
真城朔
たぶんいけないし……
真城朔
いけてもそのぶんお米をミツに……
真城朔
「…………」
真城朔
迷い……
真城朔
そろそろと箸を伸ばし……
真城朔
スタンダードにまぐろの刺身を取った。
真城朔
ちょいちょいと醤油をつけ……
真城朔
控えめにかじる。
夜高ミツル
じ……と見ている。
真城朔
半分よりちょっと少ないくらい……
真城朔
もぐむぐ……
真城朔
箸にはまだまぐろが残っており……
真城朔
もぐむぐしながらミツルを見た。
夜高ミツル
見られた。
真城朔
ええと……
真城朔
迷っている。
真城朔
迷いながらとりあえずどんぶりにまぐろを戻したけど……
真城朔
ついでにちょっとお米を取り……
真城朔
お米を口に入れる。
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
その様子をやっぱり視線で追っていた。
夜高ミツル
お互い相手が食べている様子を見がち……
真城朔
見られています。
真城朔
よく咀嚼し飲み込んで……
真城朔
「…………ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「北海道の」
真城朔
「お魚……」
夜高ミツル
「見た目もなんかつやつやしてるもんな」
夜高ミツル
「やっぱり今朝獲ってきたやつなのかな」
真城朔
「かも……?」
真城朔
「ミツも……」
真城朔
促す。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
マグロに箸を伸ばす。
夜高ミツル
醤油をつけ……
夜高ミツル
ぱくり。
夜高ミツル
むぐむぐ……
真城朔
じー……
夜高ミツル
もう一度丼に箸を伸ばして、米を取って口に運ぶ。
夜高ミツル
むぐもぐ
真城朔
見ています。
夜高ミツル
味わってから飲み込む。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「うまいな」
夜高ミツル
「北海道だなー」
真城朔
「うん……」
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
「これで500円……」
夜高ミツル
改めて噛み締めている。
真城朔
「太っ腹……」
真城朔
頷いています。
真城朔
そんな調子で、北海道を噛みしめつつ交互に食べていく。
夜高ミツル
合間にお味噌汁も飲み……
真城朔
おしんこもいただき……
夜高ミツル
やがて豪勢な丼が空になる。
真城朔
おなかいっぱい。
真城朔
俺はだけど……
夜高ミツル
俺も結構……
夜高ミツル
なかなかのボリュームだった。
真城朔
こういう時二人で分けるから心配になったりする。
夜高ミツル
「ごちそうさまでした」
真城朔
「ごちそうさまでした」
夜高ミツル
手を合わせて唱和。
真城朔
感謝を込めて……
夜高ミツル
食後のお茶が出てくる前に席を立つ。
夜高ミツル
結構長居してしまったので……
真城朔
一人前を二人で分けてるのに……
夜高ミツル
あとのお客さんも途切れず来ているようだし、さっさと会計を済ませて店を出る。
真城朔
ごちそうさまでした……
夜高ミツル
店員さんにも言った。
真城朔
おいしかったですした。
真城朔
そうして食堂を出て、階段を降り……
真城朔
まだまだ朝。
真城朔
休日の観光地の朝といった風情で、まだまだ人が行き交っている。
真城朔
がやがや……
夜高ミツル
今まさに市場に来たところの人達も大勢いる様子。
真城朔
いか釣りの話をしている人もいる……
夜高ミツル
びしょ濡れの人とか……
真城朔
戦いを終えてきた人……
夜高ミツル
真城の手を取って、そんな人混みに背を向けて歩き出す。
真城朔
ミツルの手を握り返し、手を引かれるままに歩く。
真城朔
「……びっくり」
真城朔
「は」
真城朔
「した」
真城朔
「けど……」
真城朔
歩きながら、ぽつりぽつりと。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
ぽつぽつと話す真城に視線を向ける。
真城朔
「……んー……」
真城朔
言語化に迷っている……
真城朔
「……すご」
真城朔
「かった」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「すごかったなー」
夜高ミツル
「活気が……」
夜高ミツル
「活気がヤバい」
真城朔
「市……」
真城朔
その活気から離れつつ、ちらりと振り返る。
真城朔
人混みも喧騒もそのままにある函館の朝市。
夜高ミツル
「ああいうの初めて行ったけど」
夜高ミツル
「イメージ通り……っていうか」
夜高ミツル
「以上だな……」
真城朔
「観光地で」
真城朔
「土曜日、だし……」
夜高ミツル
「すごかった……」
真城朔
頷く。
真城朔
「すごかった」
夜高ミツル
ぽてぽてと歩道を行きながら頷きあっている。
真城朔
人だかりを遠ざかり、ホテルの方へ。
真城朔
それでも人の往来はあるが……
夜高ミツル
土曜の朝なのでそれなりに。
夜高ミツル
それでも市に比べたら全然少ない。
真城朔
まあまあ気が抜けてきている。
真城朔
その調子でホテルの部屋に戻り……
夜高ミツル
一旦休憩……
真城朔
数時間ぶりのベッドに腰を下ろす。
真城朔
ぼふ。
真城朔
これでもまだ8時にならないくらい。
夜高ミツル
普段だったらまだ寝てることもそれなりにある時間。
真城朔
二人でベッドに腰掛けて寄り添い……
真城朔
他に人目のないホテルに戻ってきたので、ますますくっついている。
真城朔
べったり……
夜高ミツル
お互いに体重を預け合い……
真城朔
そうしているうちに……
真城朔
うと……
真城朔
こく……
真城朔
眠たげに頭が振れてくる。
夜高ミツル
それに気づいて、背中を支える。
夜高ミツル
膝の裏にも手を差し込んで、よいしょ……とベッドの真ん中に。
夜高ミツル
真城を横たえさせて、自分も隣に寝転ぶ。
真城朔
うとうとと瞼を伏せ……
真城朔
ミツルの胸に潜り込む。
夜高ミツル
細い身体を抱き込む。
真城朔
ミツルの服の裾を掴み、
真城朔
さらに頬を預け……
真城朔
やがて静かで穏やかな寝息が聞こえてくる。
夜高ミツル
一応アラームを設定して……
夜高ミツル
ミツルも目を閉じる。
真城朔
ホテルのベッドの中、くっつき寄り添い合い……
夜高ミツル
高くなりゆく太陽をよそに、二人で眠りに落ちていった。