夜高ミツル
真城を抱きしめたまま、ぼんやりとまぶたを持ち上げる。
夜高ミツル
穏やかに寝息を立てる真城を起こさないように、スマホを取る。
真城朔
それを知ってか知らずか、真城は静かに熟睡中。
夜高ミツル
スマホを置いて、改めて寄せられた身体に腕を回す。
真城朔
今までとは違うホテルで、今までと変わらぬ穏やかな時間。
夜高ミツル
あのマンションでそうしていたように、真城の寝顔を眺めて頭を撫でている。
真城朔
いつもと同じようにミツルの腕の中で熟睡し……
真城朔
時折軽く身じろぎをしたり頬を擦り寄せたりなどするが……
夜高ミツル
まだ時間に余裕はあるからと、ミツルも起こすことなく……
夜高ミツル
この時間が好きで、いつも真城を起こさずにいてしまう。
真城朔
ミツルの気も知らず、ただすやすや眠っている。
夜高ミツル
朝に弱いから、できるだけ気の済むまで寝かせてやりたいのももちろんあるが……
真城朔
今朝は特に早起きだったし、気疲れしたしで……
真城朔
しばらくむずがるようにミツルの胸に額を寄せていたが……
真城朔
ややぼんやりしてるのは結構いつものことなので……
夜高ミツル
押しのけたり押しのけられたりしなくていい……
真城朔
広めの道路の真ん中に、色の違う道路があり……
夜高ミツル
札幌にもあって、近くを利用することもあったのだけど……
真城朔
路面電車の停留所とはいえ、雪よけの屋根がしっかりあってなかなか駅っぽい。
真城朔
やっぱり休日は休日だからけっこう人いる……
真城朔
そんなふうに二人でのんびりと電車を待ち……
真城朔
ややレトロな風情の色鮮やかな路面電車が、ゆっくりと停留所へと。
真城朔
が、当たり前の話だが、人が並んでいたわけなので……
夜高ミツル
帰りはタクシーがいいかもしれない……と思っている。
夜高ミツル
真城と他の乗客を隔てるように立ってはいるが……
夜高ミツル
これだけ人が近くにいると落ち着かないだろうな……
真城朔
復唱して、ミツルに示されるままに視線を移す。
真城朔
やや強張ってはいるが、笑みを浮かべて頷いた。
夜高ミツル
観光客の目指す場所は大体同じということ……
夜高ミツル
乗るドアと降りるドアが決まってるのはバスっぽい……
夜高ミツル
suicaが使えるので、ぴっとタッチ。
真城朔
観光客の行く先からちょっと外れて、道の脇でまったり……
夜高ミツル
「今まであんまり休日に外出なかったからなあ」
夜高ミツル
そうやってちょっと人混みから外れて休憩して……
真城朔
五稜郭タワー自体はなかなか新しい感じの外観。
真城朔
五稜郭と言えばなんとなく歴史上の重要な場所って感じだけど……
夜高ミツル
円形のチケット売り場の壁が、ぐるっと戦いの絵になっている……
夜高ミツル
いきなりやや気圧されつつ、カウンターに並んでチケットを買う。
夜高ミツル
エレベーターを見つけて、真城の手を引く
夜高ミツル
ガラス張りの床の下に、地形の模型のようなもの。
真城朔
近くになんか展示の説明っぽいパネルもある。
真城朔
けど、たしかに珍しい地形をしているような……
真城朔
函館という地名とこの形がなかなか結びついていなかった……
夜高ミツル
少し待って、到着したエレベーターに乗り込む。
夜高ミツル
出てすぐのところから五稜郭が正面に見えるらしく、やや人だかりになっている……
夜高ミツル
人だかりのすぐ横に五稜郭の模型があるが、ここも流れで人が見ているので一旦スルーし……
真城朔
確かに特撮とかで出てきそうな外観ではあるかも……?
夜高ミツル
タワーロボのところから顔を出せるようになっているのだが……
夜高ミツル
「めちゃくちゃ開拓されたんだなー……」
夜高ミツル
「緑は……遠くに山は見えるけどって感じだな……」
夜高ミツル
いいことなのか悪いことなのかはなんとも判断がつけがたく……
真城朔
それはそれとして人々の積み重ねというか……
真城朔
中学校以降まともに学校に通ってないから……
夜高ミツル
一応真面目に勉強してはいたけど、教科書以上のことは……
真城朔
なんかそういうことがあって……そうだったんだな……
真城朔
新選組も吸血鬼と戦ってたとか戦ってないとか……
真城朔
まあもともとあのあたりの話っていくらでもフィクションの種にされてるし……
夜高ミツル
ハンターの間で噂される歴史の真実は話半分で聞いたほうがいいやつ。
真城朔
なんとなく土方歳三像を前に考えに耽ってしまった。
夜高ミツル
ずっと見てる土方歳三のファンの人みたいになってしまった……
夜高ミツル
土方歳三像を通り過ぎると、最初の地点に戻ってくる。
真城朔
前面ガラス張りなので、改めてなかなかの貫禄でもって函館を見下ろせる。
夜高ミツル
「なんでこんな形にしようと思ったんだろ……」
夜高ミツル
攻城戦の規模はスケールが違うからあんまり想像つかないけど……
夜高ミツル
人との間に立ちながら、少しその場を離れる。
夜高ミツル
「1つ下も展望台になってるみたいだから」
夜高ミツル
やってきた1つ下の階も、上と同じく外側は全面ガラス張り。
真城朔
本当に一部ではあるけど、ガラスになってて……
真城朔
ガラスの上には乗らないで、横から見下ろし……
真城朔
遥か下の道路を車が走る様子が真上から観察できる。
真城朔
しばらくシースルーフロアの下に釘付けになっていたが……
真城朔
とはいえあまり興味を惹かれるものではなく……
真城朔
座席とかはなく、ガラス張りの窓際にちょっとした丸テーブルがあるだけ……
夜高ミツル
うっかりスルーしそうなくらい小さい丸テーブルが……
真城朔
ぼんやりとカフェスタンドのメニューなどを眺め……
夜高ミツル
ソフトクリーム、定番だな~と軽く流し見ていたのだが……
真城朔
復唱し、とことことメニュー板に近づいていく。
真城朔
やわらか新食感のクラッシュドゼリーを冷たく美味しいソフトクリームにトッピング……
夜高ミツル
限定というだけあって、確かにちょっと見たことない感じの。
夜高ミツル
「結構サイズありそうだし、1つかな……」
夜高ミツル
結局こうやってミツルが決めることも多いが、とりあえず訊きはする。
夜高ミツル
カウンターの前に立って、ストロベリーのクラッシュドゼリーソフトを注文する。
夜高ミツル
支払いを済ませて、すぐ横の受け取り口に移り……
夜高ミツル
そう待たずに、注文した品がカウンターに置かれる。
夜高ミツル
真っ白なソフトクリームの底と上部に、真っ赤なイチゴ味のゼリー。
夜高ミツル
すっと、ソフトにスプーンを差し入れる。
真城朔
なんとなくツノのてっぺんの部分を避けて……
夜高ミツル
そりゃそう……ということばかり言ってしまう。
夜高ミツル
ソフトをすくってはちみちみと味わいながら……
真城朔
街の向こう側に、青空と海の境目を見渡せたりする。
夜高ミツル
「どうだろう、どっち側が青森だ……?」
真城朔
密度高いわけじゃないからそんなに気にならないけど……
夜高ミツル
「これ、確かに夜景すごいだろうな……」
真城朔
クラッシュゼリーとソフトの混じり合った感じの……
夜高ミツル
空になったカップにスプーンをまとめる。
夜高ミツル
カウンターの端にゴミ箱があったので、そこに入れる。
夜高ミツル
それもよっぽど気になるものでなければ……という感じで……
夜高ミツル
なんだろうな……とか言いつつ通り過ぎ……
夜高ミツル
通り過ぎたが、地上2階にはレストランとかがあるようだった。
真城朔
そういえば朝ごはん食べてからソフトだけ……
夜高ミツル
「湯の川の方行ってからなんか食おうか」
夜高ミツル
また人が多そうだったらタクシー捕まえよ……
真城朔
ミツルの内心も知らずぼんやり並びに行くが……
夜高ミツル
さすがは観光地、すぐに空車のタクシーを捕まえられた。
夜高ミツル
二人で後部座席に乗り込んで、目的地を告げる。
真城朔
タクシーの後部座席でミツルにくっついている。
夜高ミツル
革張りのシートに二人で寄り添い合い……
夜高ミツル
運転手さんも気を使ってくれたのか話しかけられず……
真城朔
足湯のサイトにあった喫茶店の前で下ろしてもらった。
真城朔
真城はフォンダンショコラのセットを頼み、サンドイッチも含めミツルと分け合いつつ……
真城朔
四角い屋根に囲われた空間と看板とが見えてくる……
夜高ミツル
空いている隅の方を使わせてもらうことにする。
真城朔
じゃー……と今もお湯を吐き出している源泉の方を見つつ……
夜高ミツル
「普通に風呂に入りたくなりそうだな……」
真城朔
すぐ近くが道路なので、車のエンジン音とかがめちゃめちゃ聞こえる……
夜高ミツル
「部屋についてるとこなら一緒に入れるな」
夜高ミツル
「二人でゆっくりできるとこ見つけよう」
夜高ミツル
視線を上げると、駅の上に鉄骨組みの部分が見える。
夜高ミツル
大人2人分を購入して、3階の乗り場へ上がる。
真城朔
やっぱり夜景が売りなんだな……と再確認させられる情報。
真城朔
藻岩山より駅は小さいけど言うことはでかい。
真城朔
ぼんやり待っていると、やがて列が動き始める。
真城朔
なかなか大きなロープウェイのゴンドラが……
真城朔
わからないけどぼんやり函館の街並みを見下ろしていると……
夜高ミツル
なるべく他の人から隠すようにくっついている。
夜高ミツル
そうしている間にも、ロープウェイはどんどん山沿いを登ってゆく。
夜高ミツル
視界を占める海の面積も大きくなっていく。
夜高ミツル
途中で下りのゴンドラとすれ違ったりしつつ……
夜高ミツル
他の乗客が降りるのを待って、二人も降りる。
真城朔
ゴンドラを降りた山頂駅の一階には、景色が見渡せるラウンジが。
夜高ミツル
だけどとりあえず、人の流れに乗って階段を登ってゆく。
真城朔
ソフトクリームとかじゃがバターとか揚げニョッキとか……
真城朔
あのあと湯の川でもおだんごとかたべたし……
真城朔
藻岩山のレストランよりはまだ入れそうな雰囲気の……
夜高ミツル
表に出てるメニューがまだ親しみやすい感じ。
夜高ミツル
格調高くなくてもそもそもディナータイムのレストランがなかなか入りづらい。
夜高ミツル
レストランも横目に、さらに階段を登る。
夜高ミツル
ガラス張りの扉から夕日が差し込んでいる。
夜高ミツル
ちょっと人の薄いところを見つけて、そちらに寄る。
真城朔
五稜郭タワーでなんかあったことだけ覚えてる。
夜高ミツル
なんだっけ……になりつつぼやぼやと街を見下ろしている。
夜高ミツル
手前側と奥側で、はっきり明暗が分かれている。
夜高ミツル
かなり近くまで他の人が詰まってきたので、一旦後ろに下がる。
夜高ミツル
屋上の真ん中の方は街が見えないから人がいない。
真城朔
人もいないけど、あんまりここにいる意味も薄い。
夜高ミツル
屋上に上がってくる人々とすれ違いながら、てくてくと下に。
真城朔
二人で分け合っても大丈夫そうなお店はハードル低め。
真城朔
無言になりつつ、店名の書かれたガラス戸を押し開け……
夜高ミツル
メニューは結構庶民的な感じだったのに……
真城朔
別にドレスコードでどうこう言われることもなく通される。
夜高ミツル
それなりに客がいるが、屋上ほどではない。
真城朔
何より席についたらスペースが確保できるし……
夜高ミツル
窓際の席が空いていたので、そこに通してもらえた。
夜高ミツル
運ばれたソーセージとシュウマイを分け合いながら、街を見下ろす。
夜高ミツル
薄暗い中で、ぽつぽつと街の光が灯り始めているのが見える。
真城朔
久しぶりに観光地って感じの賑わいに身を晒したので……
真城朔
そういう話をしているうちにも日が落ちていく。
真城朔
海に挟まれた街が、電飾のようなきらびやかさに彩られている。
真城朔
酒を飲んで結構大きな声を出している人もいるけど……
夜高ミツル
あっちはあっち、こっちはこっちな感じで……
真城朔
メニューもお酒好きなひと向けって感じだし……
夜高ミツル
「すごい光ってるの、朝市の辺りか……?」
真城朔
藻岩みたいなパネルがないからいまいちわからない。
夜高ミツル
左側がなんか明かりがオレンジでとびきりきらびやかで……
夜高ミツル
「あの……くびれてる辺りよりはもっと向こうだから……」
真城朔
五稜郭は特にライトアップされていないため……
夜高ミツル
真城が見えないようではミツルにも全く見えない。
夜高ミツル
車のランプの流れていくのをぼんやり目で追ったり……
真城朔
ライトアップされた教会が一軒に、周囲にいくつか並んでいるが……
夜高ミツル
「何軒も近くに建てたりするんだな……」
夜高ミツル
「都会のコンビニくらいの間隔で固まってる……」
夜高ミツル
「あの辺にモンスター誘い込んだら弱体化できたりして……」
夜高ミツル
世界三大夜景の一つを見ながら、ロマンチックとは程遠い話をしている。
夜高ミツル
こういうのをいつまでもぼんやり眺められてしまう。
夜高ミツル
「海は光ってなくて、陸は海岸ギリギリまで建物があって……」
真城朔
こういうことを言うとまたミツルに頼るしかなくなるのだが……
夜高ミツル
「5分間隔になるってことは、それだけ人が増えるってことだよな……」
夜高ミツル
「あんまりずっと窓際の席使うのもだしな」