夜高ミツル
腕の中のぬくもりを抱き寄せる。
真城朔
背を丸め、ミツルの腕の中に収まっている。
真城朔
規則的な、穏やかな寝息。
夜高ミツル
真城を抱きしめたまま、ぼんやりとまぶたを持ち上げる。
真城朔
すよ……
夜高ミツル
穏やかに寝息を立てる真城を起こさないように、スマホを取る。
夜高ミツル
時刻は11時頃。
夜高ミツル
アラームの時間までまだしばらくある。
真城朔
それを知ってか知らずか、真城は静かに熟睡中。
真城朔
ミツルの胸に頬を擦り寄せ……
真城朔
ふにゃふにゃむにゃむにゃ……
夜高ミツル
スマホを置いて、改めて寄せられた身体に腕を回す。
真城朔
ミツルの腕の中で、表情を緩める。
真城朔
ミツルの服を掴む指先が僅かに引かれた。
夜高ミツル
引かれるままに、さらに密着する。
真城朔
ぴったり……
夜高ミツル
くっついている。
真城朔
今までとは違うホテルで、今までと変わらぬ穏やかな時間。
夜高ミツル
あのマンションでそうしていたように、真城の寝顔を眺めて頭を撫でている。
真城朔
いつもと同じようにミツルの腕の中で熟睡し……
真城朔
時折軽く身じろぎをしたり頬を擦り寄せたりなどするが……
真城朔
目覚める様子はない。
夜高ミツル
まだ時間に余裕はあるからと、ミツルも起こすことなく……
真城朔
なんてこともなくただ時間が過ぎていく……
夜高ミツル
この時間が好きで、いつも真城を起こさずにいてしまう。
真城朔
ミツルの気も知らず、ただすやすや眠っている。
夜高ミツル
朝に弱いから、できるだけ気の済むまで寝かせてやりたいのももちろんあるが……
真城朔
今朝は特に早起きだったし、気疲れしたしで……
真城朔
すよすよと……
夜高ミツル
ゆっくり寝かせている。
真城朔
が、その時間も永遠のものではなく。
夜高ミツル
伏せたスマホがアラームを鳴らす。
真城朔
「ん」
夜高ミツル
ぴぴぴぴ……
真城朔
ぴく、と瞼が震える。
真城朔
しばらくむずがるようにミツルの胸に額を寄せていたが……
夜高ミツル
スマホを取って、アラームを止める。
真城朔
やがてゆっくりと瞼を上げる。
真城朔
ぽー……
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「ん」
真城朔
「おはよ……」
真城朔
ミツルに答えて、もぞもぞと身を起こす。
真城朔
流石に早朝よりはちゃんと目覚めている。
夜高ミツル
しゃきっとしてる。
真城朔
真城比
夜高ミツル
身体を起こして伸びをしている。
真城朔
「いま」
真城朔
「えっと……」
夜高ミツル
「12時」
真城朔
時計を探し……
真城朔
「ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「えっと」
真城朔
「出る……?」
夜高ミツル
「そうだな……」
夜高ミツル
ちら、と真城の様子を伺う。
真城朔
まあまあちゃんと起きてます。
真城朔
ややぼんやりしてるのは結構いつものことなので……
夜高ミツル
朝よりは元気……
真城朔
寝て元気になった。
夜高ミツル
「出かけるか」
真城朔
「ん」
真城朔
こくりと頷いた。
真城朔
函館の街をまた歩く。
真城朔
相変わらず人は結構多いけど……
真城朔
早朝の朝市よりはまあ……
真城朔
密度がいくぶんか……
夜高ミツル
押しのけたり押しのけられたりしなくていい……
真城朔
ほっとしている。
真城朔
そんな調子で向かった先は……
真城朔
「…………」
真城朔
広めの道路の真ん中に、色の違う道路があり……
真城朔
ちょっとした線路が。
夜高ミツル
路面電車というやつ。
夜高ミツル
札幌にもあって、近くを利用することもあったのだけど……
真城朔
なんだかんだ乗ることはなく……
夜高ミツル
今回が初めて。
夜高ミツル
停留所に並ぶ人たちの後ろに加わる。
真城朔
路面電車の停留所とはいえ、雪よけの屋根がしっかりあってなかなか駅っぽい。
夜高ミツル
雪国だな……という感じ。
真城朔
やっぱり休日は休日だからけっこう人いる……
夜高ミツル
多いな……
真城朔
ミツルにくっついています。
夜高ミツル
手を握る。
真城朔
握り返す。
真城朔
そんなふうに二人でのんびりと電車を待ち……
真城朔
「……あ」
真城朔
来ました。
真城朔
ややレトロな風情の色鮮やかな路面電車が、ゆっくりと停留所へと。
夜高ミツル
バスくらいのサイズ感。
真城朔
でも電車の止まるききー……って音がする。
真城朔
止まりました。
夜高ミツル
前方の扉から乗客が降りてきている。
真城朔
それをゆっくり待って……
真城朔
乗り込みました。
真城朔
が、当たり前の話だが、人が並んでいたわけなので……
真城朔
なかなかに混雑する。
夜高ミツル
わ……
夜高ミツル
ちょっと申し訳ないが……
真城朔
うう……
夜高ミツル
真城の手を取って、隅の方に移動する。
真城朔
ミツルに手を引かれるままに。
真城朔
くっついている……
夜高ミツル
すみません……と声をかけつつ……
真城朔
一緒に頭を下げている。
真城朔
ぺこぺこ
夜高ミツル
なんとか壁際に辿り着く。
夜高ミツル
真城を端に立たせ、ミツルはその前に。
真城朔
壁に背中を預けてほうと息をついている。
真城朔
ミツルの作ってくれた空間で……
真城朔
「…………」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「思ったより人多かったなー……」
夜高ミツル
「調べが甘かった……」
真城朔
「うん……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「観光地」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
市電とか乗ってみるかーみたいに……
真城朔
気軽に話してたけど……
夜高ミツル
みんなそんな感じで乗るんだろうな……
夜高ミツル
この小さい車両に……
真城朔
想定外……
夜高ミツル
帰りはタクシーがいいかもしれない……と思っている。
真城朔
ミツルの心中いざ知らず……
真城朔
身を強張らせて周囲を窺っている。
夜高ミツル
真城と他の乗客を隔てるように立ってはいるが……
夜高ミツル
これだけ人が近くにいると落ち着かないだろうな……
真城朔
緊張気味……
夜高ミツル
手を握って、身体を寄せる。
真城朔
目を瞬き……
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「外」
夜高ミツル
と、窓の方を示す。
真城朔
「そと……」
夜高ミツル
「車道の真ん中走ってる」
真城朔
復唱して、ミツルに示されるままに視線を移す。
真城朔
ぱちぱちと瞬きし……
真城朔
「ほんと」
真城朔
「だ」
真城朔
「路面電車……」
夜高ミツル
「電車なのに車道走ってて」
夜高ミツル
「なんか変な感じだな」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
やや強張ってはいるが、笑みを浮かべて頷いた。
夜高ミツル
安堵したようにミツルも笑う。
真城朔
ミツルの手を握り返す。
真城朔
ぼんやりと流れる景色を眺めている……
夜高ミツル
しっかりと手を繋ぎながら。
真城朔
がたんごとん……
夜高ミツル
乗り心地はかなり電車……
真城朔
外の風景は割とバス。
夜高ミツル
街中を車と並んで進んでいる。
真城朔
時折停車し……
真城朔
あんまり人降りないな……
夜高ミツル
観光客の目指す場所は大体同じということ……
真城朔
行く場所も同じ
真城朔
そんな感じで、やがて五稜郭公園前へ。
真城朔
人が……
真城朔
いっぱい降りていく……
夜高ミツル
ぞろぞろ……
夜高ミツル
乗るドアと降りるドアが決まってるのはバスっぽい……
真城朔
小さいし……
真城朔
人の流れに乗る。
夜高ミツル
料金は後払い。
夜高ミツル
suicaが使えるので、ぴっとタッチ。
真城朔
ぴぴっ……
真城朔
人混みから離れてまた一息……
真城朔
ふいー……
夜高ミツル
ふう……
真城朔
観光客の行く先からちょっと外れて、道の脇でまったり……
夜高ミツル
休憩。
真城朔
電車は折返して戻っていく。
真城朔
さよなら……
夜高ミツル
「人すごかったな……」
真城朔
「うん……」
夜高ミツル
お疲れ、と頭を撫でる。
真城朔
こく……
真城朔
撫でられて頭を寄せた。
真城朔
「観光地……」
真城朔
噛みしめている。
夜高ミツル
「休日の……」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷いている……
夜高ミツル
「今まであんまり休日に外出なかったからなあ」
真城朔
「避けてた……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
正解だった……
夜高ミツル
そうやってちょっと人混みから外れて休憩して……
真城朔
まったり……
夜高ミツル
飲み物とか飲んだりした
真城朔
自販機で買い……
夜高ミツル
ゆっくりし……
夜高ミツル
「行くか」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
五稜郭タワー自体はなかなか新しい感じの外観。
真城朔
白くて……
真城朔
しゅっとしてる……
夜高ミツル
実際結構新しいらしい。
真城朔
五稜郭と言えばなんとなく歴史上の重要な場所って感じだけど……
真城朔
タワーは新しい。
真城朔
中も……
真城朔
白くてきれいな感じで……
真城朔
感じなんだけど……
夜高ミツル
広くて開放的なエントランスの……
夜高ミツル
エントランスの真ん中に……
夜高ミツル
なんか……
夜高ミツル
絵が……
真城朔
すごい……
夜高ミツル
「浮世絵……?」
真城朔
「かな……?」
真城朔
「教科書とかに載ってる感じの……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
円形のチケット売り場の壁が、ぐるっと戦いの絵になっている……
真城朔
圧がある……
夜高ミツル
すごい……
夜高ミツル
いきなりやや気圧されつつ、カウンターに並んでチケットを買う。
真城朔
一緒に買ってもらっている……
真城朔
やっぱり絵がすごい……
夜高ミツル
はくりょくがある……
真城朔
ある……
真城朔
つよい
真城朔
チケットを買ったので……
真城朔
「えーと……」
夜高ミツル
「エレベーター」
真城朔
「エレベーター……」
夜高ミツル
「あれか」
夜高ミツル
チケットカウンターの右手奥。
夜高ミツル
エレベーターを見つけて、真城の手を引く
夜高ミツル
その途中で……
真城朔
ちらちらきょろきょろ……
夜高ミツル
「わ」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
下を見ている。
真城朔
上の方を見ていた……
夜高ミツル
「なんかある」
真城朔
ミツルに言われて同じ方向を見る。
真城朔
「わ」
夜高ミツル
ガラス張りの床の下に、地形の模型のようなもの。
真城朔
下を見ている……
真城朔
近くになんか展示の説明っぽいパネルもある。
真城朔
「えっと……」
真城朔
「五稜郭築造当時の、『箱館』……?」
夜高ミツル
「へー……」
真城朔
「はこだて……」
夜高ミツル
「字が違うんだな」
夜高ミツル
函館と箱館……
真城朔
「はこの箱……」
真城朔
口でいうとなにがなんだか……
夜高ミツル
「普通の方の箱だな」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
パネルから模型の方に視線を戻す。
夜高ミツル
「緑が多いな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「開拓前……?」
夜高ミツル
「今はこんなに観光地に……」
真城朔
「栄えた……」
夜高ミツル
「栄えてるな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「すごい」
真城朔
じー……と床下の模型を眺めている……
夜高ミツル
一緒になって眺めている。
真城朔
「陸けい砂州……」
真城朔
説明パネルに書いてあった。
真城朔
どういう意味かはよくわからない……
真城朔
けど、たしかに珍しい地形をしているような……
夜高ミツル
海に挟まれてる……
真城朔
「北海道の」
真城朔
「しっぽの端っこ……」
夜高ミツル
「しっぽだなあ」
夜高ミツル
ぴょろっと出てる
真城朔
「函館……」
真城朔
函館という地名とこの形がなかなか結びついていなかった……
真城朔
「…………」
真城朔
「北海道」
真城朔
「おっきい……」
夜高ミツル
「でかいなあ……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
札幌から函館まで4時間……
真城朔
長い道のりだった……
夜高ミツル
本州だったら県またげる。
真城朔
いくつもまたげる……
真城朔
「…………」
真城朔
「上」
真城朔
「行く……?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「行こっか」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き返し……
真城朔
エレベーターに並びます。
夜高ミツル
少し待って、到着したエレベーターに乗り込む。
真城朔
常に人がいる……
夜高ミツル
休日の観光地だな~
夜高ミツル
真城を端に立たせている。
真城朔
ミツルの影に隠れています。
夜高ミツル
ぐんぐん登っていき……
真城朔
一番上へ。
夜高ミツル
エレベーターを降りて……
夜高ミツル
出てすぐのところから五稜郭が正面に見えるらしく、やや人だかりになっている……
真城朔
ぱちくり……
真城朔
その人だかりを避けつつ……
夜高ミツル
時計回りに通路を進んでみる。
真城朔
てくてく
夜高ミツル
人だかりのすぐ横に五稜郭の模型があるが、ここも流れで人が見ているので一旦スルーし……
真城朔
人のいないところを求め求めて……
夜高ミツル
顔ハメパネルがある……
夜高ミツル
ここは人いない……
真城朔
いないけど……
夜高ミツル
「タワーロボ……」
夜高ミツル
「タワーロボ……?」
真城朔
「ロボ……?」
真城朔
確かに特撮とかで出てきそうな外観ではあるかも……?
夜高ミツル
タワーロボのところから顔を出せるようになっているのだが……
夜高ミツル
顔ハメっていうか……
夜高ミツル
鼻の位置なのでは……
真城朔
なにもわからない……
真城朔
? になりながら二人で眺めている。
真城朔
そのうち観光客が後ろから来て……
真城朔
道を譲り……
真城朔
あっ
真城朔
撮るんだ……
夜高ミツル
撮るんだな……
夜高ミツル
活用されてるみたいでよかった
真城朔
無視されてたらかわいそう……
真城朔
そそそ……と退散。
真城朔
しかしこうして進みつつ……
真城朔
景色を見ていると……
真城朔
「都会……」
夜高ミツル
「めちゃくちゃ開拓されたんだなー……」
夜高ミツル
エントランスの模型を思い出している。
真城朔
こくこく……
真城朔
「あんなに」
真城朔
「緑だったのに……」
夜高ミツル
「今は……」
夜高ミツル
見渡す限り建物がいっぱい。
真城朔
ビルもいっぱい……
夜高ミツル
「緑は……遠くに山は見えるけどって感じだな……」
真城朔
「五稜郭も」
真城朔
「緑だけど……」
真城朔
逆に言うとそれ以外は……
夜高ミツル
「これも公園の緑だもんなあ……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「すごいな……」
夜高ミツル
いいことなのか悪いことなのかはなんとも判断がつけがたく……
夜高ミツル
素朴にすごいな、と思った。
真城朔
それはそれとして人々の積み重ねというか……
真城朔
歴史というか……
真城朔
そういうすごさ。
夜高ミツル
あれからここまでに……
夜高ミツル
すごい。
真城朔
噛みしめている。
真城朔
ジオラマとか……
真城朔
あと戦時下の云々とかある……
夜高ミツル
歴史を伝えようとしてくれてる。
真城朔
戦時下の赤十字精神……?
夜高ミツル
ほへー……
真城朔
歴史だ……
真城朔
歴史に明るくない。
真城朔
中学校以降まともに学校に通ってないから……
夜高ミツル
一応真面目に勉強してはいたけど、教科書以上のことは……
真城朔
なんかそういうことがあって……そうだったんだな……
真城朔
みたいなことを……ぼんやり眺めている……
夜高ミツル
ぼんやり……
夜高ミツル
歴史がある……
真城朔
歴史の重みだけなんとなく感じてる。
夜高ミツル
感じながら歩いていると……
夜高ミツル
「わ」
夜高ミツル
「像」
真城朔
「?」
真城朔
「ぞう」
真城朔
ミツルの視線を追い……
真城朔
「像……」
真城朔
像だった。
夜高ミツル
進行方向にブロンドの座像。
夜高ミツル
「像……」
夜高ミツル
「誰……?」
真城朔
誰だろ……
夜高ミツル
てくてくと近寄る。
真城朔
首をひねりつつ……
真城朔
座ってる……
夜高ミツル
像の正面にまわり……
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「土方歳三……」
夜高ミツル
って、書いてある。
真城朔
「土方歳三」
真城朔
さすがに知ってる……
夜高ミツル
いっぱい有名
真城朔
よくいろんな話に出てくる……
真城朔
「なんか」
真城朔
「堂々としてる……」
夜高ミツル
「強そうだな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
ハンターとしても強そう……とか思ってる。
夜高ミツル
頼れそう……
夜高ミツル
大体似たようなことを考えてた。
真城朔
つい……
夜高ミツル
なんとなく刀使いの親近感がある……
真城朔
新選組も吸血鬼と戦ってたとか戦ってないとか……
夜高ミツル
池田屋は吸血鬼の巣窟だった……?
真城朔
そういう胡乱な話がある。
夜高ミツル
歴史の闇……
真城朔
まあもともとあのあたりの話っていくらでもフィクションの種にされてるし……
夜高ミツル
ハンターの間で噂される歴史の真実は話半分で聞いたほうがいいやつ。
夜高ミツル
半分どころか4分の1くらいかも……
真城朔
もっと少なくていいと思う……
真城朔
なんとなく土方歳三像を前に考えに耽ってしまった。
夜高ミツル
ずっと見てる土方歳三のファンの人みたいになってしまった……
真城朔
そんなわけではないんだけど……
夜高ミツル
土方歳三像を通り過ぎると、最初の地点に戻ってくる。
真城朔
五稜郭のよく見える場所。
夜高ミツル
幸いそこそこ人がはけている。
真城朔
二人でゆっくり窓際へ……
真城朔
前面ガラス張りなので、改めてなかなかの貫禄でもって函館を見下ろせる。
夜高ミツル
「おおー……」
真城朔
「五稜郭……」
真城朔
「星型」
夜高ミツル
間近に五稜郭の全貌を見下ろしている。
夜高ミツル
「星型だな……」
真城朔
「星……」
真城朔
「すごい……」
真城朔
すぐすごいが出がち。
夜高ミツル
「すごいな……」
夜高ミツル
でもすごいし……
夜高ミツル
「なんでこんな形にしようと思ったんだろ……」
真城朔
「なんでだろ……」
真城朔
首をひねり……
真城朔
スマホを出した。
真城朔
もにもに……
真城朔
調べている。
夜高ミツル
調べてくれているさまを見ている。
真城朔
「あ」
真城朔
「と……」
真城朔
「…………」
真城朔
「要塞として……?」
夜高ミツル
「要塞」
真城朔
「死角がないとか……」
夜高ミツル
「へ~」
夜高ミツル
攻城戦の規模はスケールが違うからあんまり想像つかないけど……
夜高ミツル
死角がないのは強いな……
真城朔
真城もなにも想像がつかない……
真城朔
「かたち」
真城朔
「きれいなのにね」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「要塞なんだ……」
夜高ミツル
きれいな星の形を見下ろしている。
真城朔
並んで見下ろす緑の星。
夜高ミツル
「今は公園に……」
真城朔
「平和に」
真城朔
「なった……」
真城朔
ハンターの戦いはまだ続いてるけど……
夜高ミツル
「よかったな」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
平和なのはいいこと……
夜高ミツル
今は平和できれいな星型の公園。
真城朔
観光地。
真城朔
こうして二人でのんびり見下ろして……
真城朔
のんびり……
真城朔
背後のエレベーターが開いた。
真城朔
人が出てきた……
真城朔
…………
夜高ミツル
わ……
真城朔
ミツルへと寄る。
夜高ミツル
人との間に立ちながら、少しその場を離れる。
真城朔
土方歳三像の方へ……
真城朔
行きつつ……
真城朔
「……なんか」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「色々あった……」
夜高ミツル
「色々あったな……」
夜高ミツル
歴史……
真城朔
「色々……」
真城朔
色々としか言えなくなっている。
夜高ミツル
色々あった。
真城朔
土方歳三もいた。
夜高ミツル
強そうだった……
真城朔
というかここにいる……
真城朔
すぐ近くに……
夜高ミツル
今も堂々としてる。
夜高ミツル
「1つ下も展望台になってるみたいだから」
夜高ミツル
「降りてみるか?」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「下」
真城朔
「何あるんだろ」
夜高ミツル
ちょうど階段がすぐそこに。
夜高ミツル
「なんだろうな」
夜高ミツル
「行ってみよ」
真城朔
「うん」
真城朔
歩き歩き……
真城朔
降り降り……
夜高ミツル
てくてくと階段を降りてゆき……
夜高ミツル
やってきた1つ下の階も、上と同じく外側は全面ガラス張り。
真城朔
函館の風景を見回せる開放感のある仕様。
真城朔
なのだが……
真城朔
「あ」
真城朔
「あれ……」
真城朔
階段のすぐ近くの床を指差す。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
なんか……
夜高ミツル
示されたところを見て……
夜高ミツル
「わ……」
真城朔
床の一部が……
真城朔
本当に一部ではあるけど、ガラスになってて……
夜高ミツル
「下が……」
夜高ミツル
見える……
真城朔
恐る恐る近づいていく。
真城朔
ガラスの上には乗らないで、横から見下ろし……
真城朔
ひゃー……
夜高ミツル
高い……
真城朔
遥か下の道路を車が走る様子が真上から観察できる。
夜高ミツル
「東京タワーとかも確か」
夜高ミツル
「こんな感じの床が……」
真城朔
「あるんだ……」
夜高ミツル
同じく横から見下ろしている。
夜高ミツル
「あったはず……」
真城朔
乗る気にはなれない……
真城朔
「需要が……」
夜高ミツル
「あるんだろうな……」
真城朔
こわい……
真城朔
わからない需要。
真城朔
しばらくシースルーフロアの下に釘付けになっていたが……
夜高ミツル
わー……になってた。
真城朔
ふいと視線を壁の方に逸らすと
真城朔
「あ」
真城朔
「五稜郭の……」
夜高ミツル
顔を上げる。
真城朔
世界の星形城郭とやらの解説が。
夜高ミツル
「あ」
真城朔
音楽家みたいな外国人の絵がある……
夜高ミツル
「要塞の……」
夜高ミツル
「色々あるんだな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
とはいえあまり興味を惹かれるものではなく……
真城朔
すぐ近くのカフェスタンドに目が行った。
夜高ミツル
ソフトクリームとかある。
真城朔
観光地にありがちな感じのカフェスタンド。
真城朔
座席とかはなく、ガラス張りの窓際にちょっとした丸テーブルがあるだけ……
夜高ミツル
うっかりスルーしそうなくらい小さい丸テーブルが……
真城朔
ぼんやりとカフェスタンドのメニューなどを眺め……
夜高ミツル
ソフトクリーム、定番だな~と軽く流し見ていたのだが……
夜高ミツル
その中で、ふと目に止まったのが
夜高ミツル
「クラッシュドゼリーソフト」
夜高ミツル
見たままを読み上げる。
真城朔
「ゼリー」
真城朔
復唱し、とことことメニュー板に近づいていく。
真城朔
展望台限定クラッシュドゼリーソフト……
真城朔
やわらか新食感のクラッシュドゼリーを冷たく美味しいソフトクリームにトッピング……
夜高ミツル
限定というだけあって、確かにちょっと見たことない感じの。
夜高ミツル
「ソフトクリームにゼリーが……」
真城朔
「めずらしい……」
真城朔
気がする……
夜高ミツル
頷いている。
夜高ミツル
「これ、食べてみるか?」
真城朔
「ん……」
真城朔
ミツルを見る。
真城朔
「食べる?」
真城朔
聞き返した。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「結構サイズありそうだし、1つかな……」
真城朔
頷き返し……
真城朔
写真を見る。
真城朔
「みっちり入ってる……」
夜高ミツル
カップにいっぱい……
真城朔
「コーヒー、ストロベリー、マンゴー……」
夜高ミツル
「どれにする?」
真城朔
「ん~……」
真城朔
う~ん……になってる……
真城朔
こういうの迷いがち……
夜高ミツル
二人して……
真城朔
迷った末に……
真城朔
「ミツは」
真城朔
「どっちが……」
真城朔
こういうふうになりがち……
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
「ストロベリーかな……?」
真城朔
「ストロベリー……」
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「それにしよ」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
結局こうやってミツルが決めることも多いが、とりあえず訊きはする。
真城朔
たまに決められるときもある……
真城朔
たまに……
夜高ミツル
そういう時もあるので訊く。
夜高ミツル
カウンターの前に立って、ストロベリーのクラッシュドゼリーソフトを注文する。
夜高ミツル
スプーンも2つお願いする。
真城朔
控えめにくっついてます。
夜高ミツル
支払いを済ませて、すぐ横の受け取り口に移り……
夜高ミツル
そう待たずに、注文した品がカウンターに置かれる。
真城朔
おお……
真城朔
思ったより小さめ。
真城朔
なのでほっとしている。
夜高ミツル
真っ白なソフトクリームの底と上部に、真っ赤なイチゴ味のゼリー。
真城朔
なんか写真だと圧が強いから……
夜高ミツル
もっとあるのかと……
夜高ミツル
受け取って二人で窓際へ。
真城朔
小さなテーブルに乗せて……
真城朔
ぼんやりと函館の街を見下ろします。
真城朔
おっきな建物と駐車場が見える。
夜高ミツル
何の建物だろう……
夜高ミツル
知らない街並みを見下ろしている。
真城朔
見慣れない街並み……
真城朔
二人でスプーンを取り……
夜高ミツル
すっと、ソフトにスプーンを差し入れる。
真城朔
なんとなくツノのてっぺんの部分を避けて……
真城朔
ツノの……下の部分を……
真城朔
ゼリーと合わせて掬う。
夜高ミツル
白と赤を一口に。
真城朔
ぱく……
真城朔
もむもむと舌で味わっている。
夜高ミツル
もむもむ……
真城朔
これは……
真城朔
「…………」
真城朔
「甘い……」
真城朔
代わり映えのしない感想が出た。
夜高ミツル
「甘いなあ」
真城朔
「ソフトクリームと、ゼリー」
真城朔
「って」
真城朔
「組み合わせ」
真城朔
「珍しい感じ……」
夜高ミツル
「だなー」
夜高ミツル
「ゼリーの食感がある……」
真城朔
「ゼリーは」
夜高ミツル
そりゃそう……ということばかり言ってしまう。
真城朔
「溶けない、ね」
真城朔
そりゃそうということを言っています。
夜高ミツル
「溶けない」
夜高ミツル
言い合っている。
真城朔
「ぷるぷるしてる……」
真城朔
言っている……
真城朔
言い合いつつ……
真城朔
ぼんやり函館の街を改めて眺める。
真城朔
なかなか天気が良く……
夜高ミツル
ソフトをすくってはちみちみと味わいながら……
真城朔
街の向こう側に、青空と海の境目を見渡せたりする。
夜高ミツル
「海だな……」
真城朔
「これから」
真城朔
「渡る?」
夜高ミツル
「か、な…………?」
夜高ミツル
「どうだろう、どっち側が青森だ……?」
夜高ミツル
わかんなくなっている。
真城朔
「どうだろ……」
真城朔
首をひねっている……
夜高ミツル
二人して……
真城朔
わからないが……
真城朔
「ソフト」
真城朔
「おいしい、ね」
真城朔
「ゼリーも……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
すくって……
真城朔
もぐむぐ……
夜高ミツル
「うまい」
夜高ミツル
ミツルも一口すくう。
真城朔
こくこく……
真城朔
かなり秋になってきたけど……
真城朔
こういうのはまだおいしい。
夜高ミツル
今日はまあまあ気温高い方でもある。
真城朔
天気もいいし……
夜高ミツル
おいしく味わっている。
真城朔
高いところに登るのにちょうどよかった……
真城朔
人出も多いけど……
真城朔
今もちょこちょこ人がいる。
真城朔
密度高いわけじゃないからそんなに気にならないけど……
夜高ミツル
テーブル同士の間隔も結構広め。
真城朔
のんびりできてる。
夜高ミツル
のんびりとソフトを食べ……
真城朔
ぼんやり函館を見ている。
真城朔
車がいっぱい 駐車場広い
夜高ミツル
建物もいっぱい
夜高ミツル
遠くまで並んでいる……
夜高ミツル
「これ、確かに夜景すごいだろうな……」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「建物」
真城朔
「みっちり……」
夜高ミツル
「札幌もすごかったけど……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「見応えありそう」
夜高ミツル
「世界三大夜景……」
夜高ミツル
「の一つ……」
真城朔
「札幌よりすごい……」
夜高ミツル
札幌は日本三大夜景だった。
真城朔
札幌もすごかったけど……
夜高ミツル
あれよりすごいということになる……
真城朔
思いを馳せている。
真城朔
馳せているうちに……
真城朔
ソフトクリームがあとちょっとに。
夜高ミツル
底にちんまりと……
真城朔
クラッシュゼリーとソフトの混じり合った感じの……
夜高ミツル
カップを傾けて底をすくう。
真城朔
その様子を見ています。
夜高ミツル
「真城、まだ食える?」
真城朔
「ん」
真城朔
「ん~……」
真城朔
ん~……になっている……
真城朔
「食べられは」
真城朔
「する、かも」
真城朔
「だけど……」
夜高ミツル
「結構いっぱいな感じか」
真城朔
「ん……」
真城朔
もにゃもにゃしたかんじ……
真城朔
入るけど……
真城朔
ミツに譲りたいような……
真城朔
でも薦めてくれる感じで……
真城朔
もにゃもにゃとした頷き方をする。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
スプーンを真城の前に差し出す。
真城朔
差し出された。
真城朔
おず……とミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
差し出している。
真城朔
おろ……
夜高ミツル
「お腹いっぱいなら大丈夫だけど」
真城朔
…………
真城朔
しばし迷った末に……
真城朔
顔を少し突き出して、
真城朔
ぱく、とスプーンを口に含んだ。
夜高ミツル
嬉しそうにその様子を見ている。
真城朔
もむもむ……
真城朔
ミツルに見られながら舌で味わっています。
夜高ミツル
もむもむしてる……
真城朔
飲み込み……
真城朔
「ごちそう」
真城朔
「さま……」
夜高ミツル
「ごちそうさま」
夜高ミツル
空になったカップにスプーンをまとめる。
真城朔
入れ……
夜高ミツル
カウンターの端にゴミ箱があったので、そこに入れる。
真城朔
放り込まれるのを見ている。
夜高ミツル
そのまま流れで隣の売店を眺めたり……
真城朔
いろいろあるけど……
真城朔
売店でものを買ってももう……という感じ。
真城朔
買ってお菓子くらいなもので……
夜高ミツル
それもよっぽど気になるものでなければ……という感じで……
夜高ミツル
今回は特に……だった。
真城朔
すすーっと……
真城朔
コンピューター手相占いとか……
真城朔
一体……?
夜高ミツル
……?
夜高ミツル
なんだろうな……とか言いつつ通り過ぎ……
真城朔
あとはぐる~っとなんとなく見て回り……
真城朔
エレベーターからタワーを降りる。
夜高ミツル
通り過ぎたが、地上2階にはレストランとかがあるようだった。
真城朔
ソフトたべたばっかりだし……
真城朔
…………
真城朔
「ミツは」
真城朔
「おなかすいてない……?」
真城朔
そういえば朝ごはん食べてからソフトだけ……
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「朝食べたあと寝てたしな……」
真城朔
おず……になってる。
真城朔
顔色うかがい……
真城朔
しんぱいげ……
夜高ミツル
「湯の川の方行ってからなんか食おうか」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
路電の方へ向かおうと……
夜高ミツル
また人が多そうだったらタクシー捕まえよ……
夜高ミツル
てくてくと停留所へ。
真城朔
まあまあ人が並んではいる……
真城朔
休日 観光地……
夜高ミツル
うーん……
夜高ミツル
湯の川まで結構乗らないとだしな……
真城朔
ミツルの内心も知らずぼんやり並びに行くが……
夜高ミツル
停留所に着く前に足を止める。
真城朔
「?」
真城朔
「やっぱ」
真城朔
「なんか」
真城朔
「食べてく……?」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「タクシー捕まえてこ」
真城朔
「タクシー」
真城朔
ぱちくり……
夜高ミツル
「タクシー」
夜高ミツル
言って、真城の手を引いて車道側へ。
真城朔
引かれていく……
真城朔
人多いけど平気……
真城朔
とは思うけどあんまり言えない……
真城朔
実際気を遣うのはミツルの方なので……
真城朔
気遣ってもらえるのに甘えている。
夜高ミツル
さすがは観光地、すぐに空車のタクシーを捕まえられた。
夜高ミツル
二人で後部座席に乗り込んで、目的地を告げる。
真城朔
タクシーの後部座席でミツルにくっついている。
夜高ミツル
革張りのシートに二人で寄り添い合い……
真城朔
無言。
夜高ミツル
運転手さんも気を使ってくれたのか話しかけられず……
真城朔
最終的に足湯を少し通り過ぎ……
真城朔
足湯のサイトにあった喫茶店の前で下ろしてもらった。
真城朔
なかなか老舗という感じの外観……
真城朔
に、二人で入り……
夜高ミツル
サンドイッチと飲み物を頼んだ。
真城朔
真城はフォンダンショコラのセットを頼み、サンドイッチも含めミツルと分け合いつつ……
夜高ミツル
紅茶で一息つき……
真城朔
ちょっと休んでから、そのまま足湯へ。
真城朔
けっこう歩く。
夜高ミツル
タクシーで来た道を戻っていく。
真城朔
てくてく……
真城朔
歩くのは全然苦じゃない。
夜高ミツル
夜の街を走り回るのに比べたら全然……
真城朔
のんびりゆったり……
真城朔
そのうち改めて……
真城朔
四角い屋根に囲われた空間と看板とが見えてくる……
真城朔
あんまり観光地っぽい大仰さがない。
夜高ミツル
屋根付きの停留所のような……
夜高ミツル
道路脇に急にある。
真城朔
ぽつねん
真城朔
実際停留所がすぐ近くにあるし……
夜高ミツル
こんな感じなんだな……
真城朔
ある意味親しみやすいかも……?
真城朔
先客もいるけどそんなに混んではいない……
夜高ミツル
空いている隅の方を使わせてもらうことにする。
真城朔
二人で並び……
真城朔
靴を脱ぎ 靴下を脱ぎ
真城朔
ズボンをまくりあげ……
夜高ミツル
つま先からお湯に浸していく。
真城朔
ちゃぷん……
夜高ミツル
「お~……」
真城朔
ほわ……
真城朔
「あったかい……」
夜高ミツル
「あったかいな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「秋になってきてて」
真城朔
「よかった」
夜高ミツル
「真夏はさすがになー」
真城朔
じゃー……と今もお湯を吐き出している源泉の方を見つつ……
真城朔
「気持ちよくは」
真城朔
「あるだろう、けど……」
夜高ミツル
「普通に風呂に入りたくなりそうだな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
ぼんやり……
真城朔
すぐ近くが道路なので、車のエンジン音とかがめちゃめちゃ聞こえる……
真城朔
信号の音も聞こえる……
真城朔
かっこー……かっこー……
真城朔
だいぶ庶民的な空間。
真城朔
白いつま先を足湯の中でたゆたわせている。
夜高ミツル
路面電車が来たり行ったり……
真城朔
足は湯につけ、身体はミツルと密着し……
真城朔
ぼや……
夜高ミツル
「……温泉」
夜高ミツル
「部屋についてるとこなら一緒に入れるな」
真城朔
「……ん」
真城朔
こく……
真城朔
「そうかも……」
夜高ミツル
「どっか探してみるか~」
真城朔
「いいとこ」
真城朔
「ありそう、なら……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
うつむき……
夜高ミツル
身体を寄せる。
真城朔
寄せられ……
真城朔
ちらりとミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
「二人でゆっくりできるとこ見つけよう」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
控えめに頷く。
真城朔
「ふたり」
真城朔
「で」
真城朔
「こういうふうに……」
真城朔
ちゃぽ……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
つま先を軽く湯面から出す。
夜高ミツル
水面が揺れる。
真城朔
作られた波紋をぼんやりと見下ろしている。
夜高ミツル
「東北は温泉多いイメージあるし」
真城朔
「ある……」
夜高ミツル
「平日なら部屋も取りやすいだろうし」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「ずっとホテルだったしなー」
夜高ミツル
「たまには旅館もいいよな」
真城朔
「そう、かも」
真城朔
「……色々」
真城朔
「試すのも……」
真城朔
「いいかも」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
こくこく頷き……
真城朔
ミツルの肩に頬を寄せた。
真城朔
二人でタクシーを降りる。
真城朔
なかなかの坂を登ってもらって……
夜高ミツル
函館山ロープウェイの駅前。
真城朔
割と周囲は住宅街……
真城朔
藻岩山のロープウェイより小さい感じ。
真城朔
小さくて古め……
夜高ミツル
視線を上げると、駅の上に鉄骨組みの部分が見える。
夜高ミツル
街中で中々無骨な感じの……
真城朔
庶民あじある
真城朔
藻岩はなんかスタイリッシュだったから……
真城朔
五稜郭タワーもそうだったけど……
夜高ミツル
新しかった。
夜高ミツル
駅の中に入る。
夜高ミツル
チケットはカウンターで買うらしい。
真城朔
二人で並び……
夜高ミツル
大人2人分を購入して、3階の乗り場へ上がる。
真城朔
階段をてくてくと登る。
真城朔
階段を登った左手の乗り場に……
真城朔
人が並んでる……
夜高ミツル
観光地……
真城朔
ミツルにくっつきます。
夜高ミツル
くっついて他の乗客の後ろに並ぶ。
真城朔
ぴっとり……
真城朔
まだ昼運行なので15分間隔。
夜高ミツル
夜景の時間には5分間隔になるらしい。
真城朔
やっぱり夜景が売りなんだな……と再確認させられる情報。
夜高ミツル
世界三大らしいからな……
真城朔
藻岩山より駅は小さいけど言うことはでかい。
真城朔
ぼんやり待っていると、やがて列が動き始める。
夜高ミツル
ぞろぞろ……
真城朔
ついていき……
真城朔
なかなか大きなロープウェイのゴンドラが……
夜高ミツル
開放的な乗り場に停まっている。
真城朔
乗り込み、二人で窓際へ……
真城朔
手すりにつかまり……
夜高ミツル
夕日に照らされた街並みが見える。
真城朔
「あれ……」
真城朔
「なんだろ……」
真城朔
大きめの建物が……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
三角の屋根の……
夜高ミツル
じー……
真城朔
指差す。
夜高ミツル
指さされた方を見ている。
真城朔
広い駐車場があって……
真城朔
なんだろうな……
夜高ミツル
「なんだろ……」
真城朔
二人で首をひねっている。
真城朔
城みたいな尖った屋根の建物もある……
夜高ミツル
なんだろうな……
真城朔
わからない……
真城朔
わからないけどぼんやり函館の街並みを見下ろしていると……
真城朔
だんだん海が見えてくる。
夜高ミツル
「海だ」
真城朔
「海……」
真城朔
ミツルと窓にぴったりとくっつき……
真城朔
ぼんやりと海を見ている。
真城朔
時折周囲の人をちらちらと気にかけるが……
夜高ミツル
なるべく他の人から隠すようにくっついている。
真城朔
隠してもらってます。
夜高ミツル
そうしている間にも、ロープウェイはどんどん山沿いを登ってゆく。
夜高ミツル
視界を占める海の面積も大きくなっていく。
真城朔
どんどん高くなっていき……
夜高ミツル
途中で下りのゴンドラとすれ違ったりしつつ……
夜高ミツル
思ったよりもすぐに山頂駅に到着。
真城朔
あっという間だった……
夜高ミツル
他の乗客が降りるのを待って、二人も降りる。
真城朔
てくてく
真城朔
ゴンドラを降りた山頂駅の一階には、景色が見渡せるラウンジが。
真城朔
ベンチとか置いてある……
夜高ミツル
ここからでも十分見えそうな感じ。
真城朔
人もいる……
夜高ミツル
だけどとりあえず、人の流れに乗って階段を登ってゆく。
真城朔
のぼりのぼり
真城朔
2階に登ると明るい感じのフロアに出る。
真城朔
売店があり……
真城朔
定番の軽食売り場もある……
夜高ミツル
それぞれそれなりに人がいる。
真城朔
ソフトクリームとかじゃがバターとか揚げニョッキとか……
真城朔
いかめし棒……?
真城朔
色々売ってる……
夜高ミツル
うまそう……
真城朔
観光地は食べ物が多い。
真城朔
あのあと湯の川でもおだんごとかたべたし……
夜高ミツル
食べ歩きした……
真城朔
気になりつつ……
夜高ミツル
今はとりあえず上へ……
真城朔
レストランもあった。
真城朔
藻岩山のレストランよりはまだ入れそうな雰囲気の……
夜高ミツル
表に出てるメニューがまだ親しみやすい感じ。
真城朔
あそこはなんか……
真城朔
すごかったから……
夜高ミツル
藻岩のはとても入れない……になった。
夜高ミツル
格調高くて……
真城朔
こっちはまだまあ……という感じ。
真城朔
でも軽食コーナーとかのが気楽かな……
真城朔
二人で分けて食べるし……
夜高ミツル
格調高くなくてもそもそもディナータイムのレストランがなかなか入りづらい。
夜高ミツル
レストランも横目に、さらに階段を登る。
真城朔
のぼりのぼり……
真城朔
ティーラウンジもある……
夜高ミツル
色々ある……
真城朔
とりあえず今はスルー。
真城朔
階段を登り、3階のさらに上へ。
夜高ミツル
ガラス張りの扉から夕日が差し込んでいる。
真城朔
ガラスの扉を押し開け……
真城朔
スリ注意ってあるな……
夜高ミツル
観光地だもんな……
真城朔
あぶない。
夜高ミツル
いるんだろうな……
真城朔
改めて押し開け、屋上へ。
真城朔
まず目の前に海と山とがちょっと見える……
夜高ミツル
傾いた太陽が真正面に……
夜高ミツル
眩しさに目を細める。
真城朔
まぶしい……
夜高ミツル
「大丈夫か?」
真城朔
「ん……」
真城朔
目を細めながら頷き……
真城朔
ミツルの手を握る。
真城朔
人がいっぱいいる……
夜高ミツル
夜景になる前から……
夜高ミツル
太陽に背を向けて、反対側を見に行く。
真城朔
てくてく……
夜高ミツル
こっちも当然人が多い……
真城朔
ひゃー……
真城朔
ミツルにくっつきゆく。
真城朔
もとからだけど……
夜高ミツル
ぴと……
夜高ミツル
ちょっと人の薄いところを見つけて、そちらに寄る。
真城朔
寄り寄り……
真城朔
街を見下ろします。
真城朔
タワーからも函館を見下ろしはしたけど……
夜高ミツル
それよりもっと高い……
真城朔
海の見え方も違う感じ。
真城朔
「こっちの方が」
真城朔
「海が……」
真城朔
こう……
真城朔
両側から……
真城朔
指差している。
夜高ミツル
「いっぱい見えるな」
真城朔
「うん」
真城朔
「街が挟まれてる……」
夜高ミツル
「すごい地形だな……」
真城朔
「なんだっけ」
真城朔
「えーと……」
真城朔
「…………」
真城朔
わすれた……
真城朔
五稜郭タワーでなんかあったことだけ覚えてる。
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
書いてあった……
真城朔
「うん……」
真城朔
あった……
夜高ミツル
なんだっけ……になりつつぼやぼやと街を見下ろしている。
夜高ミツル
「山の影が……」
真城朔
こく……
真城朔
「くっきり……」
夜高ミツル
手前側と奥側で、はっきり明暗が分かれている。
真城朔
海に挟まれたあたりがちょうど境界に……
夜高ミツル
「日照権……」
夜高ミツル
「はこういう話じゃないか……」
真城朔
「山が相手じゃ……」
真城朔
言っているうちにも影が伸びていく。
夜高ミツル
「どうしようもないな……」
真城朔
「午前中は」
真城朔
「大丈夫だろうし……」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「暗くなるのがはやいだけで……」
真城朔
「うん……」
真城朔
他愛もないことを話しつつ……
真城朔
人が……
真城朔
増えてくる……
夜高ミツル
どんどんと……
夜高ミツル
かなり近くまで他の人が詰まってきたので、一旦後ろに下がる。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
空いた場所にすぐ人が……
真城朔
ミツルの腕にしがみついている。
真城朔
ひし
夜高ミツル
くっついたまま後退してゆき……
真城朔
じり……じり……
夜高ミツル
屋上の真ん中の方は街が見えないから人がいない。
真城朔
人もいないけど、あんまりここにいる意味も薄い。
夜高ミツル
「……下降りるか」
夜高ミツル
「下にも外見えるとこあったし」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
こくこく頷いた。
夜高ミツル
屋上に上がってくる人々とすれ違いながら、てくてくと下に。
真城朔
降りていくとすぐそこに……
真城朔
ティーラウンジの扉が。
夜高ミツル
扉の脇にメニューが出されている。
真城朔
ながめ……
夜高ミツル
夜景の写真も載ってる。
夜高ミツル
「ここからも外見えるっぽい……」
真城朔
「ほんとだ」
真城朔
じ……
真城朔
メニューも、まあ……
夜高ミツル
北海道感のある軽食が色々。
夜高ミツル
「ここ入ってみるか」
真城朔
おつまみメニュー的。
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
二人で分け合っても大丈夫そうなお店はハードル低め。
真城朔
ぼんやりメニューを眺め……
真城朔
いか……
真城朔
「…………」
真城朔
朝見たいかを思い出している。
夜高ミツル
うねうねしてた……
真城朔
下半身だけで……
真城朔
無言になりつつ、店名の書かれたガラス戸を押し開け……
真城朔
内装はなかなか高級感がある……
夜高ミツル
メニューは結構庶民的な感じだったのに……
真城朔
別にドレスコードでどうこう言われることもなく通される。
夜高ミツル
それなりに客がいるが、屋上ほどではない。
真城朔
何より席についたらスペースが確保できるし……
夜高ミツル
窓際の席が空いていたので、そこに通してもらえた。
真城朔
ラッキー。
真城朔
向かい合って座ります。
真城朔
食べ物と飲み物と頼み……
夜高ミツル
運ばれたソーセージとシュウマイを分け合いながら、街を見下ろす。
真城朔
影が随分進んできている……
夜高ミツル
もう街のほとんどが影に覆われている。
真城朔
ぼんやり……
夜高ミツル
薄暗い中で、ぽつぽつと街の光が灯り始めているのが見える。
真城朔
「ちょっとずつ」
真城朔
「夜景になってる」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「人が住んでるんだなって感じがする」
夜高ミツル
「人が住んでて明かりを点けて……」
真城朔
「生活」
真城朔
「してる……」
真城朔
車が走って……
夜高ミツル
「してるなー」
真城朔
「人」
真城朔
「いっぱいいた」
夜高ミツル
「観光地って感じだったな……」
夜高ミツル
今日はこればかり言ってるな……
真城朔
久しぶりに観光地って感じの賑わいに身を晒したので……
真城朔
噛みしめてしまっている。
夜高ミツル
人に揉まれた……
真城朔
「フェリー」
真城朔
「明日にする……?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「日曜日……」
真城朔
日曜日……
夜高ミツル
「月曜の方がいい気がするな……」
夜高ミツル
「移動するなら……」
真城朔
「明日も」
真城朔
「函館……」
真城朔
回る……?
真城朔
でも今日がもう人多かったし……
真城朔
日曜日……
夜高ミツル
「ゆっくりしていいんじゃないか」
夜高ミツル
「ホテルで……」
真城朔
「ゆっくり……」
真城朔
こく……
夜高ミツル
そうしよう……
真城朔
そういうことになった。
真城朔
そういう話をしているうちにも日が落ちていく。
真城朔
街の明かりが灯りゆき……
夜高ミツル
空の色はどんどん暗く……
真城朔
夕暮れ。
真城朔
を、通り越して夜へ。
真城朔
「左の方」
真城朔
「港……?」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
ぴかぴかしてる……
夜高ミツル
「船が……」
真城朔
「いっぱい」
夜高ミツル
「港だな……」
真城朔
空の青もどんどん暗くなっていて……
真城朔
夜景もどんどんゴージャスな感じに。
夜高ミツル
「すごい……」
真城朔
こく……
真城朔
「なんか」
真城朔
「イルミネーション」
真城朔
「みたい……」
夜高ミツル
「だなあ……」
真城朔
海に挟まれた街が、電飾のようなきらびやかさに彩られている。
夜高ミツル
「めちゃくちゃぴかぴかしてる……」
真城朔
絶えず車が流れ……
真城朔
「世界三大夜景……」
夜高ミツル
「さすが……」
真城朔
ぼやー……と眺めている……
真城朔
ラウンジにも人が多く……
真城朔
酒を飲んで結構大きな声を出している人もいるけど……
真城朔
あんまり気にせずぼんやり見ている。
夜高ミツル
そんなに気にならない方。
真城朔
ハンターはもっとヤバい人が多い
夜高ミツル
あっちはあっち、こっちはこっちな感じで……
夜高ミツル
絡まれないなら平和。
真城朔
観光地だしラウンジだし……
真城朔
メニューもお酒好きなひと向けって感じだし……
真城朔
夜景、きれいだし。
夜高ミツル
こういうこともある。
夜高ミツル
「すごい光ってるの、朝市の辺りか……?」
真城朔
「あー……」
夜高ミツル
「函館駅かな……」
真城朔
「どうだろ……」
真城朔
「そうかも……?」
真城朔
藻岩みたいなパネルがないからいまいちわからない。
夜高ミツル
左側がなんか明かりがオレンジでとびきりきらびやかで……
夜高ミツル
ぴかぴかしてるな……
真城朔
派手……
夜高ミツル
「そういえば」
夜高ミツル
「五稜郭見えるかと思ったけど……」
夜高ミツル
「見えなかったな」
真城朔
「あ……」
真城朔
たしかに……
真城朔
「角度が」
真城朔
「足りない感じ……?」
夜高ミツル
「多分そうだなー」
真城朔
「高さが……」
夜高ミツル
「あの……くびれてる辺りよりはもっと向こうだから……」
夜高ミツル
「角度がな……」
真城朔
「遠い……」
真城朔
目を凝らしているが……
真城朔
もう光がぴかぴかで……
真城朔
五稜郭は特にライトアップされていないため……
夜高ミツル
真城が見えないようではミツルにも全く見えない。
真城朔
「よく」
真城朔
「わかんないね」
夜高ミツル
「わかんないなあ」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
わかんない同士頷いている。
真城朔
麓の方を見たりして……
夜高ミツル
車のランプの流れていくのをぼんやり目で追ったり……
真城朔
「あ……」
真城朔
「十字架」
真城朔
「あれ、教会……?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「どこどこ」
真城朔
指差し……
真城朔
ライトアップされた教会が一軒に、周囲にいくつか並んでいるが……
真城朔
「えっと」
真城朔
「尖ってる建物が」
真城朔
「結構光がほのかなんだけど……」
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
指差す先を見つめる……
真城朔
「ライトアップが……」
真城朔
がんばって説明しようとしている……
夜高ミツル
ライトアップされて……尖った建物……
夜高ミツル
目を凝らし……
真城朔
「ロープウェイから見えてた感じの……」
真城朔
「たぶん……?」
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「あれ、かな……」
夜高ミツル
「十字架は見えないけど……」
真城朔
「十字架、は」
真城朔
「わかりづらい」
真城朔
「と、思う……」
真城朔
薄暗い……
夜高ミツル
「城みたいな感じの……」
真城朔
「うん」
真城朔
「洋風……」
真城朔
建物が……
真城朔
「何個か」
真城朔
「集まってる」
真城朔
「何軒……?」
夜高ミツル
「固まってるな……」
夜高ミツル
「全部教会……なのか……?」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
首を捻ってる。
真城朔
「たぶん……」
真城朔
全部……?
夜高ミツル
「何軒も近くに建てたりするんだな……」
真城朔
「不思議……」
真城朔
奪い合いにならないのかな……
夜高ミツル
「都会のコンビニくらいの間隔で固まってる……」
真城朔
「ありがたみ……」
夜高ミツル
「あの辺にモンスター誘い込んだら弱体化できたりして……」
真城朔
「どうだろ……」
真城朔
「吸血鬼の弱点って」
真城朔
「結構、ものによるし……」
夜高ミツル
「そうだなー……」
真城朔
「人が、いっぱいいたりしたら」
真城朔
「かえって……」
夜高ミツル
「あ~」
夜高ミツル
「それは困る……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
世界三大夜景の一つを見ながら、ロマンチックとは程遠い話をしている。
真城朔
ロマンチックとは……?
夜高ミツル
分からない……
真城朔
いつもどおりの話をしている。
真城朔
きれいだな……とは思っている。
夜高ミツル
きれい……
真城朔
ぼんやり……
夜高ミツル
こういうのをいつまでもぼんやり眺められてしまう。
真城朔
車が流れて……
真城朔
光がちかちかで……
真城朔
「藻岩山も」
真城朔
「すごかったけど……」
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「海?」
夜高ミツル
「そうだな……」
夜高ミツル
「コントラスト……?」
真城朔
「そんな感じの……」
真城朔
「海は」
真城朔
「船くらい、しか」
真城朔
「光らないから……」
夜高ミツル
「海は光ってなくて、陸は海岸ギリギリまで建物があって……」
夜高ミツル
「陸の形がはっきり……」
真城朔
「建物いっぱいで」
真城朔
「いっぱい光ってるし」
夜高ミツル
「栄えてるな……」
真城朔
「栄えてる……」
真城朔
「人いっぱいいた……」
真城朔
話題が戻ってきた。
夜高ミツル
「いっぱいいたなあ」
夜高ミツル
ループしている。
真城朔
「降りるときも」
真城朔
「人、多そうだし……」
真城朔
「…………」
真城朔
こういうことを言うとまたミツルに頼るしかなくなるのだが……
真城朔
しょぼ……になった。
夜高ミツル
「5分間隔になるってことは、それだけ人が増えるってことだよな……」
真城朔
「上」
真城朔
「人、いっぱいいそう……」
真城朔
ここも既に席がかなり埋まっている。
夜高ミツル
「だなあ……」
真城朔
「土曜日の夜、だし……」
真城朔
思えば一番人が集まりそうなタイミング。
夜高ミツル
「……あんまり遅くなる前に帰るか」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いて、窓の外を見る。
真城朔
夜景を見下ろし……
真城朔
「夜景」
真城朔
「きれい、だけど……」
夜高ミツル
一緒に窓の外を眺める。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「もう」
真城朔
「いっぱい、見た」
真城朔
「し」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「あんまりずっと窓際の席使うのもだしな」
真城朔
「料理も」
真城朔
「食べちゃった、し……」
真城朔
飲み物も……
真城朔
「……出る?」
夜高ミツル
「出よう」
真城朔
頷き合い……
真城朔
二人で席を立つ。
夜高ミツル
支払いは注文時に済んでいるので……
夜高ミツル
二人並んで手を繋いで
真城朔
握り返す。
夜高ミツル
夜景に背を向け、店を後にする。
真城朔
日常へ。
真城朔
帰る家のなくなった日常に戻るため、
真城朔
二人、ロープウェイへと乗り込んだ。