2021/09/28 夕方

真城朔
がやがやざわざわと……
真城朔
まあまあ人の多いフードコートの隅の席。
真城朔
に、二人で並んで座っている。
夜高ミツル
空の器を前に、ごちそうさまでしたといつもの唱和。
夜高ミツル
遅めの昼ごはん。
真城朔
贅沢三種盛り丼とかいう……
夜高ミツル
肉がいっぱい……
夜高ミツル
いろいろ……
夜高ミツル
すごかった。
真城朔
米沢牛とかいうらしい。
真城朔
まさにその名前を冠した道の駅で、二人でのんびりと休憩している。
夜高ミツル
現在の目的地の新潟まで、ここからあと2時間半ほど。
夜高ミツル
もう少し休んでいっても、今日中にたどり着けるだろう。
真城朔
土日だからやや人も多い感じで……
真城朔
ピークタイムを外してお昼を頂いた。
夜高ミツル
フードコートなので二人で一人前を分け合うのも気が楽。
真城朔
フードコートとは思えない豪勢さではあったけども……
真城朔
まあでも丼を売っている隣にはフードコートではない高級なお肉のお店もあったから……
真城朔
まだ手の届く感じのものをいただいた。
真城朔
「米沢牛」
真城朔
「山形……」
夜高ミツル
「山形って牛が有名だったんだなー」
夜高ミツル
「だから芋煮も牛肉なのか……?」
真城朔
「それは……」
真城朔
つい周囲を見回してしまった……
真城朔
なんか……
真城朔
激しい宗教戦争があったので……
夜高ミツル
は……っ
夜高ミツル
外で気軽に口にすると危なかったかもしれない……
真城朔
多分過剰反応だけど……
真城朔
つい……
真城朔
「芋煮会、だと」
真城朔
「そう」
真城朔
「らしいね」
真城朔
「お店も……」
真城朔
いただいたところではそうだった……
夜高ミツル
頷いている……
夜高ミツル
「牛串もいっぱい売ってたな」
夜高ミツル
「めちゃくちゃ牛を推してる……」
夜高ミツル
「米沢牛を……」
真城朔
「名産品……」
真城朔
「俺」
真城朔
「山形って」
真城朔
「イメージ」
真城朔
「さくらんぼ、とか」
真城朔
「だった」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「俺もそっちだなー」
真城朔
「ね」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
授業で習う……
真城朔
習った覚えはないけど……
真城朔
習ったのかも……
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「名産品……」
真城朔
「新潟も」
真城朔
「ある、だろう」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
お米とか……
真城朔
「新潟の」
真城朔
「次、も」
真城朔
「…………」
真城朔
新潟の……
真城朔
次……?
真城朔
首を傾げている。
夜高ミツル
「次……」
夜高ミツル
スマホを出して地図を開く。
夜高ミツル
沖縄という最終目的地は決めてあるものの、道中は結構ふわふわ。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「新潟からだと……」
真城朔
もぞもぞと地図を覗き込んでいる。
夜高ミツル
「このまま日本海側を進んでいくなら富山で……」
夜高ミツル
「その前に長野も寄れるかな」
真城朔
「富山」
真城朔
「長野」
真城朔
あ、順番逆……
夜高ミツル
新潟、長野、富山……と指でなんとなくルートを作ってみている。
真城朔
「その後」
真城朔
「石川……?」
真城朔
ミツルの作ったルートを延長させるようにたどる。
夜高ミツル
「かなー」
夜高ミツル
「それか……」
真城朔
「?」
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「新潟から、群馬、埼玉、神奈川……」
夜高ミツル
すす、と指が地図の上を北から南へ。
真城朔
改めて地図を見ている。
真城朔
ミツルの指を視線で追い……
夜高ミツル
「そんで静岡、名古屋、関西……って感じで」
夜高ミツル
「南側通るのもありかもな」
真城朔
「色々」
真城朔
「ルート、ある……」
真城朔
地図を眺め……
真城朔
「新潟が……」
真城朔
「隣り合ってる県が」
真城朔
「多すぎる……」
真城朔
感想。
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「長野も……」
真城朔
「…………」
真城朔
こうして見てると……
真城朔
「北海道、って」
真城朔
「おっきかった……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
しみじみ……
夜高ミツル
札幌から函館に行くより早く着いたな……ってなること、結構あった。
真城朔
札幌から函館、なかなか長い旅路だった……
夜高ミツル
県をまたぐより……
真城朔
これから新潟に行くけど……
真城朔
それもだいたい二時間半で済むらしいので……
夜高ミツル
短いな……という気持ちになる。
真城朔
別に札幌から函館行くのが大変だったとかではないけど……
真城朔
拍子抜け感がある。
夜高ミツル
「まあ北か南か二択だな……」
夜高ミツル
その間はずっと緑なのでひたすら山っぽい……
夜高ミツル
地図をちょっと引きにする。
真城朔
「二択……」
真城朔
うーん……になっている。
真城朔
いつものとおりに悩みがちを発揮している……
夜高ミツル
ピンチアウトした画面上に、見慣れた千葉の地形も現れる。
夜高ミツル
一年前、最低限の荷物だけを持って飛び出した故郷。
真城朔
真城を伴って飛び出して以来、当然帰っていない場所。
夜高ミツル
正確には、最低限の荷物を持って出られたのはミツルだけで
夜高ミツル
真城にはそれを選ばせる余裕すらなく、着の身着のまま。
真城朔
真城がそれを気に病んでいた様子はないが……
真城朔
そんなことを気に病む余裕がなかったとも言える。
夜高ミツル
ミツルの部屋は整理して、今はきっと親戚によって引き払ってもらえているだろうが……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「?」
夜高ミツル
南側のルートをなぞっていた指を、つい、と右に逸らす。
真城朔
黙ってしまったミツルの様子を窺いつつ……
真城朔
逸れた指先の示すところを見て、ぱち、と目を瞬いた。
夜高ミツル
千葉県
夜高ミツル
の中の、八崎市。
真城朔
惑ったようにミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「……南側を行くなら」
夜高ミツル
「こっちにも寄り道できる」
真城朔
「寄り道」
真城朔
「…………」
真城朔
ややおろついたように視線が彷徨った。
夜高ミツル
「あの時、家に寄ってやれたらよかったんだけど……」
夜高ミツル
「余裕がなくて、できなかったから」
真城朔
「お」
真城朔
「俺のせい」
真城朔
「だし……」
真城朔
小さくなってぼそぼそと……
真城朔
うつむきがち。
夜高ミツル
「いやー……」
夜高ミツル
「俺らがめちゃくちゃ派手にやったからってのもだいぶ……」
真城朔
「さ」
真城朔
「させた、のが……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「真城のせいじゃないよ」
真城朔
「…………」
真城朔
ざわついたフードコートの片隅でしょぼしょぼになっている。
夜高ミツル
俯いた頭に手のひらで触れる。
夜高ミツル
撫で……
真城朔
撫でられ……
真城朔
ても、落ち込みがあるためか
真城朔
手のひらに頭を寄せることもなかなかできず……
夜高ミツル
「D7もそんなに俺たちを探してる感じじゃないらしいし」
夜高ミツル
乾咲さん情報。
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
それはそうっぽいな……というのは……
真城朔
なんとなく察している。
夜高ミツル
真城に関する資料が相当めちゃくちゃにされたようで……
夜高ミツル
もし手配がかかってたら、札幌にあんなに長くは住めなかった。
真城朔
責任者らしい須藤があんなことになったり……
真城朔
「……乾咲、さん」
真城朔
「たちにも」
真城朔
「挨拶……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
たまに連絡は取り合っているものの……
夜高ミツル
「改めてちゃんとお礼言いたいな」
真城朔
「彩花」
真城朔
「も……」
真城朔
LINEやたまに通話はしてるけど……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
とはいえまだ躊躇いの気配がある。
真城朔
決断をする、というのが
真城朔
とにかく恐ろしいのか……
真城朔
いつもミツルに決めてもらってばかりの悪癖。
夜高ミツル
そっと頭を撫でている。
真城朔
ちら、と顔色を窺うように
真城朔
ミツルを向く。
夜高ミツル
「真城の家も、何か持っていきたいものとか……」
夜高ミツル
「は……」
夜高ミツル
「難しいか……」
真城朔
「…………」
真城朔
「今」
真城朔
「どうなってるか」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
視線を落とす。
真城朔
「何か」
真城朔
「変わってる、かも」
真城朔
「しれない」
真城朔
「けど」
真城朔
「そうじゃないかも……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「行ってみないと、わかんないか……」
真城朔
控えめに頷く。
真城朔
何もかもがあの夜に静止したままだった、真城の生家。
真城朔
それを最後に見たのも真城ではなくミツルの方だ。
夜高ミツル
ミツルが見た光景と、真城が知っているそれはおそらく寸分の違いもない。
夜高ミツル
だけど、それが果たして今もそうかは……
真城朔
真城にわからない以上、ミツルにもわからないことで……
真城朔
真城はテーブルの下で自らの手を触れ合わせている。
真城朔
どこか落ち着かない様子で指先を絡め、摺り合わせ……
真城朔
背を丸めている。
夜高ミツル
肩を寄せる。
夜高ミツル
「……行ってみるか?」
真城朔
寄せられた肩に、
真城朔
一瞬身を強張らせてから、ゆっくりと頬を寄せる。
真城朔
「…………」
真城朔
無言のまま、小さく頷いた。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
寄せられた頭をまた撫でる。
真城朔
なでられ……
真城朔
おずおずとミツルに体重を預けていく……
夜高ミツル
「ここを逃したら、また来年か、もっと先か……ってなるしな」
真城朔
「うん……」
真城朔
ためらいがちに頷いている。
真城朔
「家、見て」
真城朔
「挨拶して……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「それくらいで……」
真城朔
すぐ出ていく感じで……と、ぼそぼそと……
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
積極的に追われていないとはいえ、見つからないに越したことはない……
真城朔
D7じゃなくともミツルのことを探している人はいるし……
夜高ミツル
そっちにも見つかりたくはない……
夜高ミツル
「どっかでいい土産があったら、皆川さんたちに買っていこう」
真城朔
「……うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「もちそうなやつ……」
真城朔
できればかさばらなくて……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ひっくり返ってぐちゃぐちゃになったりもしない……
真城朔
「……いいの」
真城朔
「あったら……」
夜高ミツル
「ここもちょっと見ていくか」
夜高ミツル
「なんか色々あったし」
真城朔
こく……
真城朔
「ここ」
真城朔
「おっきい……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
通りすがりになんか色々売ってる……ってなってた。
真城朔
道の駅あるあるのお土産品コーナーが……
真城朔
「……もう」
真城朔
「行く?」
真城朔
食べ終わったし……
真城朔
結構席占拠してる……
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
空きはちらほらあるとはいえ……
夜高ミツル
あんまり長居するものではない。
夜高ミツル
「行こうか」
真城朔
「ん」