2021/10/03 夜
真城朔
部屋の入口で立ち尽くして、ミツルの背中に張り付いている。
真城朔
ラブホは別に初めてじゃないし色々あるのは知ってるけど……
真城朔
佐渡に渡り、色々と満喫して新潟に戻り、とりあえず一泊してから出ようという予定だったのだが。
真城朔
運の悪いことに駅周辺のホテルがどこも埋まってしまっていた。
真城朔
迷いつつもネカフェよりはマシだろうと、たまたま見つけたラブホテルの空き室に入れてもらったのだが……
夜高ミツル
ミツルの方はラブホ自体が初めてというのもあり……
真城朔
目をしぱしぱさせながらハンガーにかけて……
夜高ミツル
なんかもうそういうアトラクションみたいだ……
真城朔
自分が動くと鏡に何人も映った自分が動くのが見えて……
真城朔
とりあえず普通のホテルに泊まるのと同じくらいにはくつろぐ準備を済ませ……
夜高ミツル
マジで端的に言って落ち着かない…………
真城朔
くっついている自分たちの姿も全面鏡にばっちり映っている。
夜高ミツル
視線を上げると目の前でちらちらちらちら……
夜高ミツル
寝転んだら天井にも自分たちが映るわけで……
真城朔
言ってから、お風呂も鏡張りだったらどうしよう……になっている。
真城朔
ミツルの背中にひっついて、服の裾を握っています。
夜高ミツル
廊下や扉もそうだったけど、ここも結構年季入ってそうな感じ。
真城朔
というわけで、空間が許したので二人でお風呂に。
真城朔
まあ無理ではないくらいのサイズの浴槽で……
夜高ミツル
せっかくなので湯を張って二人で入ることにした。
真城朔
こうしているとまあ普通のちょっと風呂が広めのビシネスホテルって感じ。
夜高ミツル
後ろから真城を抱き込んでいると、やっとちょっと気が抜けてくる。
真城朔
体勢をちょっと崩してミツルの胸に背を預ける。
真城朔
色々あったけど、とりあえずスタンダードな感じだったヒノキの入浴剤。
真城朔
夕方くらいに佐渡から帰ってきて、そのままとりあえず夕飯食べちゃって……
夜高ミツル
そこから探したけど空いてるビジホがなく……
真城朔
俯く頭が水に濡れて髪がぺったりまんまるに。
真城朔
湯に温められ抱きしめられて、白い肌が薄紅色に赤らんでいる。
夜高ミツル
ぺったりした頭に、後ろから頭を寄せている。
真城朔
この風呂場を出るとあの鏡張りの部屋が待っていると思うと……
夜高ミツル
かなり避難してきたみたいになっている……
真城朔
ミツルに抱きすくめられてくっついているのは嬉しいので、あんまり気にならない。
夜高ミツル
ミツルも真城とくっついていられるのは嬉しい。
真城朔
そんな感じで、いつもよりも長々と浴槽に浸かってしまっている。
夜高ミツル
佐渡観光してきてまあまあ歩いたりもしたし……
真城朔
今日は天気も良かったし、そういう方向ではまあまあ疲れもした。
真城朔
抱き留められて安心してぼやぼやぬくぬく……
夜高ミツル
出たくないけどそういうわけにもいかないんだよな……
夜高ミツル
どっちにしろこのうにゃうにゃで風呂につかり続けるわけにもいかないし……
夜高ミツル
髪をざっと拭いて、身体を拭き、改めて髪をタオルドライして……
真城朔
むにゃむにゃとミツルのいたれりつくせりを受け入れている。
夜高ミツル
自分もバスローブを羽織って、髪をタオルでわしゃわしゃしている。
真城朔
ミツルの髪をタオルの上からわしゃわしゃと……
真城朔
いつまでもこんな蒸し蒸しした部屋でバスローブ姿で突っ立っているわけにはいかないので……
夜高ミツル
ベッドを得るにはあの部屋に戻らなければ……
夜高ミツル
そうしていても仕方ないので、諦めてドアノブに手をかける。
真城朔
風呂上がりほかほかバスローブ姿の自分たちの姿が全面に張られた鏡に……
真城朔
いかにもなカップルの自分たちを見せつけられている。
夜高ミツル
真城は視力いい分余計にキツいだろうな……。
夜高ミツル
目を閉じた気配に、背後の真城の手を取る。
夜高ミツル
途中部屋を見回して、鏡台の前にドライヤーを見つける。
夜高ミツル
そこまで真城を導いて、椅子を引き出して真城の後ろに設置し座らせる。
夜高ミツル
「ドライヤーするから、そのまま目閉じてて」
真城朔
なんとなくなるべくかしこまってしまっている。
夜高ミツル
真城が頷いたりミツルがドライヤーを取り出したりするのも、やっぱり全部鏡に映っている……
夜高ミツル
鏡台の前だからそりゃそうではあるのだが……
夜高ミツル
よそのカップルはこの部屋でできるのか……?
夜高ミツル
そんな疑問を感じつつ、ドライヤーのスイッチを入れる。
真城朔
部屋がある以上は需要があるということなのかもしれないが……
夜高ミツル
ぶおー……と温風の吹く音はちょっとだけ落ち着く。
夜高ミツル
年季入ってる建物だけあって、ドライヤーもちょっと古め。
夜高ミツル
できるだけ鏡は無視して、目の前の真城の頭に意識を集中する。
夜高ミツル
無視しようと思ってできるものではなかった……
夜高ミツル
真城ほどではなくても、ミツルも視界に映る動くものには敏感になっている。
夜高ミツル
その背後でドライヤーをかける自分も……
夜高ミツル
それでもいつもどおりのことをやると、ちょっとは落ち着く……
真城朔
いつものようにドライヤーに乾かされ、長めの髪がさらさらと揺れている。
夜高ミツル
いつものようにそれに指を通して風を当て……
夜高ミツル
よく見たらベッドの横になんか輪っかみたいなのが垂れてる。
夜高ミツル
一旦手を離して、腰と膝下に手を回し……
真城朔
なんとなく触れられる感触からミツルに合わせて足を上げる。
真城朔
目を閉じたままミツルの方を窺うような仕草をする。
夜高ミツル
枕元のスイッチでぱちぱちと部屋の電気を消して、自分も真城の隣に転がる。
真城朔
寝転がったミツルの身体にぴったりとくっつく。
夜高ミツル
気持ちいつもより上まで覆うように……。
夜高ミツル
暗い部屋で布団をひっ被って、さすがにミツルの目には何も見えない。
夜高ミツル
真っ暗な中で形を確かめるように、真城の背中に触れている。
真城朔
安心したように身体を擦り寄せてくる温もりがある。
真城朔
酸素が薄く、少し息苦しさのある布団の密室の中で、小さく漏らされる吐息の熱。
真城朔
乾かしたばかりの細く柔らかい髪の滑らかな感触。
真城朔
より密着した暗闇の中で、小さな呼吸の音がする。
真城朔
体温と息遣いに、互いの存在を確認している。
夜高ミツル
余計なものは全部布団の外に追いやって、ただ二人で身を寄せ合っていた。
真城朔
びっくりした自分の顔も鏡にいっぱい映っている。
夜高ミツル
布団を押さえようとしたけど間に合わなかった。
夜高ミツル
そんな様子も全部ちらっちら視界に入ってくる。
夜高ミツル
「…………さっさと準備して出るか……」
夜高ミツル
なんかルームサービスもあるらしいけど……
真城朔
頷いたはいいものの、どうしたものかミツルの方を向く。
夜高ミツル
その手を取って、真城にもベッドを降りさせる。
真城朔
お風呂がこんなに落ち着く空間になったことない。
夜高ミツル
ベッドがあんなに落ち着かないこともなかった。
真城朔
着替えも終えて、おずおずとミツルに手を差し出す。
夜高ミツル
目を閉じたのを見て、ゆっくりと歩き出す。
真城朔
手を繋ぐ二人の姿が映り込みまくっている……
真城朔
身支度は済んでいるので風呂上がりよりはマシな光景。
夜高ミツル
俯いてなるべく鏡から目を逸らしつつ出口へ……
夜高ミツル
着替えを取る時に、荷物はまとめてドアの傍に置いておいた。
夜高ミツル
鏡台の前の椅子を取ってすぐ戻ってくる。
真城朔
してもらい放題なのでややおろおろになっている。
夜高ミツル
持ってきた椅子を据えて、そこに真城を座らせる。
真城朔
目を閉じたまま、見えないなりに顔だけ上げた。
真城朔
ミツルのいるだろう方向を向いておろ……になっている……
夜高ミツル
持ち上げてもらった足にスニーカーを履かせる。
夜高ミツル
真城を座らせたまま、今度は自分も靴を履き……
夜高ミツル
「真城にしてやれることがあるのは嬉しいよ」
真城朔
目を閉じたまま、膝の上で指をすり合わせている。
夜高ミツル
「まあ、ホテル探しはできるだけ早めにってことで……」
夜高ミツル
二人分の荷物を持って、腕に引っ掛ける。
真城朔
俺も持たなきゃいけないんじゃと思いつつ……
夜高ミツル
ご丁寧に扉まで鏡が張ってあるので、そんな姿も目の前に……。
夜高ミツル
廊下には鏡がなくて最高! という気持ちになる。
真城朔
というわけで二人朝食を求めて駅前のロイホに。
夜高ミツル
同じくハンバーグ膳で、こちらはご飯普通盛り。
真城朔
お肉が大勢を占めるメニューなので、ご飯を減らしてもらえればまあまあイケるかも……という感じ。
真城朔
話題の途切れた沈黙の隙間に、ぽつりと漏らす。
夜高ミツル
入り口で部屋の写真を見て選べるようになってはいたんだけど、昨夜はあの部屋しか空いてなかったので……
夜高ミツル
なんか派手な色がいっぱいあった記憶だけがある。
夜高ミツル
「なんか、あそこは他の部屋もすごそうだったな……」
真城朔
全部ちかちかした部屋だから写真だけではぱっと見の派手さはそんなに大差がなかった。
夜高ミツル
鏡の部屋は、電気を消しても電化製品のちょっとした光なんかが映りこんで……
真城朔
真城は電気消しても内装見えるけど、まあ鏡よりはマシ。
夜高ミツル
「それか、群馬の方に行くかかな……?」
真城朔
他人の目があるとはいえ、鏡張りの部屋よりかは随分と落ち着く。
夜高ミツル
内装も落ちついた色でまとまっていて……
真城朔
あの部屋を出た直後にファーストフード系のチェーンに入る気にはならなかった……
真城朔
旅暮らしをしつつも、どこまでも平穏な日々を求めてしまう二人なのだった。